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54.精霊術師、聖地に立つ

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 冒険者ギルドでB級の依頼を受けたのち、俺がエリスとティータを連れて馬車で向かったのは、【堕天使の宴】が待ち受けているであろう光の洞窟ダンジョンだ。

 都で発見された洞窟ダンジョンの中で、闇の洞窟に次いで二番目に古いとされる光の洞窟は、冒険者たちにとってまさにとも呼べる場所だった。

 非常に広い上に見渡しがよくて思う存分に暴れられることもあり、決闘をする場所の一つとしても有名で、難易度も四大属性の洞窟よりずっと高く、冒険者の中でも特に腕に自信のある強者たちが挑戦するのがこのダンジョンってわけだ。

「「「……」」」

 俺たちは30分ほど馬車を走らせ、郊外にほど近い場所に位置する目的地へ到着したわけだが、その入口からして巨人ですら悠々と通れるような大きさだったので、しばらくの間圧倒されていた。

「ここが、冒険者の聖地としても知られる光の洞窟か……」

「すっごーい、おっきいっ……」

「あら、ビッグサイズなのね……」

 さすがの精霊王も頬を紅潮させて口をあんぐりと開け、興奮気味に見上げている。今までは入り口からして狭苦しいダンジョンばかりだったからな。ボス部屋に変わってようやく視界が開ける程度で。

 中へ入ると、洞窟内とは思えないくらい明るくて、これまた驚かされることになった。それもそもはずで、コケが光っているとかじゃなくて、光の精霊たちが至るところに顔を出しているからこれだけの輝度を維持できているんだ。

 光の精霊っていうのはどっちかっていうと、人があまりいない場所、それも広くて風通しのいいところを好むから、このダンジョンは住処として最適といえるんだろう。

 ただ、中には眉を顰める光の精霊たちの姿もちらほら見られることから、洞窟内部でなんらかのが起きているのは明白だ。

 色々と不都合の多い闇の洞窟ではなく、視界が開けていてモンスターと遭遇する機会の少ない光の洞窟で待ち伏せするというのも、それだけ俺たちに対して勝てる自信があるってことなんだろうが、それはこちらにとっても同じことだ。

 縦横に広い洞窟ダンジョンをしばらく進んでいくと、俺の左右を歩いていたエリスとティータが立ち止まった。

「レオンー、この先になんかがいるよー」

「……いるわね。が」

「変な連中、か……」

 もうエリスとティータのその一言だけで、誰が待ち構えているのか容易にわかる。

 さて、今回は一体どんな汚い手段を使ってくるのやら。それはわからないが、今度こそあいつらをねじ伏せることができると思うと、今からワクワクしてくるな……。

「「「――あっ……」」」

 そこにいたのは、覆面を被った四人組――おそらく【堕天使の宴】――だけじゃなかった。ほかにもロープで体を縛られたやつらが座り込んでいたわけだが、それは俺にしてみたら嫌というほどだったんだ。

 忘れもしない。俺がかつて所属していた【天翔ける翼】パーティーの三名だ……。

 ファゼルは右手まで酷く損傷してるし、マールは魂が抜けたような表情だし、レミリアに至っては血が滲んだ包帯が左目に巻かれていた。

 なるほど……。【堕天使の宴】パーティーは、俺の元仲間たちを捕まえて人質に取るっていう作戦に出たのか。いかにもやつらがやりそうな汚い手段だ。

 しかし、まさかファゼルたちがここまでこっ酷くやられるとは。この目で【堕天使の宴】の弱さは確認しているわけで、力の差は歴然としていたはずなのにおかしいな……。

 何より奇妙なのが、俺にとってあいつらが大事な仲間だと思われているってことだ。【堕天使の宴】の連中は、俺がファゼルたちに追放されたっていう事実を知らないんだろうか?

 もしかしたら、風の洞窟ダンジョンでドルファンの魔の手から救ったことが印象に残ってるのかもしれないな。なんせ、【堕天使の翼】が置手紙を残した場所の近くで起きた出来事だし。

「レオンとかいったね、お前のをぶっ殺されたくなきゃ、それ以上、動くんじゃないよ!」

 覆面をつけたやつらの一人が、小剣の先端をレミリアの首元にあてがって叫ぶ。若干濁った感じのダミ声で聞き覚えがあるし、おそらくルディっていう名の短気な女剣士だろう。

「レ、レミリアァァ……」

 この場にいる中で一番動揺してそうなのはファゼルで、項垂れているレミリアと俺のほうを青ざめた顔で交互に見やっていた。

「おい、ファゼルとかいうのっ、お前だよお前っ! 早くを言いな。この女の喉をあたいの小剣で突かれたくなきゃね」

「わ、わ、わかったっ。レ、レオン……頼む、助けてくれ。この前だって助けてくれただろ? お前が俺たちのことを、今でも大事に思ってるのはわかってるぜ……」

「おいおい、ファゼル、俺はお前たちに――」

 追放された身だぞ、勘違いするな……そう言おうとして俺はやめた。

 前回はドルファンにいい思いをさせたくないっていうのもあったから助けただけで、ファゼルたちを助ける義務なんてこちらには一切ない。でもそれが発覚した場合、用済みとしてレミリアを殺される可能性もあるからだ。

 また、光の洞窟は光の精霊たちがいる影響で、高い魔力が常に空気中に発生しているため、アクティブに無効化する力が弱くなってしまう。それゆえ、やつらのスピードを無効化してもすぐに元に戻ってしまい、逃げられる可能性も高い。だからこそこの洞窟を選んだんだろうし。

 そのリスクを考えると、ファゼルたちを助けようとしているように見せかけて懐へ入り込み、一網打尽にしたほうがよさそうだ。
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