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20.精霊術師、ドキドキする
しおりを挟む「おいあれ見ろよ、また例のパーティー、【名も無き者たち】がやってくれたぜ!」
「氷の洞窟の新記録って、すげー久々じゃね!?」
「マジかよ、あのSS級パーティー【堕天使の宴】の記録をまたしても超えちまったぞ! 大丈夫か!?」
「こりゃー、近いうちにやつらに潰されるかもなぁ……」
「なんせ、どっかの金持ちが各地の狂暴な冒険者を寄せ集めて作ったパーティーらしくて、目的のためには手段を選ばない連中みたいだしな」
「…………」
氷の洞窟を最高の形で攻略した俺たちだったが、冒険者ギルドへ戻って早々、心臓に悪い物騒な話を聞かされる羽目になってしまった。
SS級パーティーの【堕天使の宴】か。以前にも聞いたことがあるような。そういう危ない連中の縄張り争いみたいなのに巻き込まれたら厄介そうだ。
とはいえ、今話題のパーティー【名も無き者たち】が、追放された俺と一見ただの少女に見えるエリスのことだとは夢にも思わないだろうし、あまり目立つことをしなきゃ大丈夫だろうとは思う。
「依頼のご報告、確かに承りました」
「あ、えっと、パーティー名はシークレットでお願いできないでしょうか……」
「はい、了承しました、レオン様。おめでとうございます。Eランクの依頼達成の報酬の銀貨4枚、銅貨50枚と、新記録を出されたということで、Dランク昇格となります」
「お、おぉ、どうもありがとうござ――って……」
なんか見覚えのある人だと思ったら、熾天使と呼ばれるほど冒険者たちから人気のある受付嬢ソフィアだった。ロングヘアだったのが、後ろで一本に纏めていたので気付かなかった。
「やっぱり、私の思った通り、レオン様は凄い方でした」
「そ、それは無の――あ、いや、無能の俺じゃなくて、仲間の能力が凄かっただけですよ」
「またまた、ご謙遜を……」
「いや、本当のことですから」
俺は危うく無の精霊のおかげと言おうとしてしまったが、上手くごまかすことができた。
「たとえ優れた味方の能力に助けられていたとして、それを引き出すレオン様も充分に素晴らしいと思います」
ソフィアの言葉には本当に勇気づけられる。落ち込んでいるときも、そうでないときでも。俺は真剣な表情で彼女の顔をじっと見つめた。
「俺の優れた味方の一人がソフィアさんですよ」
「ええ……?」
「だって、あのときソフィアさんが慰めてくれなかったら、俺はあそこで折れていたかもしれませんから――はっ!?」
背後から誰かに抱き付かれたと思ったら、エリスだった。
「レオンは渡さないもん!」
「こ、こら、エリス。渡さないって、俺は物じゃないんだから――」
「――レオンのバカッ! わたしがいるのに、浮気するのー!?」
「お、おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。浮気とか、そんなんじゃないって……」
「ふふっ。可愛いですね。エリスさんって」
「な、何よ。そんなこと言っても、レオンは絶対に渡さないんだからぁ!」
「あはは……すみません、ソフィアさん」
「いえいえ、私なら全然大丈夫ですよ」
ソフィアは本当に器の大きさを感じるし、熾天使と呼ばれてるのもよくわかる。
「エリスさん、少しだけレオン様を貸してもらってもいいですか?」
えぇ? 急にソフィアが中腰になったかと思うと、小声でとんでもないことを言ってきた。これって、彼女なりの冗談だよな……。
「むー……ちゃんと返してくれる?」
「もちろんですよ。本当に少しだけでいいですから」
「じゃー、1分だけね!」
「エリス……」
「それで大丈夫です、レオン様。あの、ちょっとだけお耳をお貸しください」
「…………」
ソフィアの美しい顔が近付いてきて、なんとも緊張する。ボス戦なんかよりもずっと。エリスがいかにも聞きたそうにしていたが、約束したこともあってか我慢している様子。
「明日の朝、レオン様と二人きりで大事な話がしたいのです」
「だ、大事な話?」
「はい。ここでは話せない内容なので、すみません。よろしいでしょうか」
「あ、も、もちろんですよ……」
「それでは、ギルド前の喫茶店でお待ちしております」
「…………」
俺は緊張のあまり声が出ず、彼女の言葉にうなずくことしかできなかった。
ここでは話せない内容、か。一体どんな話だろう? 大事な話っていうだけに、まさか……いや、そんなはずはないよな。
俺の容姿は普通だし、自分で言うのもなんだが性格だって普通だ。惚れられるなんて到底思えない。なんせ相手は熾天使とまで呼ばれるほど冒険者たちから人気のソフィアだから。
でも、そうじゃないなら一体、俺にどんな話があるっていうんだろう。考えれば考えるほどわからなくなってきたが、わからない分楽しみだな。あんまり期待しちゃうと毒になりそうだから避けたいが。
とにかく、冒険者にとって憧れの熾天使と二人きりで話ができることに変わりはないんだし、今のうちに少しは喜んでおくか……。
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