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六九段 無意識のうちに欲が積もっていたんだろうか
しおりを挟む5000ジュエルをみんなに分配し終わり、俺は例の簡易ベッドに横たわった。オークションが終わるまであと二日だが、多分もう厳しいだろうな。1450ジュエル貯まったものの、即決額まであと1550ジュエルも足りないし……。
『シギル兄さん……』
『……ん?』
リセスの心の声は、いつものように静かではあったがなんとなく怒気を孕んでいるように聞こえた。
『どうしてお金を分配しちゃうの?』
『……そりゃ、俺だけの金じゃないからだよ。パーティーってのは公平にやるべきなんだ。ラユルはもちろん、アシェリもリリムもティアもよくやってくれてるし……。じゃなきゃ俺が以前いたパーティーみたいになってしまう』
『ワンマンがいたんだね』
『ああ。ルファスっていういけ好かない剣士野郎だ。イケメンだし努力家だし才能もあるが、とにかく効率主義でな』
『……その人が入ってからパーティーは変わったの?』
『……正確には、ルファスが強くなってからだな』
『なるほど。自惚れてるんだね』
『そんなところだ。何もかも上手くいってるときほど人間性が見えるんだよ。驕れる者久しからず。いつかこの手でそれを思い知らせてやるさ』
『うん』
『……ただ、昔のあいつは本当に素直でいいやつに見えたんだ。今思えば、甘やかしすぎたのかもしれない。俺は説教とか嫌いだから、野放しにするどころか優しくしてたらいつの間にか増長しやがった……』
『んー……そういう人は接し方とかあまり関係ないんじゃない?』
『……三つ子の魂百までってことか?』
『そんな感じかな。とにかくシギル兄さんが責任を感じることはないと思うよ。そういう人はずっと自分本位で生きてきたんだから相手とかあんまり関係ないと思う』
『……なるほど。俺がいようがいまいがいずれ増長していた、と……』
『うん』
リセスは殺し屋レイドとして色んなやつを殺してきたんだろうが、それだけ様々な人間を観察してきたってことでもあるんだよな。だから相手の癖や本性を見抜く術を持っているわけだし、説得力は大いにあると感じた。
『……今回だけはシギル兄さんだけのお金ってことにしたら? 瞑想の杖、売り切れちゃうかもよ』
『……そうなったらそうなったでいいかな。仕方ない。みんなで出したレアアイテムの収益を独り占めするよりはマシだから……』
『シギル兄さんって、本当に真面目なんだね』
『……そうか? 俺は怒らせると怖いやつだよ』
『私もそう思う』
『……同意が早かったな』
『ふふ。ずっと一緒だからね』
『……そうだな、ある意味、恋人よりずっと近くにいるのかもな』
『そんなこと言ってると奥さんが嫉妬しちゃうよ』
『リセス……』
『眠くなってきたから、そろそろ寝るね』
『ああ、おやすみ……』
『おやすみ』
待てば海路の日和ありというが、欲が出すぎると結果がダメだったときに落胆も大きいしあまり期待しないようにしよう。
できれば瞑想の杖を買ってから【ディバインクロス】や髭面の殺し屋と対峙したかったが、俺には最強のスキル《イリーガルスペル》があるし、レイドという最高の相棒もいるし、威力なら誰にも負けない一番弟子のラユルまでいる。
アシェリ、リリム、ティアも最早ムードメーカーとして欠かせないし、アローネという心強いメンバーも加わった。今のままでもきっと大丈夫なはずだ。
明日起きたらまずオークションをちらっと確認して、そのあと二五階層を隈なく探すとするかな。
◆◆◆
「……」
言葉が出なかった。朝起きてすぐオークションの会場に運び、巨大掲示板に載っているレアアイテムのリストを確認したら、瞑想の杖が売り切れになっていた。しかも即決だった。覚悟していたこととはいえ、ショックが大きい。期待しないようにしていたつもりだったが、無意識のうちに欲が積もっていたんだろうか……。
「――シギルお兄ちゃん!」
「あ……」
セリスがいつものように元気よく笑いながら駆け寄ってきた。俺も笑顔で返したつもりだったが、彼女に比べると幾分不自然なものになってしまったと思う。
「セリス、見送りに来てくれたのか? でも、まだダンジョンに行く時間じゃないぞ」
「違うの。あのね、溜まり場でみんな待ってるって!」
「……え?」
メモリーフォンを確認してみたら、確かに例の溜まり場にアローネを除いてみんないる。遅刻魔のアシェリまで……。まだ出発予定時刻の午前十時まで1時間以上あるっていうのに、妙だな……。
「早く早く!」
「ちょ、ちょっと……」
セリスに引っ張られる形で目的地へ向かう。何か変だな。悪戯でもするつもりなんだろうか? あるいはラユルの超重大発表とか?
「――みんな、シギルお兄ちゃんを連れてきたよー!」
「ふわあ……シギルさん、待ちくたびれちゃったよ!」
「シギルどの、遅いですぞ……」
「シギル様が起きるのが遅くて、私たち半分寝ちゃってましたよ……」
「ウニャー」
「……」
みんな言葉とは裏腹にニヤニヤしちゃって、なんなんだこの異様な空気は……。まさか、ここでラユルと俺の結婚式でも挙げるつもりじゃないだろうな。ラユルだけ個室に入ってるっぽいしありうる。
「――じゃじゃーん!」
ラユルが出てきたが、格好はいつものままだった。てっきりウエディングドレスに見立てた白い布でも被って登場するのかと思ってたのに。じゃあただの重大発表なのか。メモリーフォンをこっちに見せてるし、まさか、また新しいスキルを覚えた……?
「師匠ぉ! これを見てください!」
「……あ……」
ラユルのメモリーフォンにはアイテム欄が表示されていて、そこにあったのは売り切れたはずの瞑想の杖だった。
「ま、まさか……」
「はい、昨日師匠から分配されたお金を出し合ってこれを買ったんです!」
「……な、なんで俺が欲しいのがわかったんだ……?」
「セリスさんから聞きました!」
『……リセス、言ったのか』
『うん。シギル兄さんが寝たあと、体を動かしてセリスに頼んだんだ。ごめんね、勝手なことしちゃって……』
『いや、嬉しいよ。リセス、ありがとう……』
『よかった……』
「……ラユル、アシェリ、リリム、ティア、みんなありがとう……。ありがたく受け取るよ」
みんな早起きしてこれを買ってくれたんだろう。俺を驚かすために。喜ばせるために。みんな眠そうだったものの、顔を見合わせて笑っていた。俺は泣くのを必死に我慢してたが……。
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