23 / 87
23.精霊術師、約束の場所へ赴く
しおりを挟むあくる日の朝、俺はエリスとともに約束の場所へと向かっていた。
その場所とは、もちろん冒険者ギルドのすぐ前にある喫茶店だ。
若干金属の匂いがする盾の形をしたケーキ、剣や杖を模した超硬いパン、モンスターの肉を使った特殊なステーキなんていうメニューもあって、ここを訪れる冒険者に媚びたスタイルになっている。
「ねぇ、レオン、今日はどこ行くのー?」
「…………」
エリスの弾むような声と視線を受けて胸が痛むが、今日ばかりはソフィアと二人きりで話をするっていう約束があるんだからしょうがない。
「どうして黙ってるのぉー?」
「あ、あぁ、考え事しててな」
「そうなんだあ。あっ……もしかして、エッチなこと? ふふっ……」
「お、おいおい……」
やがて、俺たちは喫茶店の前に着いたわけだが、中には既にソフィアの姿があった。俺と同じように考え事をしてるのかぼんやりした表情で、まだこっちには気が付いてない様子だ。
約束の時間まで10分ほど余裕があるし、俺を待たせないようにっていう配慮だろう。そういうところは時間にきっちりしている受付嬢らしい。
「わー、ここに入るんだあ。いい匂いもするし、なんだかワクワクするところだね!」
「エリス、ちょっといいかな?」
「んー?」
俺は入り口でしゃがみ込み、エリスに語り掛ける。
「ここで大事な用事があって、俺一人で入らなきゃいけないんだ」
「そうなの……?」
「あぁ、だから、この辺で待っててくれないか? すぐ終わると思うし、もし待ちきれないなら、一人で自由に行動しててもいいから」
こんな子供を一人で待たせるなんて普通はやっちゃいけないことなんだが、彼女は無の上位精霊マクスウェルだからな。誘拐したやつがいたとして、そいつのほうを心配してしまうレベルだ。
「わたし、ここに入っちゃダメなの……?」
「い、いや、ダメってことはないんだけど、今日はちょっと遠慮してくれないかな……?」
「うー……」
エリスの真っすぐな視線がなんとも痛い。何もかも見透かされているような気がするんだ。けど、下心がまったくないといえば嘘になるとはいえ、熾天使のソフィアが俺と付き合おうなんて言うはずもないしなあ。
「なあ、頼むよ、エリス……」
「……うん、わかった! でも、絶対に浮気しないでね?」
「し、しないよ。ソフィアとは……あ……」
しまった、つい彼女の名前が出てしまった。俺はこういうの慣れてないからなあ……。
「ふふっ、そんなことだろうと思った。わたしね、レオンがここであの人と会うんじゃないかなって予感してたんだ」
「そ、そうなのか……」
さすが精霊王。鋭い……。
「でも、大丈夫だって。熾天使なんて呼ばれてる人が俺に気があるわけないし」
「そんなことないよ」
「え……?」
「ソフィアって人、ずっとレオンのこと特別な感じで見てたよ。わたしにはわかるもん」
「おいおい」
「それに、あの人――」
「ん?」
「――ううん、なんでもない! 秘密ー」
「ちょ……」
エリスが何を言おうとしたのか気になるけど、彼女にしてみたらソフィアなんて赤の他人だから何か知ってるわけないんだよな。多分、俺に気を持たせただけなんだろう。
「そういうエリスも、知らない人についていくんじゃないぞ?」
「ついていかないよ! もぅ……レオンったら、心配性なんだからーっ!」
「あはは……」
そういうわけで、俺たちはひとまずその場で別れることになった。
「――レオン様、お待ちしておりました」
「お、おはようございます、ソフィアさん」
俺は今の状況が信じられなかった。あの熾天使のソフィアに笑顔で迎えられた上、二人きりで話ができるわけなんだから。これじゃまるでデートみたいじゃないか。ほかの冒険者に見られたら殺されるんじゃないかってビクビクしてしまうくらいだ。
「……そ、その、だ、大事な話って、何かなって……」
「はい、大事なお話があります……」
ソフィアが何を思ったのか、真顔になって俺の顔をまっすぐ見つめてきた。おいおい、心臓がドキドキしすぎて今にも爆発しそうだ。しかもこんなときに限って、罪悪感を覚えてるせいかエリスの顔が脳裏に浮かんでしまう。
「レオン様……」
「ソ、ソフィアさん――?」
「――あの子、無の精霊ですよね」
「えっ……?」
「エリスさんという方です」
「…………」
ま、まさか、そのことを知られていたなんて……。でも、よくよく考えると俺たちが今話題の【名も無き者たち】パーティーであることは受付嬢なら周知の事実なはずだし、ソフィアは俺が精霊術師なのも知ってるから、エリスが強力な無の精霊であることを察することはできるんじゃないかな。
だったら意固地になって隠してもいずれバレるだろうし、ここは正直に言うとしよう。
「じ、実はそうなんですよ。ソフィアさんは察しがいいなあ……」
「察したわけではないんですよ」
「え……?」
「どうしてわかったかというと……実は私、人間じゃないんです」
「…………」
俺はあまりにも衝撃的なことを耳にして、しばらく固まってしまった。しかもソフィアは冗談を言ってますって顔じゃないし……。
「……え? に、人間じゃないって……それは一体、どういう……」
「私も精霊なんです。エリスさんと同じく、オリジナルの精霊です」
「…………」
「喜怒哀楽の感情ってあるじゃないですか。私はそのうちの楽の精霊なんですよ」
「……そ、そんな精霊がいるんですね……」
「すみません、驚かせてしまって」
「……い、いえいえ……」
事態を完全に呑み込めたわけじゃないが、ソフィアを不安な気持ちにさせたくないので俺はとりあえず話を合わせることにした。こんなびっくりするようなことを話すんだから、それだけ信頼されてる証拠でもあるだろうし……。
あれ、少し経ったら落ち着いてきた。多分、彼女が楽の精霊だからっていうのもあるんだろうけど。
「なるほど……。同じ精霊ってことで、それでソフィアさんはエリスを見て無の精霊だってわかったんですね」
「はい」
「でも、なんでエリスは気付かなかったんですかね?」
「多分、エリスさんも私が精霊だって気付いていたと思いますよ」
「あ……」
そういや、エリスもそれっぽいことを言ってたような。なるほど。同じ精霊だとわかったからこそ、ソフィアにライバル心を抱いたってわけか……。
23
お気に入りに追加
1,300
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる