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17.違反行為
しおりを挟む「……」
あれから俺たちは無事、蘇生草を100本集め終わってギルド協会へと戻ってきたわけだが、なんだか様子がおかしいことに気付く。
中で騒ぎでも起こっていたのか、ピリピリした空気の余韻のようなものを感じたんだ。ただ、カウンターには例の受付嬢の姿も普通にあるし、すぐに騒動は幕を閉じたのかもしれない。
「喧嘩でも起きたっぽいな」
「そ、そうみたいですね! 原因はやっぱりあの人でしょうね」
「あの女しか考えられねえな……」
アイシャとルアンの言葉に俺はうなずく。もうそれしか原因は考えられない。おそらく【正義の杖】ギルドじゃないギルドが受付に来たから揉めたんだろう……っと、他人の心配をしてる暇はなかった。俺たち以外にも蘇生草を物凄い勢いで採取してる連中がいたし、限度数の1000本に到達する前に届けないと……。
「――はぁ、はぁ……ご、ご用件は……」
「「「……」」」
例の受付嬢の前、俺たちは思わず顔を見合わせる。何故なら彼女ははっきりわかるほど息を荒くしていて頬が紅潮し髪は乱れ、額には玉のような汗が光っていたのだ。おまけに肩もはだけてるし、一体何があったのかと……。
「えっと、蘇生草の依頼の件なんだけど……」
「……あ、その依頼の件であれば、誠に残念ながら……」
「「「ええっ……?」」」
俺たちが来る前にもう1000本集まったらしい。ってことはあいつらが集めたのか……。
「とはいえ、先に集めた方々には重大なレギュレーション違反があったため900本以上のものは没収し、こちらの件を併せて採用するという形を取らせていただきます。では、これが今回の報酬でございます」
「「「おおっ……!」」」
俺たちはめでたく銀貨1枚、銅貨5枚を受け取った。これで一日の飯代、ホテル代くらいにはなったから助かる。それにしても、重大なレギュレーション違反って一体なんなんだろう。依頼を受けたってことは【正義の杖】の人間なんだろうし……。
◇◇◇
「――はぁ、はぁ……受付嬢さんよ、見ろよこれ、蘇生草、いっぱいあるぜえ……」
エスカディアのギルド協会、カウンターの受付嬢前にて、山と積まれた蘇生草を背景に息を荒くするクラーク。
「え、えっと、わたくしの記憶が確かであれば、まだ受注はしていないかと思われますが……?」
「はあ? そんなの、今受けたことにすりゃいいだろ。ほれ、ギルドカードだっ」
「……」
「ほら、前回おめーに嫌がらせしてた冒険者がいただろ? あれに恥をかかせるためでもあんだよ。つまり、おめーのために依頼を達成したってわけよ……」
クラークが血眼になりながらもキリッとした顔を作り出す。すると受付嬢がうつむき加減になり、見る見る顔を赤く染めていった。
「ク、クラークさん、自分だけかっこつけないでくださいよ! あ、あのっ、受付嬢さんっ、僕もあなたのためを思ったからこそ、ここまで頑張れました!」
「ケイン、こいつ! 先輩の俺に譲るのが定石だろうがっ!」
「こんなときだけ都合よく先輩面ですか!?」
「ったく、クラークもケインも必死すぎ。男ってどうしてこうなの……」
「クラーク、ケイン、エアル……さ、三人とも前を向いたほうがいいわよ……」
「「「えっ……?」」」
カタリナの動揺を隠せない声によって前を向いた三人。そこには別人のように鬼の形相をした受付嬢が立っていた。
「はあ……【聖なる息吹】ギルドでございますか。そのような下品極まる雑魚ギルドの方々に関しましては、永久に受付をする予定はございません。なので大変申し訳ありませんが、【正義の杖】ギルド以外の方々は邪魔ですのでとっとと消え失せていただきたく存じ上げます」
「「「……」」」
受付嬢は呆然とするクラークらの前でギルドカードを投げ捨てると、足で踏みつつにんまりと笑ってみせた。
「なお、あなた方が集めたものに関しましてもこちらで没収とさせていただきます。それではクソヤロー様方、骨折り損のくたびれ儲けでお疲れ様でございました」
「てっ、てんめえぇ! そこまで言ったからには覚悟はできてんだろうなあぁっ……!?」
「まったくもって同感です! 少なくともあなたのような阿婆擦れには言われたくないですねえ!」
「あたしも久々にアッタマきたわ! ふざけないで頂戴っ!」
「……あらあら、身の程もわきまえずに喧嘩上等でございますか。もう一人の方は力量の差をわかっていらっしゃるようですが……」
「「「えぇ……」」」
クラークたちが驚いた様子で振り返ると、カタリナの姿は忽然と消えてなくなっていた。
「わかったならとっととこっちを向きやがれでございますよ……」
受付嬢は不敵な笑みを浮かべながらカウンターに片足を乗せると、自身の肩を豪快にはだけてみせた。
「「「……」」」
「それでは下種の皆様……わたくしの力、ほんの少しだけ味わってくださいませっ……!」
まもなく、クラークたちの痛々しい悲鳴が協会内にこだまするのであった……。
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