上 下
33 / 93

33話 釘付け

しおりを挟む

『――コオオォォ……』

「あっ……」

 ドッペルゲンガーの両目が光り、こっちに向かってゆっくりと歩き始めた矢先だった、フッとやつの姿が消えて僕のすぐ目の前に現れたかと思うと、足元に魔法陣が出現したのだ。これは……特殊回避の影移動に加えてあれを使う気だ。一撃で相手を殺せる驚異のスキル【瞬殺】を……。

 その恐ろしい効果を自慢するかのように、魔法陣はやつの足元でゆっくりと回り始めた。でも、僕には【削除&復元】っていうスキルがある。相手のスキルが仮に発動しても、削除できれば……って、待てよ? この【瞬殺】スキルの効果だと、もし削除できたとしても発動はしてるわけで、ってことになるんじゃ……?

「はっ……!?」

 僕は咄嗟に【殺意の波動】によってドッペルゲンガーの動きを封じると、《跳躍・中》で後方に下がっていった。頼む、間に合ってくれ……!

「……」

 敵の魔法陣が止まり、僕はゆっくりと呼吸を試してみた。

「……すー、はー……」

 最初は緊張からか息を吸えなくてびっくりしたけど、大丈夫だ。生きてる……。

 それでも距離的にはギリギリだったし、次はもっと考えていかないとそこら中に転がる死体と同化してしまうことになる。

 でも、一体どうしたら……? 相手のスキルの範囲内じゃないと削除しようとしても空振りになっちゃうだろうし、数に限りのある疲労や頭痛とか、吸収の眼光、毒針のような特殊攻撃を浴びせる程度じゃ、相手の体力の高さを考えても焼け石に水だ。

 攻撃自体がまったく通用しない上、スキルを削除しようにもそれをやったときには自分が死んでしまうような化け物相手に、どう立ち向かっていけばいいっていうんだ……?

 僕の命が二つあればいけるんだけど……って、二つ……? そうだ、があった……!



 ◆◆◆



「い、今のはっ……!?」

 エルゼバランの村近くの丘の上にて、騎乗した少女が思わず身を乗り出してしまいそうになるほど、目下で繰り広げられている少年と化け物の戦いに夢中な様子であった。

「はっ、どうやら少年が化け物の攻撃をかわしたようで――」

「――そ、そんなことは誰でもわかるっ! あれをよく見よ……普通の者ならば、死が間近に迫ると頭の中が真っ白になり、何もできなくなってしまうもの。そんな崖っぷちの状況で、あの者はスキルかテクニックのようなものを駆使して凌ぎ切ったのだぞ……」

「なるほど、あの若さで銀色の双竜を胸に飾るだけはありますな……」

「うむ、それにあの者は若さ特有の勢いだけではない……何か、を感じる。血が……この血が騒ぐのだっ……!」

 少年を見下ろす少女の瞳は、いつの間にか燃え盛るような強い輝きを放っていた……。



 ◆◆◆



「お、おい見ろっ、カインの野郎が化け物と戦ってやがるっ……!」

 家の陰からこっそり戦況を覗いていたナセルたち。パーティーリーダーの彼を筆頭に、カインが戦う様子に釘付けになっていた。

「ホ、ホント……。あんなどうしようもない怪物を相手にカインが頑張ってる!」

「オーッ、あのカインが……アンビリーバブルッ……!」

「す、凄いですけど、カインさんってあんなキャラでしたっけ……? 死ぬのが怖くないんでしょうかねぇ……」

「「「「……」」」」

 しばらく彼らは神妙な表情で同じ方向を向いていたが、まもなくナセルがはっとした顔で振り返る。

「というかよ、おい、お前たち……誰か早くカインを手伝えって! そういう作戦だろうがっ!」

「い、いや、それならまずナセルが手本を示すべきでしょ!?」

「オー、イエスッ! まずはリーダーが弓矢で援護射撃をするべきだっ」

「そ、そうですよっ。リーダーさんがやってくれたらあたしたちも頑張りますのでっ……!」

「お、おいっ! そんなこと言って、あの化け物が怒って向かってきたらどうせ俺だけ置いて逃げるつもりだろっ! バレバレなんだよ!」

「「「うっ……」」」

「図星かよっ! なあお前たち、それでもパーティーメンバーなのか……? 絆の欠片もないっていうのか……!?」

「はあ? ナセルったら……追放したカインに協力して恩を着せようとか、そんな無茶な作戦立てておいてよく言うわよ!」

「ファリムに同意だ!」

「あたしもです!」

「お、おいっ! お前らだって最初は承諾しただろうがよっ!」

 ナセルたちは言い争いに夢中で、その場を離れてでもカインを援護しようとする者は誰一人としていなかった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し
ファンタジー
 主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。  彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。  片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。  リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。  実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。  リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。

処理中です...