転移術士の成り上がり

名無し

文字の大きさ
上 下
6 / 140

六段 ここを離れたくないと体が言っている

しおりを挟む

 ……今でも思い出す。

 三年ほど前、ソロに飽きた俺は拾ってくれるパーティーを募集したんだ。でも全然連絡が来なくて、もう諦めかけてた頃に声を掛けてくれたのがグリフだったっけ。がっしりしてるし穏やかだしで、頼りがいのありそうな男だと思ったな。

 次に入ってきたのがエルジェだった。最初の頃はカフェに連れて行っても、まともにこっちの目さえ見てくれないほど恥ずかしがっていた。グリフなんてもう、大人しい子は好みのタイプだからって終始浮ついてたな。俺は元気な子が好きだからちょっとがっかりしたんだけど、今考えるとエルジェはただ初対面だから緊張してただけっぽい……。

 それ以降のメンバーはなかなか集まらなくて、半年くらい三人だけでダンジョンに潜ってたんだ。その頃の狩り方が酷いもんで、みんな初心者なもんだからすぐやられそうになってポーションがぶ飲みしながら逃げ回ってた。

 ダンジョンの一階層とホール内の道具屋を行ったり来たり。それで金がすぐ底をついてしまって、とうとうみんなでバイトを始めちゃったんだよな。

 エルジェはカフェでウェイトレス、グリフは道具屋の倉庫番。んで俺はホールの外でミルク配達の仕事だった。スキル制限により町中でテレポートは使えないが、転送してくれる端末が幾つかあるのでそこまで苦じゃなかった。

 凄く忙しくて目が回りそうになるときもあったが、何故だか全然嫌じゃなかった。グリフの優柔不断さやエルジェの我儘ぶりに振り回されながらも、なんていうか……気恥ずかしいが希望みたいなものがキラキラと浮かんでて、少しずつでも良い未来へと確実に進んでるような気がしていたんだ。

 それから一年くらいして、ようやく四階層のボスを倒し、五階層の地を踏んだ頃だ。……よく覚えている。じめじめしてて、雨がこれでもかと毎日のように降り続いていたあの頃……物理による突破力が足りないということで剣士か拳闘士モンクを募集した結果、ルファスを新しいメンバーとして迎えることになった。

 こいつが物凄く臆病で、ダンジョンでもモンスターから逃げてばかりだったもんだから、剣士じゃなくて回復術士になったほうがいいんじゃないのってエルジェに呆れながら言われて、涙目になってたくらいだ。

 それでも雨でずぶ濡れになりながら町の外でずっと剣を振っていて、お前なら絶対強くなれるって俺が慰めたら、照れたように笑いながらこう返されたんだ。『ありがとう、シギル先輩』って……。

 それからのルファスの成長は目覚ましいものがあって、たった一年と数カ月で大黒柱になった。《双性剣》の力で七階層のボスを倒したあたりで、ようやく待望の回復術士、ビレントがメンバーに加わった。

 回復術士はとにかく人気職で、パーティー間で取り合いになるほどだったから、本当に嬉しかったんだ。もうみんな大喜びで、その場でハイタッチし合ったくらいだったからな。グリフがここぞとばかりにエルジェに抱き付いたけどビンタされて、死ぬほど笑ったっけ。

 ほかにも、数えきれないくらい、本当に……思い出が沢山あるんだ。

「……」

 いかんいかん、一瞬泣きそうになってしまった。もう終わったことだ。忘れろ、俺……。

 ホール一階に下りてしばらく歩くと溜まり場が見えたきた。いつもの場所だ。まだ午前十時の鐘が鳴ってないっていうのに、みんな揃ってる。

 ……もしかしたら、みんな俺を待っていてくれたんだろうか。許してくれるんだろうか……。

「おはよう」
「……おはよう、シギルさん」

 挨拶を返してくれたのは、陰鬱そうな顔をしたエルジェだけだった。

 グリフは気まずそうにこっちをちらっと見ただけで、ベンチに座るルファスを恐れてか何も言わなかった。畏怖の対象である剣士様はだるそうに天井を見上げてて、こっちを見ようともしない。ビレントなんて、女の子の番号でも手に入れたのかメモリーフォンに夢中の様子だ。

 ……どう見ても俺を惜しんでる空気じゃないな、エルジェを除いて……。

「……あ、えっと……みんなに……えっと……あれ……?」

 別れの言葉が出てこない。ここを離れたくないと体が言っているかのように。

「う……」

 思わず目頭を押さえてしまった。クッソ、泣くものか。泣いてたまるか……。

「おい、そろそろ行くぞ。遅れを取り戻さないとな」
「あ、うん」
「りょっ、了解!」
「……え、ちょっと待ってよ! ……シギルさん……」
「い、いいんだ、見ての通りだよ。ここを離れても惜しくないくらい、嫌われちゃってるんだし……」
「で、でも……」

 俺は背を向けてしまった。泣いてるのがバレバレで辛い……。

「おい、何してんだ、エルジェ、置いてくぞ!」
「……ごめんなさい」
「……うぐ」

 エルジェの足音が遠ざかる中、涙がとめどなく溢れ出てきた。拭っても拭っても……。別れの挨拶一つ言えないなんて、俺ってこんなに弱虫だったのか……。

 ――あれ? 何か落ちてると思ったら……このおしゃれな黄色いリボン、確かエルジェの……。

 そうだ、初めて出会った頃につけてたやつだ。あれで長い髪を一本結びにしていた。

 何も言われなかったが、忘れ形見みたいなものかな。あるいはただの落としものとか。もしそうなら届けてやりたい。

 ……そうだな、この際だから、さよならの代わりに一言、今までありがとうって、エルジェだけでなくみんなに伝えにいくか。俺が嫌われていたのも、俺自身にも原因があったんだろうし、このままじゃ後味も悪いしな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~

名無し
ファンタジー
この世界では、誰もが十歳になると天啓を得て様々なジョブが与えられる。 十六歳の少年アルファは、天啓を受けてからずっと【清掃師】という収集品を拾う以外に能がないジョブカーストの最底辺であった。 あるとき彼はパーティーの一員として迷宮山へ向かうが、味方の嫌がらせを受けて特殊な自然現象に巻き込まれてしまう。 山麓のボロ小屋で目覚めた彼は、ハンマーを持った少女たちに囲まれていた。 いずれも伝説のドワーフ一族で、最高の鍛冶師でもある彼女らの指示に従うことでアルファの清掃能力は精錬され、超絶スキル【一掃】を得る。それは自分の痛みであったり相手のパワーや能力であったりと、目に見えないものまで払うことができる神スキルだった。 最強となったアルファは、人類未踏峰の山々へと挑むことになる。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...