上 下
88 / 93

88話 苦情と同情

しおりを挟む

「カイン様、おかえりなさいませっ」

「カイン、おかえりだぜっ!」

「あ、うん、エリス、セニア、ただいまっ――」

「「「「「――ギルド長様、おかえりなさいませー!」」」」」

「た、ただいま……」

 今日も時間に余裕があったこともあって冒険者ギルドの入り口から入ったわけなんだけど、エリスやセニアだけじゃなく、係員が一人を除いて総出で出迎えてくれた。

 なんだか気持ちいいなあ。まだしてくれないけど、それは今後の楽しみに取っておこう。さて、ペルゼン伯爵のサインが入った紙と引き換えに報酬を貰わないとね。

 名前:カイン
 レベル:58
 年齢:16歳
 種族:人間
 性別:男
 冒険者ランク:S級

 能力値:
 腕力SS
 敏捷A
 体力SS
 器用A
 運勢SS
 知性SSS

 装備:
 ルーズダガー
 ヴァリアントメイル
 怪力の腕輪
 クイーンサークレット
 活力の帯
 エンシェントロザリオ
 宝珠の杖
 聖書

 所持金:
 金貨843枚 銀貨1256枚 銅貨2239枚

 スキル:
【削除&復元】A
【鑑定士】A
【武闘家】A
【殺意の波動】B
【擦り抜け】B
【偽装】B
【瞬殺】C
【亜人化】C
【難攻不落】C
【混合】C
【維持】D
【進化】E
【分離】F
【二重攻撃】F

【精神世界】F
 効果:
 自身の半径2メートル以内にいる対象(自分を含める)を、精神世界に送り込むことができる。

 オフの状態で自他ともに現実世界に切り替えられるが、一度取り込んだ相手ならいつでもオンで精神世界に閉じ込めることが可能。そこでは一切のスキル、テクニックを使用することができず、使用者から10メートル以上離れることはできない。

 使用者が自身で精神世界を壊すと判断するか、あるいは強い精神力によって壊されることで効果は消失する。

【ストーンアロー】B
【ウィンドブレイド】B
【ファイヤーフィスト】E
【アイススマッシュ】E
【サンダースピアー】E

 テクニック:
《跳躍・大》
《盗み・大》
《裁縫・大》
《料理・大》

 ダストボックス:
 アルウ(亡霊)
 ファラン(亡霊)
 髑髏1956
 疲労6
 頭痛3
 眠気5
 重圧2
 緊張3

 ようやく目標の金額に届きそうなこともあって、僕は所持金も表示することにした。これでダンジョンで散った冒険者用の新たな墓地や、孤児院を建てる費用が集まった。

 両親に捨てられた僕自身もそうだったように、フィラルサの村で親を失ったルインやユリイ、それにアリスのような不幸な境遇の子を一人でも救うためになんとかしたかったんだ。

 あと、行き場を失くした髑髏たちも墓場なら安らかに眠ってくれるはず。これらは都内に既にあるものだけど、数が不足してるっていうしね。それに僕の場合、お金がなくなってもすぐに貯められる自信があるのも大きい。

「「「「「――いただきますっ!」」」」」」

 いやー、今日も食事が美味しい。これも、みんなが褒めてくれるからって食事係の人がはりきってくれるおかげだね。

「……」

 ん? なんか一人だけ様子がおかしいと思ったら、いつも点呼に応じてくれないあの男の人だった。スプーンを持った手が震えてる上に目が泳ぎっぱなしで、これじゃとてもじゃないけど食事どころじゃない。

 声をかけようかと思ったら、彼は夕食を半分以上も残したまま、フラフラとした足取りで退席してしまった。一体何があったっていうんだろう……。



「――ギルド長様、クレーム報告書が入ってきております」

 片眼鏡が特徴の受付嬢、エステルが会議室に入ってきた。主にクレームを担当している子で、愛想はよくないけどギルドじゃエリスと並んで優秀で、冒険者からの人気も高い子なんだ。

「あ、うん……って、えぇっ……!?」

 僕の座る奥の席に置かれたのは、とても分厚い書類の山だった。

「こ、これが全部クレーム……?」

「はい」

「……」

 こんなの今まで見たことがない。

「――こ、これは……」

 しかも、そのクレームは全部に対してのものだった。

 アルフレド……この係員はギルドの古参の一人で、仕事はそこそこできるけど勤務態度が悪く、僕に対して特に反抗的な人であり、前ギルド長にとても懐いていたことでも知られている。

 んで、今回彼に対してどういうクレームが入ってるかっていうと、なんとギルドの経費が入っている金庫から金を盗んだという衝撃的なものだ。それというのも、アルフレドは盗賊上がりで、《開錠》テクニックを持っている可能性が高いからというものだった。

 まあ確かにあの人は普段から態度が悪すぎるし、そういう経歴もあるから真っ先に疑われてもおかしくない。でも、だからといって犯人だと決めつけるのもよくないんじゃないかな。ちゃんと調べてから対処しないと――

「――ギルド長、話がある」

「あ……」

 こ、この声は聞き覚えがある。アルフレドのものだ……。

「どうぞ」

 僕が反応してすぐ、アルフレドが目を吊り上げて明らかに怒った様子で入ってくる。おそらく無実を訴え出るつもりなんだろうけど、僕だけは信じてあげないとね……。

「これを読んでくれ」

「えっ?」

「それじゃあ――」

「――ま、待ってよ、アルフレド!」

 アルフレドが僕に渡してきたのは辞表だった。

「なんで辞めるんだ……?」

「は……? なんで辞めるって、その苦情の山を見りゃわかるだろ。別に俺はやってねえけど、ただでさえギルド長が嫌いなあんただから居心地も悪いし、もう俺がやったことにしておいてくれ。それにカイン、あんたも俺みたいな害虫がいなくなってせいせいするだろ。んじゃ、達者でな――」

「――待ってくれ!」

「……はあ? まだ俺に用事があんのか……?」

「逃げるのか……?」

「……へ?」

「僕はこの辞表を断固として認めない。君がやったっていう確固たる証拠が出て来るまで、絶対に逃げさせない……!」

「……はっ。黙って聞いてりゃ、クソガキが偉そうに……」

「そうだよ、僕はクソガキだ」

「……」

「僕は君たちのような係員がいなければギルド長としては何もできないし、人間としても未熟だ。だからこれからも力を貸してほしいし、逃げさせない……」

「はあ……勝手にしろ、バーカ」

「……」

 アルフレドが呆れた様子で口元を引き攣らせて両手を広げながら出ていくと、エステルが眉をひそめながら近づいてきた。

「ギルド長様、あのようなならず者につきましては、この件に関係なく追い出したほうが賢明かと思われますが……?」

「いいんだ、エステル。僕に考えがあるから……」

 ここで折れるわけにはいかないんだ。アルフレドは確かにならず者なのかもしれないけど、最初から立派な人なんていないと思うし、少しは傷があったほうがわかりあえるような気がする。

 ギランやジェリックと違って、あの人はそこまで腐ってる人には見えない。だから、この難題をクリアして彼と仲良くなりたいっていうより、せめてお互いを理解し合える関係になりたいと思ってるんだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。  オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。  やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し
ファンタジー
 16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。  だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。  そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

処理中です...