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44話 生意気

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「――こ、これは……」

 強烈な死臭が僕の顔面を引っ掻く。

 フィラルサの村は文字通り死体の山で溢れていて、子供から老人まで見るも無残な姿で横たわっていた。すぐに臭いや動揺、恐怖等を削除したけど、唯一……怒りの感情だけは捨てなかった。

「――た、たすっ……助けてえぇっ……!」

「あ……」

 一軒の家の窓から一人の幼い女の子が飛び降りて裸足でこっちに駆け寄ってきたかと思うと、僕の後ろに素早く隠れた。

「「「「「グヘヘヘッ……」」」」」

「……」

 それからすぐ、僕らは猪人族らしき鎧を纏った大男たちに囲まれてしまった。

「ひっく……お、お兄ちゃん、に、逃げなきゃ、ダメだよぉ……ぐすっ……この獣人さんたち、に、パパも、ママも、殺されちゃった、から……えぐっ……」

「そっか……。辛かったね。でももう大丈夫だから、そこを動かないで」

「お、お兄ちゃん……?」

「へへっ、こいつ度胸ありそうだぜ?」

「いい声で泣きそうだな」

「クアドラ様に喜ばれるぞ」

「「「「「グハハッ!」」」」」

 なるほど、人間を殺す前に断末魔の悲鳴を楽しもうってわけか。最高に悪趣味な一族だね……。

「おうおう、いくらなんでもこのままじゃ可愛げがねえから早く泣けよ、人間」

「思いっ切り殴ってみるか?」

「そしたらすぐ死ぬだろ、バカか」

「とにかくこうして威嚇してりゃ、近いうちに後ろのガキと一緒に小便ちびって泣き出すだろうぜ?」

「そしたら、ツーンとしたいい匂い、プリティな泣き顔、刺激的な悲鳴のハーモニーッ」

「「「「「ガハハッ!」」」」」

「……ひっく、お兄ちゃん、怖いよぉ……」

「大丈夫……」

 僕は女児の手を少しだけ強く握った。とっとと倒したいところだけど、まずは【鑑定士】スキルでこいつらのステータスを確認しなきゃね。

 ――うーん、ろくなスキルを持ってないなあ……って、一人いいのがいた。

 名前:グルタス
 レベル:27
 種族:猪人族
 属性:地
 サイズ:中型

 能力値:
 腕力A
 敏捷B
 体力A
 器用C
 運勢F
 知性D

 装備:
 アイアンメイル
 ツーハンドアックス

 スキル:
【難攻不落】
 効果:
 自身の防御力が跳ね上がる。使用していなくても少々上昇する。

「……」

 一通り見たけど、使えそうなのはこの猪人族のスキルだけだった。あとは猪人族らしく身体能力が少し上がる系とかで大して役立ちそうなものはなく、ほとんどが必要ないと判断してるのかあるいは知能が足りないのか、スキルさえ持ってない状態だった。

「なあ、さっきから黙ってねえでなんとか言えよ、人間のオスガキッ! あ? 怖くて声も出せないのかー?」

 猪人族の一人が変顔を近付けて挑発してきた。よーし、こっちもお返ししてやろう。

「生意気だね」

「「「「「へ……?」」」」」

 彼らは僕の台詞に対してわけがわからなそうにお互いを呆然と見合ったあと、一人の猪人族が納得顔でポンと掌を叩いてみせた。

「あー、おいらわかったぞ! 人間って自虐が好きって聞いたことあるし、生意気ですみません、見逃してくださいってことだろ!」

「「「「なるほどっ……!」」」」

「……」

 もういいや、そろそろゴミを片付けよう。

「見逃してくださいって、それは君たちの台詞なのかな……?」

「「「「「はあぁ……?」」」」」

「ちなみにもう、全員僕のスキルで全員動けないよ」

「「「「「……」」」」」

 彼らの顔が、見る見る驚愕の色で包まれていくのがはっきりとわかって面白かった。まずノースキルやゴミスキルの猪人族を一気に仕留めたあと、グルタスが【難攻不落】スキルを使ってきたところで削除して倒そうかな。



 ◆◆◆



「「「「ぎゃああぁぁぁぁっ!」」」」

「お……」

 とある一軒家、赤く染まった台所で巨躯の男がバナナを食べつつ悲鳴がした方向を見やる。

「今の、中々の悲鳴じゃねえかあ。あいつら、不器用に見えて上手くやってるみてえだなあぁ――?」

「――ク、クアドラ様っ……」

 そこに慌てた様子で駆け込んでくる猪人族の男。

「ん、伝令かぁ。どうしたあぁ?」

「今のは人間の悲鳴ではなく、我々同胞たちの悲鳴です! この目でしかと見ました! なんと、にやられていたようです!」

「……ほう。たかが一匹の人間にやられたっていうのかあ、そうかあ……」

「ひっ……?」

 クアドラが眠そうな顔から一転して怒りの形相になり、伝令の頭を大きな手で掴んで握り潰していく。

「ぐぎぎっ……」

「なあ、知ってるかあ? 楽器っていうのはなあ、弾きこなすのが難しい生意気なやつほどぉ、名器って呼べるんだよおおぉぉ……」

「ヒヒッ……」

 どこからともなく不気味な笑い声と咀嚼音が響き渡る。

、美味しいかいぃ? 面白そうなやつが現れたみたいだから、戦う前に栄養つけなきゃねえぇ……」

 クアドラは歯茎が見えるほど会心の笑みを浮かべるのであった……。



 ◆◆◆



「お、おいっ、今の悲鳴聞いたか……!?」

「う、うんっ」

「イエスッ」

「聞きましたっ」

 茂みの中、ナセルの台詞にうなずくファリム、ロイス、ミミルの三人。

「あの凄まじい叫び声は人間じゃ出せねえと思うし、おそらく猪人族どもの悲鳴だ。カインのやつが来たに違いねえ! 様子を見てあいつが勝てそうだったら援護射撃っ、負けそうだったら即退却だっ!」

「「「りょ、了解っ……!」」」

「――……」

 ナセルたちが立ち去ってまもなく、茂みの近くで横たわっている幾つかの死体の中から、むくりと起き上がる者がいた。

(ククッ……お手並み拝見といこうか、カインよ……)
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