36 / 87
36.精霊術師、空気を読む
しおりを挟む「ぐっ……す、すげえな、これは……」
「……き、きっついわね、想像以上……」
「……マ、マール、息が苦しいよう……」
「うぬう……こ、このままではっ……ぼ、僕の髪が乱れてしまうではないかっ……」
A級パーティー【天翔ける翼】の面々はA級の依頼を受け、風の洞窟まで来ていたわけだが、ビュウビュウと吹き荒れる強風を前に中々先へ進めずにいた。
「はぁ、はぁ……マ、マール、地の魔法を出して食い止めろよ……」
「そ、そうよ、マール、なんとかならない……?」
「……ダメダメ。こんなところで岩や壁なんか出しちゃったら、押し潰されちゃうよ……」
「そ、それなら風の魔法で相殺するのはどうなのかね、メスガキッ」
「ド、ドルファンさぁん、しょ、しょんなことしてもお、焼け石に水……じゃなくてっ、竜巻に溜め息でしかないよぉ……」
「「「「はあ……」」」」
四人の溜め息が同時に重なる格好になったわけだが、黒魔術師のマールの言う通り強風はびくともしなかった。
それでも、しばらくするとリーダーである戦士ファゼルが歯を食いしばった様子で歩き始めた。
「ぐぐっ……どれくらいかかるかわかんねえけどよおぉ……絶対にS級に復帰してやる……。そんでレオンの野郎もペットにして首輪をつけて、何もかも元通りにしてやる……」
「……ぐすっ。ファゼル、よかった……。あのどん底状態だから、ここまで立ち直ってくれるなんて……。正直、役立たずな上に気持ち悪いレオンが戻ってくるなんてあたしは嫌だけど、ファゼルのためなら我慢できるよ……」
「……まあそう言ってやるなって、レミリア。あいつが戻ってきたらよ、逃げ出さない程度にいびってやれ」
「うん……あいつのことは本当に大っ嫌いだけど、たまに鞭で叩いて躾ける程度にしておくね……! あと、ファゼル、裏切るようなことしちゃってごめん。あたしにはあなただけだから……」
「レ、レミリア……俺も、お前だけだ……」
寄り添い合う二人を見て、マールが指を咥えつつドルファンを見上げる。
「ファゼルとレミリア、アッツアツで羨ましいねえ。ドルファンさんもマールとラブラブしちゃお……?」
「……黙りたまえ、メスガキ。今はそれどころではないだろう!」
「ごっ、ごめんなしゃあい……」
「…………」
ドルファンは甘えてきたマールを拒絶しつつ、ちらっと後方を確認すると、まもなく右の口角を僅かに吊り上げてみせた。
(やられる前にやれという言葉は、人間の本質を如実に表している。もうすぐ、終わりだ。君たちはこの洞窟で死ぬことになる……)
「――おらああああぁぁっ!」
『ピギャアァァッ!』
最早、左手は添えるだけであった。
右手のみで繰り出したファゼルの斧の一撃が、風の洞窟のモンスターである巨大な蜂――バイティングビー――の体を切り裂く。
左手を失ったことにより、彼の扱う斧は小振りな得物に代わり、威力こそ落ちていたものの、その分敏捷さや命中率は上がっていたのだ。
「ファゼル、敵はこっちから来るわ、次はあっちよ……!」
「おう、任せとけ!」
洞窟の先は道が幾重にも分かれ、風は分散されて緩やかになるものの、この地点は次から次へと巨大な蜂が湧いてくることで知られており、鑑定士レミリアの指示通り、ファゼルが果敢に斧を振るっていた。
「はぁ、はぁぁ……風には大分苦戦したが、モンスターは弱いし、この分ならすぐボス部屋へ行けそうだな……!」
「そうね……って、プロテクトをかけるだけでいいドルファンはともかく、マールは何ぼんやりしてるわけ!?」
「あ、ごめーん。ストーンダガー!」
『ピギャアアァッ!』
はっとした顔で援護するマールだったが、その表情は晴れないままであった。
「ふうぅ……70匹まで倒したぜ。もうちょいだな――」
「――ファ、ファゼル、ちょっと待って……」
レミリアが唐突に怪訝そうな顔を見せたことで、その場は不穏な空気に包まれることになる。
「ん、ど、どうした、レミリア?」
「なんかおかしいの。誰かがこっちに近付いてきてるみたい……」
「はあ? こんだけわかりやすくモンスターと交戦してるってのに、こっち側に来るなんて、妙じゃねえか?」
「ホントよね。まるであたしたちに用事でもあるみたい」
「用事って……まさかレオンなのか?」
「あー……なるほどね。あの無能のことだし、戻ろうと思って向こうから来たんじゃない? わざわざこういう大変なときに来るとか、何考えてるのかしら。ホント、空気を読めない男よね。だから嫌われるっていうのに――」
「――お、おい、レミリア」
「何よ、ファゼル。まだあいつの肩を持つつもり?」
「い、いや、そうじゃねえ。あ、あそこを見ろ……」
「えっ……」
緊張した様子のファゼルが指差す方向から、いかにも素行が悪そうな体格のいい男たちが武器を手にぞろぞろと現れる。
「な、なんなのよ、あいつら……」
「し、知らねえよ。どう見ても友好的な連中じゃなさそうだが……」
ファゼルの言う通り、やがて【天翔ける翼】パーティーの面々はやってきた男たちに囲まれることとなった……。
11
お気に入りに追加
1,300
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる