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51話 熱中
しおりを挟む「ママー、あれ見てー」
「しっ。あんなのに目を合わせちゃいけません……!」
「「「「……」」」」
ヘイムダルの王城前、ナセルたちが自分たちもフィラルサの村で活躍したと主張するも、兵士に門前払いをされて呆然とするところだった。好奇心旺盛な子供以外、誰もが目を背けるほどボコボコで、グルグル巻きにされた包帯からは血が滲んでいた。
「ぢぐじょー……これじゃなんのためにあんな危険な場所へ行ったのかわかんねえよ……」
「ホント……ケホッ、ケホッ……なんなのよもう……」
「グフッ……ジーザス!」
「うぅ……も、もう無茶苦茶です……」
「「「「はあ……」」」」
彼らが特大の溜め息を重ねつつ王城をあとにしようとした瞬間、大歓声が上がるのに気付いて振り返ると、凛々しい表情の少女を筆頭に騎士団が駆け抜けていくところだった。
「「「「「第四王女様万歳っ!」」」」」
「「「「……」」」」
呆然としていたナセルたちだったが、まもなくはっとした顔になる。
「お、おい、すげーな。初めて見たぜ……」
「確か、ソフィア様だっけ?」
「イエスッ! 戦いに明け暮れるお転婆娘と言われていたが……イメージと全然違うっ」
「きりっとしてて、上品で……あたしたちの想像とはかけ離れてますねぇ――」
「「「「「――ワーッ!」」」」」
さらに第二波の歓声が沸き起こり、見ると今度は一台の豪華な馬車で、その窓から手を振っていたのはカインだった。
「あ……あ……カ、カインのやつ、あの胸につけてる金竜って、まさか……」
「……え、S級の褒章よね、どう見ても……」
「オーマイゴッド……!」
「信じらんないですうぅ……」
最早放心状態のナセルたちだったが、さらに追い打ちをかけるが如く周りからヒソヒソとした噂話も耳にすることに。
「カインとかいう人がつけてるのってさあ、褒章も凄いけど、あの首に下げてるロザリオはソフィア様から貰ったものらしいぞ!」
「嘘ー! ソフィア様は男に興味がないって聞いてたのに、ショック……」
「それだけカインってのがすげー魅力的なやつなんだろうよ」
「なんせ、あの猪人族を一人で倒したっていうくらいだからなぁ」
「それって凄すぎね? S級以上の実力者だろ……」
「あー、羨ましいなあ。俺もカインみたいになりてえ……」
「「「「……」」」」
ナセルたちはそれからしばらく、お互いに目を合わせることはおろか、一言でさえも発することはなかった……。
◆◆◆
名称:
エンシェントロザリオ
効果:
遥か昔に作られた古代のロザリオ。身につけると運勢(LUK)がかなり上昇する。
ソフィアから貰った運が上がるロザリオを首にかけたおかげか、僕はあれからすぐ冒険者ギルドに行ったわけなんだけど、目当てのS級の依頼が数多く貼られてて驚いた。それも、全部よさげなものばかりで目移りしちゃうほどだ。
ただ、どれもこれも共通してるのが、さすがにSランクなだけあって依頼をこなす過程で出てくるモンスターが物凄く強そうだっていうこと。
なのでダンジョンに潜る前に【進化】で所持スキルをパワーアップさせたいところだけど、実行してみたら熟練度がA以上じゃないと不可って出たんだ。
そもそもAになるまで結構かかるかもしれないし、慎重すぎるのもあれだから依頼をこなすついでにスキルを鍛えるとしよう。
うーん、どれにしよっかなあ――
「――カイン様」
「あっ……」
僕のすぐ後ろにエリスが立っていた。
「エ、エリス、いつの間に……」
「何度も受付のほうから呼びかけたつもりですが、依頼を探すのに熱中しておられたのか聞こえなかったようですね。お話があるのでお時間よろしいでしょうか」
「あ、うん……」
あれ、なんだかエリスの様子が変だ。無表情だし、声にも抑揚がない。呼びかけてるのに僕が気付かなかったから怒ってるのかな……?
「エリス、今日も美人だねっ」
「……」
「エリス……?」
「カイン様、それは誰にでも言っておられますか……?」
「えっ……そ、そんなことは……」
「ふふっ」
「エ、エリス?」
「冗談です。カイン様がなんだか遠い存在に思えちゃって、それで意地悪してみせたんです。ごめんなさい」
「あー、びっくりしたあ。エリス……僕はなんにも変わらないよ」
「じゃあ、今すぐ私と結婚していただけますか?」
「……エ、エリス、それ本気で……?」
「カイン様、私はいつまでも若くないのですよ……?」
「……」
「ふふ……ごめんなさい。ちょっと胸のつかえが取れました」
「えっ、いや、ちょっと待って。エリス、今のは本気――?」
「――お話というのは、ギルド長様のことです。あの方から直々にお話があるそうですよ」
「え……? ギルド長様から直接……?」
ギルド長なら間違いなく今でも僕を忌み嫌ってるはずだよね。それが直々にって、一体なんの話なんだろう……。
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