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25.探しもの

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「――ふう。中々上手くいかないもんだな、アイシャ、ルアン……」

「ですねえ……」

「うん……」

 見回り役に選ばれた俺たちは、早速翌日の朝から【正義の杖】ギルドの怪しい人物――スパイ――を探すべくエスカディアの町を巡回することになったわけだが、何一つ成果を得られることなく、たった今スタート地点のギルド協会に戻ってきたところだった。

「「「はあ……」」」

 夕暮れどきにタイミングよく俺たちの溜息が重なる。町中をざっと巡回してみて肌で感じたのは、相手にかなり警戒されているということだった。あれだけの記録を樹立したのだから噂が広まってもおかしくないし、そうなるとスパイともあろうものが簡単に尻尾を出すはずもないか。

 というか本当にスパイがいるかどうかもわからないんだけどな。単にギルドマスターが疑心暗鬼に陥ってるだけっていう可能性もあるから。ただ、正直それが一番考えたくない最悪の事態でもある。なんとか成果を出さないと親衛隊には選ばれないわけだし、ここはネガティブにならずにスパイがいるっていう前提で動かないと……。

「うーむ、これからどうするべきか……」

「ラフェルさん、顔色悪いですよ? 今日はここまで頑張ってきたわけですし、そろそろ休憩しましょうっ」

「俺もそう思うぜ、ラフェル。少しは休んだほうがいいって……」

「ああ、もうそろそろ夜だしな……って、いや、アイシャ、ルアン、待ってくれ。むしろこれからがチャンスなんじゃないか?」

「「ええっ……?」」

 そうだ。周囲が暗くなってくるこの時間帯こそスパイが活動し始めるのに適してるはずだし、さらに俺が一人で歩くこと、すなわち囮になることで引っ掛かってくれるやつがいるかもしれない。

 もし本当にスパイがいるんだったら自分たちみたいな見回り役は真っ先に潰したい標的のはずで、俺一人なら倒せると思ってくれる可能性はあるんじゃないか……? よし、それに一縷の望みを託すか……。



 ◇◇◇



「……ち、チキショー、あのクソ受付嬢、マジ許さねえ……」

「……ごほっ、ごほっ……。ホント、絶対倍返しにしてやんないと気が済まないんだから……」

「……ぼ、僕も同感です。このままでは腹の虫が収まりませんよ……」

 回復術師カタリナに傷を治してもらってもなお、痣の目立つ状態でギルド協会から出てくるマスターのクラークら、【聖なる息吹】ギルドの痛々しい面々たち。

「そうはいうけどさあ、あんたたちに勝てるメドなんてあるのかい……?」

「「「うっ……」」」

 カタリナの冷静な突っ込みに対して気まずそうに言葉を詰まらせる三人だったが、まもなくクラークがこぼれそうなまでに目を見開いて立ち止まった。

「そ、そうだ……この手があった! おめーら……俺はたった今最高の名案をひらめいたぜっ! ちょっと遠回りになるがよっ!」

「「「えっ……」」」

 いかにも訝し気な様子のエアル、ケイン、カタリナの三名だったが、クラークは自信ありげに話を続けた。

「ラフェルの野郎たちは【正義の杖】のスパイを探し出すための見回り役に選ばれたわけだろ? それなら、俺たちが変装して偽のスパイになりゃいいんだよ!」

「「「ええぇ……!?」」」

「つまりこういうわけよ……偽のスパイっつっても考え方は本物のスパイと同じだし、怪しげな格好でラフェルをつけ回してりゃ本物のスパイも味方だと思って近づいてくる。わかるか……?」

「「「うんうん」」」

「そこで俺たちの正体を打ち明けてスパイを仲間にするってことを繰り返していけばいい。そしたらいずれ大所帯になるから、数で押せばラフェルたちだって無理矢理仲間にできるだろ? それから一気にクソ受付嬢と【正義の杖】を潰してやるって寸法よ! どうよこの作戦、完璧だろっ!」

「な、なんだか強引すぎる気もするけど、よさげな作戦ね。クラークにしては……」

「はぁ!? クラークにしては、は余計だろ、バカエアル! 俺はギルドマスターだぞ!」

「確かにギルドマスターのクラークさんにしてはいい感じですねえ……」

「あぁ!? いい加減にしろアホケイン! おめーら、これで何もかも上手くいく予定なんだから少しは俺に感謝しろっての!」

「じゃあその辺でちょっと前祝いしよっかあ!」

「おー、いいですねえ!」

「うおおぉー! 戦の前の腹ごしらえだあぁっ!」

「はあ。そう都合よくいくもんかねえ……」

 なんとも不安そうなカタリナを尻目に、クラークたちは大いに盛り上がるのであった……。
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