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第七七回 廃屋

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「おい、着いたぞ!」

「う……?」

 いつの間にか眠っていたらしい。また男たちに乱暴に荷台から外に引きずり降ろされる格好になった。急に明るい場所に放り出されて眩しいしあっちこっち痛いしで最悪だ。

 しばらくすると、大分目が慣れてきたのか周囲の状況がわかるようになってきた。アトリたちがいないし、別々にどこかに連れていかれるっぽいな。

 それにしても、ここはどこなんだ……。

 左右には蔦に覆われた今にも崩れそうな家々が立ち並んでいて、俺たちは雑草だらけの荒れた道を歩かされていた。どこも人が住んでるとは思えないし廃墟っぽいな。どこからともなく聞こえてきた鳥たちの囀りが、男たちの下品な笑い声で掻き消される。

「ウヒヒッ……今回は大物が釣れたな」

「ああ……なんせあのブルーオーガが従ってた勇者だからな」

「今夜はとびっきり旨い酒が飲めそうだぜ」

「「「ガハハッ!」」」

「……」

 男たちの話を聞く限りだと、上質の勇者を探してたみたいな感じだな。ってことは、勇者を集めて商品として誰かに売りに出すつもりなんだろうか。

 確か、真の勇者に選ばれれば都が一つ貰えるみたいだし、大金を払ってでも有力な勇者を欲しがるやつがいてもなんらおかしくないか。その取引場所としてこういう廃墟を選ぶのも合理性がある。それより、心配なのはアトリたちのほうだ。妙なことをされてなきゃいいが……。

「――入れ!」

「ぐっ!」

 尻を蹴られて、ぼろい納屋のようなところに押し込まれた。

「いいか? 大人しくしてろよ。さもないと、てめーの仲間が痛い目に遭うんだからよお!」

 納屋全体が揺れるほど、男によって乱暴にドアが閉められる。腹が立つが、あいつに盾突いただけでも《因縁の刻印》によって仲間が酷い目に遭うと考えれば逆らえない。《ダークフォレスト》なら直接攻撃するわけじゃないから大丈夫だとは思うが、まだレベル1のせいか長くは持たない上に《束縛の刻印》があるからどうせ逃げられないしな……。

「……」

 不気味な気配を背中に感じて振り返ると、十人くらいの勇者らしき者たちがバラバラに座り、処刑待ちの罪人のように物憂げな眼差しを俺に向けてきた。おそらく、みんな俺と同じように呪術を仕込まれた挙句仲間から引き剥がされ、こうして売り物となる運命に絶望してしまってるんだろう……。

「どうも……」

 納屋の隙間から慰めるかのように夕陽が射し込んでくる中、なるべく彼らを刺激しないように隅のほうに座る。

「シャイル、いるか?」

「……」

 足元の影にいるのはわかってるが、反応がない。どうやら寝てるっぽいな。会話できなくて寂しいが、色んなことがあって疲れたんだろうし無理に起こしたくはない。

 ……これからどうすりゃいいんだろう。見張りの男に逆らうわけにもいかないし、逃げることも戦うこともできない。さらに人質を取られている始末……まさに八方塞がりだった。みんな既に俺に興味をなくした様子でうずくまっている。このままじゃ、いずれ俺も彼らのように無気力化してしまうのかもしれない……。

 っと、いかんいかん。陰鬱な空気に引きずられているようではダメだ。こんなときこそ、自分からなんとかしてやるんだという気持ちが大事だろう。みんなああ見えて勇者なんだし、まだ諦めてない可能性だってある。思い切って誰かに聞いてみるか……。

「ちょいとそこの兄さん、いいすか?」

「……」

 ちょうど立ち上がったときだった。誰かが俺のほうに歩いてきた。灰色のローブを着た、顎鬚の濃い垂れ目の男だ。多分、ジョブは呪術師で俺よりは若い。

「やたらと貫禄のある勇者さんが連れてこられたと思ったら、そのローブの色が気になって……。ジョブはなんなのかなあって」

「反魔師っていうんだ」

「……へ? 聞いたこともねえっす。もしかして、レア職とか……?」

「そんなもんかな」

「そりゃすげえや! あっしより年上っぽいし、兄貴って呼ばせてもらってもいいっすか!?」

「あ、ああ」

「どうも! あっし、ソースケって名前でしてねえ。兄貴は?」

「宮下光蔵」

「な、なんか渋いお名前! でも、どっかで聞いたことあるような……」

「ああ。某歌手か」

「それそれっ」

 俺たちはしばらく某歌手について話を弾ませた。日本人同士でこういう会話をしてると、現実に帰ったような感じがしてなんか落ち着くな。きっとソースケもそう思って声をかけてきたんだろう……っと、脱線しすぎたな。戦わなきゃ、異世界と。

「ちょっとソースケに聞きたいことがあるんだが」

「へい、なんすか?」

「俺たち、これからどうなるんだ?」

「……あ、教えてもらえなかったみたいっすねえ。もう明日になればわかることだし、話す必要もないってことかもしれねえっすけど……」

「明日になればわかる? どういうことなんだ?」

「明日の朝には、あっしら売られるんすよ。ドナドナっす……」

「ドナドナ……」

 売られるのは予想できていたことだが、明日の朝とは。時間さえもほとんど残ってないっていうのか……。
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