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5.精霊術師、役目を全うさせる
しおりを挟む「うっ……?」
神殿の中に入って早々、俺は不自然な暗闇に覆われていることに気付いた。周りがまったく見えないという、異様な状態に陥ってしまってるんだ……。
まだ日が暮れ始めてまもないからそこまで暗くないはずだし、夕陽が射し込む入り口付近だというのに、ここまで暗いというのはさすがにおかしいと感じた。それも、闇自体が生きてて纏わりつくようなものだったから余計に。
「――っ!?」
そこではっとなる。まさか、闇の上位精霊アビスの仕業……? 稀に、そういった上位の精霊の縄張りだと知らずに入ってしまうことがあるらしいが、もしこの闇がアビスによるものだった場合、ものの数秒で精神に異常をきたし、下手をすれば完全に気が狂ってしまうぞ……。
「あ……」
俺はもうダメかもしれない。そう絶望しかけた矢先、脳裏にキャッキャと甲高い子供のようなあどけない声が複数聞こえてきた。
そうか、わかったぞ……これはアビスではなく、闇の下位精霊シェイドたちによる仕業だ。そもそもアビスだったら、深淵の底から響くような重低音の声がするというからな。
ここは蔦に覆われて誰も来ないような神殿の中だし、小さな闇の精霊たちの遊び場になってたみたいだ。ほっとしたのも束の間、このままじゃ暗くてまともに歩けないので、俺は光の精霊から微力を授かることにした。
するとまもなく目を凝らせば神殿内部が見えるようになり、俺は慎重に中を進んでいった。
「――ん、あれは……」
奥に祭壇のある広い部屋に辿り着いたかと思うと、人影が見えるのがわかった。恐る恐る近付いてみると、司教冠っぽい白い帽子や祭服から祭壇の前でひざまずく神官っぽいが、動く気配はまったくない。
「うわっ……」
それでもまだ生きているかのようなオーラがあったが、間近から見るとミイラ神官であることがわかった。
『よくぞここまでたどり着いた、若者よ。これで長年果たせなかったわしの役目を終わらせることができる……』
「こ、この頭の中に流れてくる声の主はあなただったのですか……」
『そうだ。とうの昔に体は朽ち果てたが、魂はまだ残っている。さあ、若者よ、わしとともに祭壇の前でひざまずき、祈りながら発言するがよい。無の精霊マクスウェルよ、汝と契約することをここに誓う、と……』
「……は、はい。喜んで……」
声が震えてしまう。まさか、この俺が本当に最上級の精霊――無の上位精霊――と本契約できるとは……。
にわかには信じがたいことだし、何かの罠かもしれないとさえ思ったが、ギルドでならず者からボコられたのに痛くなかったとか、白魔術師のドルファンが詐欺師として有名だったとか、今までのことを考えると信じてもいいような気がした。
となると、元仲間たちが鉄壁パーティーなんて呼ばれてたのはドルファンのおかげじゃなく、俺が無の精霊と仮契約してたからなんだな……。
となると、あいつらは一体どうなるんだろう? ま、もう仲間じゃないしどうでもいいか。俺はミイラ神官の隣でひざまずき、手を合わせるとともに目を瞑った。
「無の精霊マクスウェルよ、汝と契約することをここに誓う――」
俺が言葉を発したその直後だった。ゾワリとした感覚が体中を駆け巡ったので思わず目を開くと、周囲が異常なほど明るくなっていた。これは祝福のとき、すなわち契約が成立したことを意味していて、光の上位精霊が一瞬だけ姿を見せるからだ。
『これでようやくわしの役目は終わった。若者よ、無の精霊をよろしく頼むぞ……』
隠れていたシェイドたちが逃げ出したのかすっかり明るくなった神殿内、頭の中で例の声がしたかと思うと、横にいたミイラ神官の体が粉々になって崩れ落ちた。
きっと彼が森の名前や石板にも刻まれていた通り、カレティカという名前の神官だったんだろう。無の精霊と精霊術師を契約させるという役目を果たしたことでようやく天に召されたってわけだ。
それじゃあ、俺は本当に無の上位精霊マクスウェルと本契約を交わすことができたんだな――
「――ね、ねえ、そこにいる人は、誰なの……?」
「えっ……」
感慨に浸っていたところで後ろから声がして振り返ると、そこには真っ白な長髪と白装束で透明感のある肌を包み込んだ白尽くめの美少女がいて、興味深そうに俺のほうを見ていた。もしかしてこの子があのマクスウェルだっていうのか……?
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