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26話 最後の機会

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「……」

 待ち合わせした路地裏に僕は一人で来ていた。

 もうすぐ約束の時間――夜の十二時――だけど、薄暗くて静まり返った周囲にまだ誰かいるような気配はない。もしあいつらが警戒してここに来なかった場合別の手段を考えなきゃいけないけど、そのときはそのときだしスキルの重要性を考えたら来る可能性のほうが高いはず……。

 ――来た。乾いた靴音が二つ、こっちに近付いてくるのがわかる。やがてその音が止まったときには、二人の人物が月明かりに照らされて僕の前に現れるところだった。

「またこうして会えるとはな、カイン」

「ご機嫌いかがかな、カイン」

「久しぶりだね、ギラン、ジェリック……」

 忘れもしない。僕がスキルやテクニックを削除した二人。やっぱり僕に恨みがある同士で手を組んでたんだね。冒険者にとってスキルは命だから恨むのはわかるけど、あんなの自業自得なのに。

「で、ちゃんとスキルは元に戻してくれるんだろうな?」

「戻してくれないとお話にならないからねえ」

「うん、戻すよ。その代わり、手紙に書いたようにギルド長の前で真相を告白してほしい」

「あぁ、いいぜ。なあジェリック」

「もちろんだとも」

 意味ありげに目配せしつつ笑い合う二人。いかにも裏がありそうな感じだけど、そんなのわかりきってる。彼らの思うつぼになるつもりはない。

「だがなあ、今や立場はこっちのほうが上だぞ、カイン。お前のほうから誠意を見せろ」

「そうそう。カインよ、一週間以内に私たちがなんとかしないと君は破滅する運命だからね……」

「わかってる。これからスキルを戻すから、明日ギルド長の前で真相をみんなの前で告白してほしい。あの殺し屋の男が、【死んだ振り】スキルで僕に殺された振りをしただけって言えばいいんだ」

「「……」」

 お、ギランとジェリックがいかにも痛いところを突かれたって顔をした。どう考えても効いてるし、ごまかしは通じないってわかったはず。

「そ、そこまで調べやがるとはなあ……。嘘はつけねえな、ジェリック」

「う、うむ……」

「じゃあ、どう言えばいいかわかるよね?」

「あぁ、カインに殺害されたはずのあの殺し屋の男は、実際は【死んだ振り】スキルを使って殺されたように見せかけただけだ。カインは何も悪くない、こう言えばいいんだろう?」

「うん。約束だからね。さあ、今からスキルを元に戻すよ」

 僕はそう宣言すると、実際に彼らの元でスキルを復元してみせた。

「「――おおぉっ!」」

 二人とも足元に魔法陣が浮かび上がってきたことで凄く喜んでて、見てるこっちまで嬉しくなる。これで明日本当に二人が真実を打ち明けてくれたら、双方どっちも幸せになれる。でも、そうでないならどっちかが不幸になる。これは僕が彼らに与えた最後のチャンスだ……。



 ◆◆◆



「もう身の潔白を証明する手段が見つかったとは、見上げたものだ……」

 ギルド長やその関係者が鎮座する冒険者ギルド二階の会議室に、僕はギランとジェリックの二人とともに訪れていた。ギルト長の発言とは裏腹に、やっぱりというか凄く剣呑な空気をひしひしと感じる。中にはエリスもいてとても不安そうにしていた。早く安心させてあげないと……。

「だが、カインよ、もしその証拠が偽りのものだと判明した場合、猶予なしに即刻除名処分となる。それでもよいか?」

「もちろん、構いません」

 勝算がなかったらそもそもこんなところには来ないわけだしね。

「では……早速証拠を見せてもらうぞ」

「はい。証拠はここにいるギランとジェリックの二人で、あの日路地裏の奥で事件を目撃していたってことはみなさんも周知の事実かと思います。その彼らが、僕が殺してないことを今から証明してくれます」

「ほお……では、聞かせてもらおうか。ギランとジェリックよ」

 肌がピリピリするほどの異様な緊張感に包まれ、シーンと静まり返る場内。まだ二人からはなんの発言もなかった。

「おや、二人ともどうした? まさか、何も喋らないことがカインが殺しをやっていないことの証明だとでもいうのかね? ん……?」

「「……」」

 ギルド長の再三の催促にも応じないってことは、もうギランとジェリックが僕の約束を破ったことは確定だね。残念だけどしょうがない。

「沈黙するだけでは到底証明にはならん。即刻カインを除名処分――」

「――カインに殺害されたはずのあの殺し屋の男は、実際は【死んだ振り】スキルを使って殺されたように見せかけただけだ。カインは何も悪くない」

「なっ……?」

 ギルド長を筆頭に、みんな動揺した様子でざわめいてる。それもそのはずで、今ギランがとんでもないことを口走ったからだ。発言した本人が愕然としてるのも、僕がギランの昨日の発言の一部を削除していて、ここで彼の元に復元させたためだった。

「ち、違う! 俺は何も喋ってねえ! 声が勝手に飛び出たんだ!」

「そ、そうだ! ギランの口が暴走しただけだっ!」

 そんなどうしようもない言い訳が通じるわけないよね……。

「ぬうぅ……というかだね、何故殺された振りをしたという男が殺し屋なのを知っているのか!? ギラン、ジェリック!」

「「はっ……」」

 ギランとジェリックの顔が見る見る青ざめていく。これで彼らの運命は決まったようなものだ。

「今の発言により、カインは無実だとわかった。だが、ギランとジェリック……お前たちは殺し屋を雇ってカインを陥れようとした罪により、即刻永久追放処分とするっ!」

「「しょ、しょんな……」」

 ちなみに、一時的に復元しておいた彼らのスキルも削除しておいた。どうしてこういうことができるのかっていうと、既に僕のものになっていたからつけ外しは自由にできるんだ。

「ち、畜生っ、こうなりゃあの手紙でカインも道連れにしてやる!」

「そ、その手があったか、ギラン! あの手紙をギルド長に見せれば――」

「――あ、あれ、消えやがった……」

「なっ……?」

「……」

 僕はギランの出した手紙を速攻で削除してやった。まあギルド長に見られたとしても、匿名な上に筆跡とかも【偽装】スキルで変えてるからそこまで心配はいらないんだけどね。怪しまれる可能性を考えたら消すのが正解だ。あとで復元して、【ウィンドブレイド】でバラバラにして本物のゴミ箱に捨てておこう。

「「おごっ……!?」」

 このあとギランとジェリックが自棄になって暴れる可能性も考えて、僕はダストボックスに入ってた負の要素を全部プレゼントしてあげた。特殊攻撃も幾つか。二人ともよっぽど感激したのか白目を剥いて気絶してる。

 エリスがこっちに向かってほっとしたような笑顔で小さく手を振ってるのを見て、僕はそれが何より嬉しかった。

 さて、久々に自分のステータスを確認してみるとしよう。

 名前:カイン
 レベル:31
 年齢:16歳
 種族:人間
 性別:男
 冒険者ランク:A級

 能力値:
 腕力S
 敏捷B
 体力A
 器用C
 運勢D
 知性S

 装備:
 ルーズダガー
 ヴァリアントメイル
 怪力の腕輪
 クイーンサークレット

 スキル:
【削除&復元】B
【ストーンアロー】E
【殺意の波動】E
【偽装】E
【ウィンドブレイド】F
【鑑定士】C
【武闘家】D

 テクニック:
《跳躍・中》
《盗み・中》

 ダストボックス:
 吸収の眼光25(特殊攻撃)
 アルウ(亡霊)
 毒針19(特殊攻撃)
 手紙(匿名)

 お……スキルの横にアルファベットが並んでる。【鑑定士】スキルの熟練度が上がったことで、それ自体が見えるようになったみたいだ。スキルを使い続けることで成長させる楽しみも出てきたから嬉しいなあ。
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