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9.精霊術師、悪口を言われる

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「えっ……う、嘘でしょ!?」

 S級パーティー【天翔ける翼】の宿舎、リーダーのファゼルの部屋に呼び出された鑑定士レミリアが、激昂した様子で抗議の声を上げた。

「急遽また炎の洞窟に行くことになったって……話が違うじゃない、ファゼル!」

「仕方ねえだろう、レミリア。サラマンダーの鱗をあと3枚集めりゃ依頼達成できて金貨10枚も手に入るんだし、もう依頼の報告期限の七日目まで来てるんだから急がねえと……」

「一回くらい失敗報告したっていいし、お金の問題じゃないでしょ、もう……! あんなところ飽き飽きしちゃってるし、ファゼルだってもうこんなダンジョンは懲り懲りだって言ってたじゃない! それに、あそこへ行くと色々思い出すのよ」

「色々思い出すって、何をだよ」

「思い出したくもないけど……いつの間にか変な虫を踏んでたとか、ただでさえ蒸し暑いところなのに、後ろにいるレオンのじめじめっとした気持ち悪い眼差しとか……昨日のことのようにね!」

「はあ。そりゃさぞかし気分が悪かっただろうけどよ、もうレオンの野郎は追い出しただろ。わかってねえな、レミリアはなーんもわかってねえ……」

 呆れたように何度も首を横に振るファゼル。

「何がわかってねえ、よ! それはこっちの台詞! そもそもファゼルが優しすぎるのがいけないのよ。あたしがリーダーだったらレオンなんてすぐ追い出してるし! てか、その依頼を受けるってことは完全にお金だけが目的だよね? うちの台所事情ってそんなに困ってるわけ?」

「ほら、ドルファンだよ。あいつが、給与をもっと上げないとこのパーティーを抜けるかもしれないって脅してきてんだよ。だからもっと金がいる」

「えー! ド、ドルファンが……!? う、嘘……」

「マジなんだな、これが。レオンみたいな無能ならこっちから何度でも追放してやりてえくらいだが、ああいう優秀な人材をよそのパーティーに引き抜かれるよりはマシだろ?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「俺だってよ、クソ暑い上にタフなモンスターだらけの炎の洞窟なんて、だるすぎて二度と行きたくねえんだよ。なあ、レミリア、そういうことだから依頼を達成するまで我慢してくれ。俺たちが鉄壁パーティーなんて言われてるのはドルファンの白魔術のおかげだしな」

「た、確かにねぇ……。それならしょうがないわ。あのドルファンが引き抜かれちゃったら、その時点であたしたちは終わりだもの……」



 ◇ ◇ ◇



「う……?」

 気が付くと俺はベッドの上にいた。

 ……そうだった。あのあと、喧嘩を仲裁して得た報酬で安ホテルに泊まったんだった。しかも隣では白髪の少女が寝てるし――って……。

「お、おいおい、エリス……!」

「むにっ……?」

 起こそうと思ってエリスの肩を揺さぶると、彼女は眠そうに目を擦ったあと、俺に向かって優しく微笑んだ。

「ん……レオン、おはよー。ちゅー……」

「ちゅー……って、そうじゃない! 俺が寝てる間は消えてるねって言ってただろ?」

 そう、契約した精霊は消える――精霊化する――ことで、目では見えない状態となるし、そのほうが精霊にとっては本来の状態になるから騒音もカットされて格段に安眠しやすいはずなのに、彼女は俺の横で寝ていたんだ。

 安ホテルの一室なのでベッドが一つしかないってのもあったが、お互いに熟睡するにはそうしたほうがいいっていう判断だったのに……。

「だってぇ……レオンが気持ちよさそうにベッドで寝てるのを見てたら、わたしも側で一緒に眠りたくなっちゃったもんっ!」

「そうか、なるほどな、それならしょうがない。んじゃ、俺も起きるからエリスもそろそろ起きるぞ――あっ……」

「やあん……」

 し、しまった。エリスの肩を押そうとして、つい胸をタッチしてしまった。子供っぽい顔をしてるがここはちゃんと突起してるんだな。

「レオンのバカァ、エッチィ……」

「わ、悪かったな。でもわざとじゃないし」

「もっと触ってもいいよ……?」

「……お、おいおい……」

「えへへっ。冗談だよぉ……」

「……ったく。と、とっとと行くぞ!」

「はーいっ!」

 可愛い顔してエリスは大胆なもんだ。能力にしてもそうだが油断してると彼女のペースに乗せられそうだな。相手が最上級の無の精霊とはいえ、契約主は俺なんだからしっかりしないといけない。
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