上 下
7 / 93

7話 棘

しおりを挟む

 名前:カイン
 レベル:12
 年齢:16歳
 種族:人間
 性別:男
 冒険者ランク:C級

 装備:
 ルーズダガー
 ヴァリアントメイル

 スキル:
【削除&復元】
【鑑定士】
【ストーンアロー】

 テクニック:
《跳躍・小》

 ダストボックス:
 頭痛11
 疲労24
 眠気8
 空腹3

 あれからほんの数日で、僕はレベルを8から12に上げただけじゃなく、F級からC級まで冒険者ランクを一気に昇格させていた。新スキルの【ストーンアロー】がかなり強くて、《跳躍・小》で追い立てた兎の群れを一掃できるほどだった。

 眠らずに頑張った結果だからダストボックスには頭痛や疲労が溜まる一方だけど、危ないときにモンスターに使って危機を回避したり、モンスターの横取りとか迷惑行為をしてくる冒険者に浴びせたりもできるから便利なんだ。

 あと、全財産を使って高級な武具も揃えることができた。どっちも店主ミュリアからのお勧め商品で、中古の品で傷んでたけど損傷や錆びを削除したから持ち金の倍以上かかる新品同様だ。

 ルーズダガーは見た目は普通の短剣とあまり変わらないけど、敵のテクニックの精度が落ちたりスキルが発動するまでの時間が上昇したりする効果があるから、【削除&復元】スキルを持つ僕にはうってつけの武器だ。

 ヴァリアントメイルは特殊な素材で作られた鎧で、軽くて丈夫なだけじゃなく使う人の体型によってその効果が変化するんだ。大柄だったら柔軟になってスピードが上がり、自分みたいな小柄なタイプが装着すると逆に頑丈になり、体力が上がる。これを着て窮屈になるわけでもないし、《跳躍・小》もあるからいいとこ取りな格好ってわけだ。

「あの……カイン様、ですよね? 最近凄く活躍されておられるみたいですねっ」

「あ、ど、どうも……!」

 いつものように依頼を受けようとしたら、腰まであるロングヘアの少女――受付嬢のエリスさん――に褒められちゃった。しかも名前まで覚えられちゃってるし!

「依頼を今までにないスピードで次々と達成してるとんでもない新人が現れたとかで、ギルド中で話題になってるみたいですよ?」

「そうなんだ……でも僕なんてまだまだだよ」

「ふふっ、まだまだだと思うなら伸びしろも充分ってことですよね。あなたの仲間たちも鼻高々だと思います。これからもカイン様のこと、応援させてもらいますね!」

「あ、ありがとう、エリスさん!」

 もう仲間なんていないんだけど、それを告げちゃうと自虐風自慢に聞こえるかもしれないのであえて言わないことにした。

 周囲から棘のある視線を感じるのも当然の話で、エリスさんは受付嬢の中でも特に色っぽくて、冒険者の間で一番人気のある子だからだ。元々やる気はあったけど、さらにアップしたような気がする。僕も現金さんだなあ。

 さて、この勢いで今日もさっさと依頼を片付けちゃおう――

「――なぁ、ちょっといいか」

「えっ……」

 威嚇するような低い声がして振り返ると、髪を逆立てたガタイのいい冒険者が僕に顔を近付けてきた。思い切り凄まれてるし、どう見ても僕によからぬ感情を抱いてそうだ。

「お前、最近よく見るけどよ、随分羽振りがいいみたいじゃねえか。儲かってんなら俺にも少し分けてくれよ」

「いえ、そんなにあるわけじゃないですよ」

「あ……? お前、誰に向かってそんな口聞いてんだコラァッ!」

「なんだなんだ?」

「どうした」

「喧嘩か? やれやれ!」

 不穏な空気を感じ取ったのか、ほかの冒険者たちが続々と集まってきた。

「喧嘩するならやってもいいがよ、この俺がお前みたいなガキに負けるわけねえだろうが。ボコボコにしてやるからかかってこいよ。ちょっと注目されてるからっていい気になりやがって……。あっという間にぶっ殺してやるぜ」

 ど、どうしようか……。ここでもしこの男に挑発に乗ってしまえば、勝っても負けても喧嘩両成敗で僕まで処分されるはず。

 ギルド内での喧嘩はご法度で、下手すれば除名処分なんだ。ここをどう乗り越えれば……って、そうだ、疲労とか頭痛をプレゼントしたら戦闘を回避できる――

「――なんとか言えよ、雑魚。死ぬのが怖いのか? まあお前みてえなゴミは今すぐ死んでも誰も悲しまねえだろうな、親でさえも」

「……」

 でもそれだけじゃ収まりがつかない。ここまで好き放題言ってくれたんだ。よっぽど削除されたいらしいし、どんなスキルを持ってるか【鑑定士】スキルで調べてやる……。

 名前:ギラン
 レベル:15
 年齢:26
 種族:人間
 性別:男
 冒険者ランク:C級

 装備:
 アイアンナックル
 レザーベスト
 棘の肩当て
 
 スキル:
【武闘家】

 テクニック:
《盗み・小》

 なんていうか、色々と想像通りの男だ。それまでの言動、テクニックを見てもわかるようにならず者がそのまま冒険者になったって感じだね。さあ、こっちも負けじと挑発してやろう。わざわざ向こうから顔を近付けてきてるから周りに気付かれずにやりやすい。

「そっちからかかってきてよ。僕も負ける気がしないから」

「……何?」

 この男、見る見る顔を真っ赤にしてる。僕が挑発したのがよっぽど効いたみたいだ。

「じょ……上等だコラアアアアッ!」

「よっと……」

 男が飛び掛かってくるところを、《跳躍・小》でかわす。正直ゴブリンの攻撃を避けるよりも余裕があった。

「ちっ、すばしっこいガキだ! 捕まえて捻り潰してやるうぅぅ!」

 僕は相手が近付いてきたタイミングで逆方向に跳ぶという行為を繰り返すだけでよかった。多分これ、まだ【武闘家】スキルを使ってない状態なんだと思う。

 確か、体力の消耗が激しくなる代わりに接近戦での回避率や命中率といった戦闘能力が大幅に向上する効果だから温存してるのかもね。よし、疲労をちょっとプレゼントしてスキルを使う決断を早まらせてあげよう。

「はぁ、はぁ……みょ、妙だな、やたらと疲れてきやがった。もういい。とっとと終わらせてやる」

 お、相手の足元に魔法陣が浮かんできた。ルーズダガーのおかげか、魔法陣の回転するスピードがゆっくりなので助かる。

「ズタズタにしてやる――って、あれ……?」

 男の動きはそれまでとまったく変わらなかった。むしろ疲労のせいで悪くなったんじゃないかって思うくらいだ。僕が【武闘家】スキルを削除したのが効いてるね。

「な、なんかしやがったな、てめえ……」

 やっぱりそう思うしかないよね。僕は意味ありげにニヤリと笑ってみせる。これは男にをさせるためだ。

「実はね、この武器であなたのスキルを封じたんだ。そういう効果があるから」

「な、何っ……!?」

 男の目が驚きで見開かれるけど、片方の口角がほんの少しだけ吊り上がったことを僕は見逃さなかった。この武器さえ奪えればって、そう確信したに違いない。

「これで僕の勝ちだっ」

 ボソッと呟いて油断した素振りを見せてやると、男は千載一遇のチャンスと見たのか猛然と向かってきた。多分、これは避けられることが前提の体当たりで目的は別にある。見える、見えるぞ。ゆっくりだけど巧みな、僕の武器を盗もうとする動きが……。

「いただき――あっ……?」

 男の言葉とは裏腹に、ルーズダガーは奪われずに済んだ。そりゃそうだよね。相手の手が伸びてきたところで《盗み・小》を削除したんだから。

 さて、スキルとテクニックを削除したしもう用はない。僕はダストボックスに収納されたありったけの頭痛、疲労、眠気、空腹を男の元で復元させてやった。

「ぎっ!? な、なんだよ、いてえしきちいし、もう戦えねえよおぉっ……!」

 ストレスに弱いのか、それだけでうずくまっちゃった。手応えがないなあ。いつの間にか四方を埋め尽くしてた野次馬たちから歓声が上がって、そっちのほうがびっくりしたくらいだ。

「お、おい、あいつ勝手に苦しみ始めたぞ!?」

「逃げる子供を一方的に追い回しといてかっこわりい」

「今のうちに誰か捕まえとけよ」

「ギルド長様に報告しときましょ!」

「ぢ……ぢくしょう……これで俺も終わりだ……。お、おおっ、覚えてやがれぇぇ、クソガキ。この恨み、絶対に晴らしてやるからなあぁぁ……」

「……」

 ギルドから出ようとした僕の背中に男の恨めしげな言葉が届く。この人、痛みには弱いけど執念深そうだし、少しは気をつけたほうがいいのかもね……。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...