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第八回 将来有望

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 俺たちが次に向かったのは武器屋『デンジャラス・ハウス』だ。異世界言語とかはなくて、オーニングテントにはただそう書かれていた。インパクトのある店名だと思いつつ中に入る。

 店内はほどよく薄暗くて、壁に掛かった武器だけがよく見えるようにブラケットの照明を当てていた。ざっと見ただけでも、色んな種類のものが見られる。魔法屋と違って、ここは普通に値札があった。

「いらっしゃい」

 中央に四方がほぼ囲まれた腰高のカウンターがあり、そこから店主らしきエプロン姿の爺さんが出てきた。70歳くらいに見えるが、かなりガタイがいいな。鍛冶屋も兼ねてるのか、顔が赤くてエプロンも炭で汚れている。眼光もやたらと鋭いし、ここも店名に偽りがないと感じる……。

「お客さんはどんなのが欲しいのかね」

「えっと……」

 騎士のアトリも若干気圧されてる様子なのがわかる。なんというか、雰囲気だけで凄く強い人だとすぐ気付かされるタイプだ。

「魔法職専用の杖が欲しいんです」

「そうか。杖は右奥のほうにあるから、じっくり見るといい」

「「はい」」

「――これとかいいですね、あと、これも……」

 様々な形状のものが並ぶ杖の展示場前、アトリが夢中になって見ている。

 先端に水晶やら赤い宝石が埋め込まれた高価なものから、全部木製で先が太いだけの安価なものまで色んなのがあるな。効果にしても、名称や値札の下に簡易な説明文があり、魔法の威力が上がるものや反動による遅延(ディレイ)を減少させるもの、術の成功率を上げるもの、効果時間を上げるもの、魔法の立ち上がりが早くなるものまで実に様々だ。髑髏が睨みを利かせる杖が威力UPで天使が微笑む杖が成功率UPなことから、効果は大体見た目に比例しているように思う。

 さらになんの変哲もないただの棍棒も杖の一種として陳列してある。これも痛そうな棘がついたものやバットを太くしただけのようなもの、鎖で連結していて遠距離攻撃できるものまで様々だった。

「コーゾー様はどれがお好みですか?」

「んー……」

 はっきり言って俺の魔法の威力はまだ大したことがないんだし、物理で殴ったほうがよさそうだ。何より高いものでも100グラードだし全体的に安いところがいい。

「これとか……」

「ダメです」

「じゃあこれとか……」

「ダメですっ」

「これ――」

「――ダーメッ」

「……」

 ただの棍棒系はことごとく却下された……。

「物理攻撃は私に任せて、コーゾー様は魔法を使ってください。そのための杖なんです」

「でも、どれも結構高いんだよなあ。鑑定が遠のくだけじゃ?」

「あとで取り戻せばいいだけです。今はとにかく魔法を鍛えることが肝心なんです。前にも言いましたよね。この世界は魔術の強い者が有利だと……」

「ああ、そういえば言ってたな……」

「私は剣の腕には自信がありますが、初心者の魔術師にすら負けてしまう可能性があるくらいです」

「……」

 物理職にとっては相当に厳しい世界なんだな……。

「それでも、私のように魔術の才能がないものは格闘術や武器術を極めるしかないのです。されどコーゾー様は違います。全種の魔法が使えて、あらゆる魔法職になれる可能性のある将来有望な勇者様なんです……」

「……わ、わかったよ。んじゃこれを……」

 俺は先端に水晶のついた杖を選んだ。赤い宝石のついたアークワンドと同じく150グラードもするが……。

「……いいですね、私もそれを薦めようかと思ってました」

「そうなのか?」

「はい……」

 この杖の正式名称はクリスタルロッドといって、魔法の立ち上がりが5%UPするとのこと。100%が即発動だとすると、ほとんどの人間はその20%ほどの立ち上がりの速さらしくて、それの5%ということで21%になる計算らしい。アトリによれば、この数値は自力で上げられないもので、俺はもっとありそうだという。確かに念じてからさほど間を置かずに魔法が出ているような気はする。

「才能抜きにして、最初に立ち上がりが早くなるものを選ぶのはセンスがある証拠です」

「というか、魔法の威力が低いうちはアークワンドの5%威力UPとかは恩恵が少なそうだからな」

「ですね」

 だから、少しでも早く敵に魔法を浴びせられる確率の高いものを選んだ。上手くいけば不意打ちにもなるし、アトリが倒すにしても手助けになるかもしれない。これを繰り返していけば魔法の威力も上がっていくはずだ。ちなみに水晶系は透明、黄、青、黒の順番で効果が増していくらしい。

「――決まったみたいだな」

「「わっ!」」

 気が付くと店主の爺さんがすぐ後ろに立っていて心臓が止まるかと思った。口元は笑ってるけど目は鋭いままだし、さすが『デンジャラス・ハウス』の店主だ……。



 ◆ ◆ ◆



「あんなものでよろしいのかな」

「うん。ありがとね、おじさん。お礼っ」

 召喚師セリアが投げキッスをした相手は、勇者の宮下光蔵を鑑定した男だった。渡したお金や装備も回収し、さらに光蔵にも無能の烙印を押すことができたので彼女は上機嫌だった。

「で、では、失礼をば……!」

 頬を染めて颯爽とスキップしながら出て行く偽鑑定師。玄関のドアが惰性で閉まると、陰で様子を見ていたロエルとミリムが怪訝そうにセリアに歩み寄っていった。

「おいおい、セリア、今のやつ朝来てたやつじゃねえか……?」

「さては、組んでたんですねえ」

「ふふっ、バレたか……まあ敵を騙すにはまず味方からっていうしねっ」

 セリアが二人に目配せして笑ってみせる。

「随分手が込んでんなあ。わざわざこんなことせずに、とっととあのキモいおっさんをボコって追い出せばよかっただけじゃね?」

「ロエルさんに同意しますう」

「それでもいいんだけど、あたしとしては芝居してでもあのおっさんに無能だってわからせてから追い出したかったのよ。見た目がきもいやつは中身も無能だってことをとことん思い知らせてやりたかったし……」

「ま、折角頑張ったのにあんなきもいの出てきたんだからその気持ちもわかるけどさ、俺としては反抗してきやがった時点で死ぬまでボコりたかったよ。いつの間にか逃げられたけど……」

「お雑魚さんは逃げ足が速いですねえ」

「アトリに邪魔されちゃったしね。あの子、勝手に出て行った上に全然戻ってこないし、あたしたちを裏切ったみたいだから、見つけたらおっさんごと苦しめて殺せばいいわ」

「それいいな。そう遠くには行ってないだろうし探し出そうぜ」

「賛成ですう」

「あたしは早く将来有望なイケメン勇者様を召喚しなきゃいけないから、見つけたら捕まえといて」

「お、おう! 行くぞ、ミリム」

「はいですう」
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