75 / 110
第七七回 廃屋
しおりを挟む「おい、着いたぞ!」
「う……?」
いつの間にか眠っていたらしい。また男たちに乱暴に荷台から外に引きずり降ろされる格好になった。急に明るい場所に放り出されて眩しいしあっちこっち痛いしで最悪だ。
しばらくすると、大分目が慣れてきたのか周囲の状況がわかるようになってきた。アトリたちがいないし、別々にどこかに連れていかれるっぽいな。
それにしても、ここはどこなんだ……。
左右には蔦に覆われた今にも崩れそうな家々が立ち並んでいて、俺たちは雑草だらけの荒れた道を歩かされていた。どこも人が住んでるとは思えないし廃墟っぽいな。どこからともなく聞こえてきた鳥たちの囀りが、男たちの下品な笑い声で掻き消される。
「ウヒヒッ……今回は大物が釣れたな」
「ああ……なんせあのブルーオーガが従ってた勇者だからな」
「今夜はとびっきり旨い酒が飲めそうだぜ」
「「「ガハハッ!」」」
「……」
男たちの話を聞く限りだと、上質の勇者を探してたみたいな感じだな。ってことは、勇者を集めて商品として誰かに売りに出すつもりなんだろうか。
確か、真の勇者に選ばれれば都が一つ貰えるみたいだし、大金を払ってでも有力な勇者を欲しがるやつがいてもなんらおかしくないか。その取引場所としてこういう廃墟を選ぶのも合理性がある。それより、心配なのはアトリたちのほうだ。妙なことをされてなきゃいいが……。
「――入れ!」
「ぐっ!」
尻を蹴られて、ぼろい納屋のようなところに押し込まれた。
「いいか? 大人しくしてろよ。さもないと、てめーの仲間が痛い目に遭うんだからよお!」
納屋全体が揺れるほど、男によって乱暴にドアが閉められる。腹が立つが、あいつに盾突いただけでも《因縁の刻印》によって仲間が酷い目に遭うと考えれば逆らえない。《ダークフォレスト》なら直接攻撃するわけじゃないから大丈夫だとは思うが、まだレベル1のせいか長くは持たない上に《束縛の刻印》があるからどうせ逃げられないしな……。
「……」
不気味な気配を背中に感じて振り返ると、十人くらいの勇者らしき者たちがバラバラに座り、処刑待ちの罪人のように物憂げな眼差しを俺に向けてきた。おそらく、みんな俺と同じように呪術を仕込まれた挙句仲間から引き剥がされ、こうして売り物となる運命に絶望してしまってるんだろう……。
「どうも……」
納屋の隙間から慰めるかのように夕陽が射し込んでくる中、なるべく彼らを刺激しないように隅のほうに座る。
「シャイル、いるか?」
「……」
足元の影にいるのはわかってるが、反応がない。どうやら寝てるっぽいな。会話できなくて寂しいが、色んなことがあって疲れたんだろうし無理に起こしたくはない。
……これからどうすりゃいいんだろう。見張りの男に逆らうわけにもいかないし、逃げることも戦うこともできない。さらに人質を取られている始末……まさに八方塞がりだった。みんな既に俺に興味をなくした様子でうずくまっている。このままじゃ、いずれ俺も彼らのように無気力化してしまうのかもしれない……。
っと、いかんいかん。陰鬱な空気に引きずられているようではダメだ。こんなときこそ、自分からなんとかしてやるんだという気持ちが大事だろう。みんなああ見えて勇者なんだし、まだ諦めてない可能性だってある。思い切って誰かに聞いてみるか……。
「ちょいとそこの兄さん、いいすか?」
「……」
ちょうど立ち上がったときだった。誰かが俺のほうに歩いてきた。灰色のローブを着た、顎鬚の濃い垂れ目の男だ。多分、ジョブは呪術師で俺よりは若い。
「やたらと貫禄のある勇者さんが連れてこられたと思ったら、そのローブの色が気になって……。ジョブはなんなのかなあって」
「反魔師っていうんだ」
「……へ? 聞いたこともねえっす。もしかして、レア職とか……?」
「そんなもんかな」
「そりゃすげえや! あっしより年上っぽいし、兄貴って呼ばせてもらってもいいっすか!?」
「あ、ああ」
「どうも! あっし、ソースケって名前でしてねえ。兄貴は?」
「宮下光蔵」
「な、なんか渋いお名前! でも、どっかで聞いたことあるような……」
「ああ。某歌手か」
「それそれっ」
俺たちはしばらく某歌手について話を弾ませた。日本人同士でこういう会話をしてると、現実に帰ったような感じがしてなんか落ち着くな。きっとソースケもそう思って声をかけてきたんだろう……っと、脱線しすぎたな。戦わなきゃ、異世界と。
「ちょっとソースケに聞きたいことがあるんだが」
「へい、なんすか?」
「俺たち、これからどうなるんだ?」
「……あ、教えてもらえなかったみたいっすねえ。もう明日になればわかることだし、話す必要もないってことかもしれねえっすけど……」
「明日になればわかる? どういうことなんだ?」
「明日の朝には、あっしら売られるんすよ。ドナドナっす……」
「ドナドナ……」
売られるのは予想できていたことだが、明日の朝とは。時間さえもほとんど残ってないっていうのか……。
0
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる
シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。
※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。
※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。
俺の名はグレイズ。
鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。
ジョブは商人だ。
そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。
だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。
そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。
理由は『巷で流行している』かららしい。
そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。
まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。
まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。
表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。
そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。
一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。
俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。
その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。
本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる