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43話 高次元

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 僕は《跳躍・中》を駆使してフィラルサの村まで向かっていた。

 エルゼバランに向かったときもそうだったけど、こっちのほうが馬車よりもずっと速いし疲れだって削除すればいいだけだから楽だしね。

 目的地の村を襲った獣人たちは、エリスによると猪人族ちょにんぞくっていって獣人の中でも特に残忍なことで知られる一族らしい。

 人の少ない集落や村だけ狙う等、人間に負けないくらいの頭脳を持ってるだけじゃなく、その首領のクアドラってやつが滅茶苦茶強いみたいだから王国側も被害を拡大したくなくて静観してるんだそうだ。そんな物騒な相手とやり合うからこそ、どこのギルドからも断られてきた格好なんだ。

 エリスが言うには、この事件は総合的に見てAランクの依頼だけど、これから少しでも事件が長引き、被害が拡大すればすぐにSランクに到達するようなとんでもない依頼で、各町の冒険者ギルドが避けようとするのも理解できるという。

 普通に考えたら、危険すぎるので絶対に受けてはいけない依頼。でも僕には関係なかった。当然のようにエリスたちからは止められたけど、こればっかりはなんとしてもやり遂げなきゃいけない。あの少年がどんな気持ちで都までやって来たかってことを考えたら、それだけで自然に体が動くようなことだった。

 絶対に猪人族からフィラルサの村を取り戻して、あの子の無念を晴らしてやるんだ……。



 ◆◆◆



「ぎぃやあああぁぁぁぁっ!」

「おほう……いい悲鳴だあぁ……」

 王都ヘイムダルからほど遠い場所にある、大きな樹木に囲まれたフィラルサの村にて、村人の悲鳴と返り血を浴びた獣人の男が心地よさそうに目を細める。

 その男は周りにいる体躯の大きな猪人たちの中でも特に図抜けた体格と剛毛を持ち、何もせずとも大いに目立ってしまうほどであった。

「ところでお前たちぃ、今日は人間を何匹殺したあ……?」

「五匹っす」

「十匹っ!」

「おいらなんて二三匹――」

「――チッチッチ……」

 次々と上がる猪人たちの声に対し、質問した巨躯の男がさも不満げに舌打ちしてみせる。

「数じゃねえぇ」

「「「えっ……?」」」

「殺しってのはなぁ、数より内容がものを言うんだ。どれだけ怖がらせ、恐怖の悲鳴、音色を響かせたか……そういうのを競えってんだよお!」

「「「お、応っ……!」」」

「わかりゃいいんだよぉ、わかりゃあ……」

 大男が腕組みしつつ満足気にうなずくと続けて語り始めた。

「あのなぁ、俺たち猪人族は、無暗に突進していくだけの動物じゃねぇ。かといって、慎重さだけが取り柄の人間でもねぇ。強さ、狡賢さ……両方の長所をバランスよく取った、いいとこ取りの種族ってわけよお。だから、意識をもっと高く持っていこうぜえっ。わかったなあぁ?」

「「「はっ! クアドラ様っ!」」」

「フフッ。わかればいいんだよぉ、わかればあぁ……。さあて、次に奏でる楽器を探しにいくじぇえぇっ」

「「「応っ!」」」



 ◆◆◆



「きゃああぁっ!」

「……」

 遺体にまみれたフィラルサの村にて、屋敷の台所で隠れていた女の頭に斧を振り下ろした猪人族の男だったが、いかにも無念そうに返り血まみれの顔を横に振ってみせた。

「はあ、ダメだ……。俺はクアドラ様みたいに。もうちょっと工夫がいるっぽい――うっ……?」

 自身の額に弓矢が刺さり、それを驚いた顔で引き抜こうとする猪人族。

「――おい、今だっ!」

「「「それっ!」」」

「お……?」

 猛然と飛び出してきたナセルたちによって、猪の獣人は剣や杖でこれでもかと頭部を滅多打ちにされ、しばらく頭を抱えながら苦しみ悶えていたがまもなく絶命した。

「ふう……。予想通りタフな相手だったが、一匹ずつ、それも急所を狙っていけばなんとかなりそうだな」

 猪人族の死骸を見下ろしてほっとした様子のナセル。

「ナセル、それはそうかもしれないけどさあ……正直そう何度も都合よくいくとは思えないし、私怖いよ。敵の数見た? ありえないくらい沢山いたでしょ……」

「オー、イエスッ。ファリムの言う通りだ、リーダー。はっきり言ってこれは無謀かと……」

「あたしも同感ですね。早くおうちに帰りたいです……」

 メンバーのファリム、ロイス、ミミルの怯んだ様子を見て、リーダーのナセルが心底呆れ果てた表情に変わった。

「お前たち、それでも冒険者なのか……? 同じ落ちこぼれだったカインでもあれだけやれてるんだ。俺たちも負けてられねえだろっ! それにあいつは必ずここに来るはずだから、おこぼれを貰うつもりで観察して最後にいいとこ取りすりゃいいんだ。そうすりゃ最低でもこの村を救った連中として評価されるはずっ!」

「「「……」」」

「お、おいっ、お前たちさっきからなんで黙ってる……?」

「い、今なんか……」

 ファリムが声を震わせながら遺体の一部を指差したことで、その場の緊張感が一気に高まっていく。

「オッ、オーマイゴッド!」

「こ、怖いですぅ……」

「きっ、ききっ、気のせいだろ! た……ただの死後硬直かもしれねえんだし、そそそっ、それくらいでいちいち怖がるなあぁっ!」

 まもなく、彼らはナセルを筆頭に逃げるようにその場をあとにしたわけだが、動いたと指摘された遺体もまた忽然と姿を消すのであった……。
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