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23.精霊術師、約束の場所へ赴く

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 あくる日の朝、俺はエリスとともにへと向かっていた。

 その場所とは、もちろん冒険者ギルドのすぐ前にある喫茶店だ。

 若干金属の匂いがする盾の形をしたケーキ、剣や杖を模した超硬いパン、モンスターの肉を使った特殊なステーキなんていうメニューもあって、ここを訪れる冒険者に媚びたスタイルになっている。

「ねぇ、レオン、今日はどこ行くのー?」

「…………」

 エリスの弾むような声と視線を受けて胸が痛むが、今日ばかりはソフィアと二人きりで話をするっていう約束があるんだからしょうがない。

「どうして黙ってるのぉー?」

「あ、あぁ、考え事しててな」

「そうなんだあ。あっ……もしかして、エッチなこと? ふふっ……」

「お、おいおい……」

 やがて、俺たちは喫茶店の前に着いたわけだが、中には既にソフィアの姿があった。俺と同じように考え事をしてるのかぼんやりした表情で、まだこっちには気が付いてない様子だ。

 約束の時間まで10分ほど余裕があるし、俺を待たせないようにっていう配慮だろう。そういうところは時間にきっちりしている受付嬢らしい。

「わー、ここに入るんだあ。いい匂いもするし、なんだかワクワクするところだね!」

「エリス、ちょっといいかな?」

「んー?」

 俺は入り口でしゃがみ込み、エリスに語り掛ける。

「ここで大事な用事があって、俺一人で入らなきゃいけないんだ」

「そうなの……?」

「あぁ、だから、この辺で待っててくれないか? すぐ終わると思うし、もし待ちきれないなら、一人で自由に行動しててもいいから」

 こんな子供を一人で待たせるなんて普通はやっちゃいけないことなんだが、彼女は無の上位精霊マクスウェルだからな。誘拐したやつがいたとして、そいつのほうを心配してしまうレベルだ。

「わたし、ここに入っちゃダメなの……?」

「い、いや、ダメってことはないんだけど、今日はちょっと遠慮してくれないかな……?」

「うー……」

 エリスの真っすぐな視線がなんとも痛い。何もかも見透かされているような気がするんだ。けど、下心がまったくないといえば嘘になるとはいえ、熾天使のソフィアが俺と付き合おうなんて言うはずもないしなあ。

「なあ、頼むよ、エリス……」

「……うん、わかった! でも、絶対に浮気しないでね?」

「し、しないよ。ソフィアとは……あ……」

 しまった、つい彼女の名前が出てしまった。俺はこういうの慣れてないからなあ……。

「ふふっ、そんなことだろうと思った。わたしね、レオンがここであの人と会うんじゃないかなって予感してたんだ」

「そ、そうなのか……」

 さすが精霊王。鋭い……。

「でも、大丈夫だって。熾天使なんて呼ばれてる人が俺に気があるわけないし」

「そんなことないよ」

「え……?」

「ソフィアって人、ずっとレオンのこと特別な感じで見てたよ。わたしにはわかるもん」

「おいおい」

「それに、あの人――」

「ん?」

「――ううん、なんでもない! 秘密ー」

「ちょ……」

 エリスが何を言おうとしたのか気になるけど、彼女にしてみたらソフィアなんて赤の他人だから何か知ってるわけないんだよな。多分、俺に気を持たせただけなんだろう。

「そういうエリスも、知らない人についていくんじゃないぞ?」

「ついていかないよ! もぅ……レオンったら、心配性なんだからーっ!」

「あはは……」

 そういうわけで、俺たちはひとまずその場で別れることになった。



「――レオン様、お待ちしておりました」

「お、おはようございます、ソフィアさん」

 俺は今の状況が信じられなかった。あの熾天使のソフィアに笑顔で迎えられた上、二人きりで話ができるわけなんだから。これじゃまるでデートみたいじゃないか。ほかの冒険者に見られたら殺されるんじゃないかってビクビクしてしまうくらいだ。

「……そ、その、だ、大事な話って、何かなって……」

「はい、大事なお話があります……」

 ソフィアが何を思ったのか、真顔になって俺の顔をまっすぐ見つめてきた。おいおい、心臓がドキドキしすぎて今にも爆発しそうだ。しかもこんなときに限って、罪悪感を覚えてるせいかエリスの顔が脳裏に浮かんでしまう。

「レオン様……」

「ソ、ソフィアさん――?」

「――あの子、無の精霊ですよね」

「えっ……?」

「エリスさんという方です」

「…………」

 ま、まさか、そのことを知られていたなんて……。でも、よくよく考えると俺たちが今話題の【名も無き者たち】パーティーであることは受付嬢なら周知の事実なはずだし、ソフィアは俺が精霊術師なのも知ってるから、エリスが強力な無の精霊であることを察することはできるんじゃないかな。

 だったら意固地になって隠してもいずれバレるだろうし、ここは正直に言うとしよう。

「じ、実はそうなんですよ。ソフィアさんは察しがいいなあ……」

「察したわけではないんですよ」

「え……?」

「どうしてわかったかというと……実は私、人間じゃないんです」

「…………」

 俺はあまりにも衝撃的なことを耳にして、しばらく固まってしまった。しかもソフィアは冗談を言ってますって顔じゃないし……。

「……え? に、人間じゃないって……それは一体、どういう……」

「私も精霊なんです。エリスさんと同じく、オリジナルの精霊です」

「…………」

「喜怒哀楽の感情ってあるじゃないですか。私はそのうちの楽の精霊なんですよ」

「……そ、そんな精霊がいるんですね……」

「すみません、驚かせてしまって」

「……い、いえいえ……」

 事態を完全に呑み込めたわけじゃないが、ソフィアを不安な気持ちにさせたくないので俺はとりあえず話を合わせることにした。こんなびっくりするようなことを話すんだから、それだけ信頼されてる証拠でもあるだろうし……。

 あれ、少し経ったら落ち着いてきた。多分、彼女が楽の精霊だからっていうのもあるんだろうけど。

「なるほど……。同じ精霊ってことで、それでソフィアさんはエリスを見て無の精霊だってわかったんですね」

「はい」

「でも、なんでエリスは気付かなかったんですかね?」

「多分、エリスさんも私が精霊だって気付いていたと思いますよ」

「あ……」

 そういや、エリスもそれっぽいことを言ってたような。なるほど。同じ精霊だとわかったからこそ、ソフィアにライバル心を抱いたってわけか……。
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