上 下
40 / 93

40話 略奪

しおりを挟む

「それはレインさんというお方でした……」

「レイン……」

 なんだか名前の響きも僕に似てるような……。

「相手を戦闘不能にするとスキルを獲得できるという、【略奪】というスキルを持っておられたのでございます……」

「りゃ、【略奪】……」

 スキル名はともかく効果までも僕のスキルに似てる感じだけど、その前に倒さなきゃいけないっていう前提があるから【削除&復元】の下位互換だね。

「スキル名的に怖い方だと誤解されやすいですが、本人はとても穏やかな方で、仲間も多くおられました。あえて包み隠さず自分の能力を打ち明けておられたようですし、襲われない限りこっちから手を出すことはないと、そう仰られていたのでございます。ですが、そのことで彼はさらに引っ張りだことなり、やがては王位争いの泥沼に巻き込まれてしまうことに……」

「な、なるほど……」

 身につまされる話だ。やっぱり僕の能力は誰にも打ち明けないほうがよさそうだね。

「レインさんはどちらの勢力の味方をしたいというのはなく、今の仲間たちと冒険を続けたいという選択をしたのですが……本人だけでなく仲間にも嫌がらせが始まるようになり、その結果人望の厚かったレインさんを守ろうとしたギルドの方々を巻き込んだ壮大な抗争へと発展していってしまうのでございまして……」

「うわぁ……」

 思わず声が飛び出してしまうくらい酷い話だ。エリスが忠告する気持ちも改めてよくわかる。

「その結果多くの被害が出てしまい、レインさんは心を病んで、孤立していってしまわれるのです。元々【略奪】というスキルには使いすぎると精神が不安定になるという副作用があり、仲間を守ろうと必死に戦ったレインさんはやがて我を失い、とうとう狂ってしまうのでございます……」

「えぇ……」

「暴走して無差別に【略奪】を繰り返すレインさんを止めるため、ギルド長様が決断を下すことになります。戦った相手は必ず死ぬということで、『破壊王』とまで呼ばれている凄腕の冒険者を呼び戻し……止めることには成功したのですが、その際の熾烈な戦いでレインさんは命を落としてしまわれるのでございます……」

「……」

 聞いてて他人事とは思えない話だった。確かに非業の死だ……。

「自分は無能ゆえに助けることはできませんでしたが、これ以上の悲劇を繰り返したくない、その思い出こうして訴え出た所存でございます……」

「……なるほどね。ありがとう、ファラン。僕もそのレインって人みたいな能力だから気を付けるよ――って、あっ……!」

 言っちゃった。どうしよう……。

「大丈夫です、カインさん。自分はアルウ様の無念を晴らすべくああいう噂を流しましたけど、基本的に口だけは堅いですので。それと、二つの勢力に同じように巻き込まれておられる時点で察しております……」

「な、なるほどね……」

「あの、もしよかったらここで自分の能力をカインさんに授けたいのですが。倒されてもよいので……」

「ちょっ……!」

 いくらレインのものと似てるからってそういう方法で獲得するスキルじゃないんだよね。しかもファランも斜め上の勘違いをしてるのか顔を赤くしちゃって……。

「べ、別に倒さなくてもいいんだよ。スキルを使ってもらえたら……」

「あ、そうなのでございますね。では、行きます……!」

「……」

 ファランの足元に魔法陣が出てきて、止まったところで削除する。これで【亜人化】スキルはダストボックスに入ったはず。よし、ステータス確認――

「――あの、……」

「えっ?」

「実は渡したいテクニックもあるんです。もう使わないものなので、獲得できるものならよければ……」

「テクニックかあ。どんなの?」

「お裁縫なんですけど……」

 ファランがそう切り出して、どこからともなく毛糸と針を取り出すとともに縫物を始めた。思わず引き込まれてしまうほど巧みな手捌きだ。

「あの、どうぞ……」

「ど、どうぞって……」

 これじゃ僕に向けられたものじゃないから削除なんてできないはず。

「あ、そうだ。でやってくれるかな?」

「あ、はい。それならよろしければ、カインさんに自分の手を握っていてもらえると感じが出るかもです……」

「「……」」

 僕たちはお互いに少し照れながらも手を合わせた。っていうか、凄く冷たい。アルウのとき以来だ。まさかね……って、試しに削除してみたら、彼女の指先が別人みたいな粗い動きに変わった。どうやらテクニックを削除できたみたいだ――

「――あっ……」

「カインさん、どうされました……?」

 僕はファランの体が消えかかっていることに気付いた。彼女はおそらく……。

 本当にそうなのかどうか試しに彼女自身を削除してみると、フッと消えた。やっぱりそうだった。彼女はそのことを知らないだけでアルウと同じく亡霊で、役目を果たすことができたと思ったことで無意識的に成仏しかけたんじゃないかな。

 でも、まだファランを失うわけにはいかない。アルウがきっと必要としてるだろうし、彼女を復活させるための重要な鍵になるかもしれないから……。

 それにしても、ファランは決して無能なんかじゃなかった。誰かに脅威だと思われてて、本人が知らないうちに謀殺されてしまったんだろうね。

 色んな情報が短時間で一気に入ってきたせいか頭が痛くなってきた。頭痛を削除してから寝るとしよう。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...