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20話 裏
しおりを挟む「ウププッ……思い出すだけで笑えてくる。最高の見世物だったぜ。捕まったカインのあのなんとも苦しそうな顔、見たか? ジェリック」
「あぁ、見たともさ、ギラン……。最後に観念したのか涼しい顔をしてたのが少々癪だったが、それでも私の胸は久々にスカッとした。ざまあみろだ!」
「「ワハハッ!」」
すっかり人の気配がなくなり本来の姿を取り戻した路地裏にて、二人の男――ギランとジェリック――が盛大に笑い合う。
「ふう……そういやジェリック、お前最初のほうであの殺し屋が弱そうだからってやたら心配してたが、ちゃんと俺の言った通りになっただろ。カインは間違いなく破滅するってな」
「うむ……。というかだねえ、まさかあえて弱い殺し屋をあてがって逆に殺させる作戦とは思いもしなくて、本当に君の知恵には恐れ入った! しかしあの男も腐っても殺し屋だし、あんな小僧に殺されてしまうとは夢にも思わなかっただろう……」
「なあジェリック。お前、本当にあいつが死んだとでも思ってるのか?」
「え……?」
ギランの口から飛び出した台詞に、ジェリックがさも意外そうに目をしばたたかせる。
「ギ、ギランよ、それは一体どういうことだろうか……? あの殺し屋はどう見てもカインに殺されていたではないか……!」
「ヘヘッ、まあ普通はそう見えるよなあ。これを言うのはタブーにされてるんだが、もう終わったことだしそろそろネタバラシしてもいいだろ。実を言うとな……」
ギランがジェリックに対し、パイプタバコを燻らせながら満足そうに語り始めたが、彼らが近くで潜んでいる人物に対して気付く様子は微塵もなかった……。
◆◆◆
(まだかな、まだかなあ……うちだけのカインどのはまだかなあ……)
鈴のついた大きなリボン、フリルのついたワンピースでおめかししたドワーフの少女リーネが、いてもたってもいられないといった様子で自身の店である肉屋の前を右往左往するものの、目的の人物が現れる気配は一向になかった。
(はうぅ、カインどの、今日はやたらと遅いのだぁ……。ギルドに行くにしても宿に行くにしてもいつもこの道を通るはずなのに全然来ないのだ。早くっ、早くうちに会いにきてほしいのだあぁ――)
「――はっ……!?」
突如リーネが体勢を崩して転び、脱げた片方の靴を見て恐ろし気に鈴を震わせる。
(こ、これは……なんとも嫌な感じがするのだ。うちの嫌な予感は昔から全然当たらないが、それでも心配なのだっ。カインどのに何事もなければよいのだが……)
◆◆◆
「へえ、面白い存在が現れたですって……?」
「はっ。これがまた、とんでもない可能性を持った化け物のような少年でして……」
謁見の間を思わせる煌びやかな部屋にて、足置き台のついた豪華な椅子に座る縦ロールヘアの女が、手前で恭しくひざまずく男と相対していた。
「とりあえず、その者の能力を詳しく聞かせて頂戴」
「それが……一戦交えたものの、詳細については残念ながらまだ掴めていないのです」
「えぇっ? 人一倍勘の鋭いあなたが戦ってみてもわからなかったなんて、意外ですわねえ……」
「何せ、次から次へと色んな能力を出してくるもので……。おそらくあれは戦闘を重ねるごとに能力を獲得していくタイプではないかと……」
片膝をついた男の言葉に対し、女の目が一層見開かれる。
「それはあの子のスキルと同じようなものなんですの?」
「おそらく……。吾輩の勘ではありますが、あの者にはあったデメリットらしいデメリットも、例の少年にはないように見受けられました。もう少し詳しく調べたかったのですが、様々な行動に改竄を加えているように見受けられたため、鑑定スキルがあったとしても通じないかと思われます……」
「なるほどですわ……」
しばらく顎に手を置いて考え込んだ表情の女だったが、まもなく薄らとした笑みを口元に浮かべてみせた。
「確かに面白い存在ですこと。あなたの話を聞けば聞くほど興味が出てきますし、側に置きたくもなります。しかし、期待しすぎるのもよくありませんわ。わたくしたちもできれば過去の惨劇を二度も繰り返したくはないですしね。さあ、どうしたものでしょう……」
「すべてはダリア様の仰せのままに」
「とにかく、その者をこちら側に引き入れるにせよ、拒否されて始末するにせよ……どのような能力で本当に副作用がないのか、具体的に知ってからでも遅くはありませんわ。まずは速やかにその者の身辺を調査しなさい、シュナイダー」
「はっ……!」
シュナイダーと呼ばれた仮面の男が立ち上がり、マントを翻して颯爽とその場を立ち去っていくのであった……。
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