2 / 93
2話 哀れな男
しおりを挟む僕が次に向かったのは冒険者ギルドだ。一人でなんでもこなせるならいいけど、この【削除&復元】っていう外れスキルじゃそうはいかないからね。
早速、新たな仲間を見つけるために掲示板に自己アピール文を記して待合室で待機しておく。
もちろん、自分のスキルについても書くわけなんだけど、そこは当然、自分の重大な秘密をさらけ出すようなものなのでほかの人と同じように上手くぼかす必要がある。『荷物係としては最適なスキルを持ってます!』とでも書いておけばいいんだ。
「――はっ……」
声がかからないか待ってるうちに、いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。やっぱり荷物係にパーティーの一枠は与えられないってことかな。パーティーは最大で5人までだし、荷物専任より戦闘もできるような人が欲しいのは当たり前なのかもね。
今更故郷の村に戻るわけにもいかないし、どうしようか……。
僕は小さい頃、両親が離婚して伯母さんの家に引き取られた経緯を持つわけなんだけど、水汲みやら薬草取りやら、朝から晩まで毎日働かされたこともあっていい思い出はあんまりないんだ。それで何度か家出したことがきっかけになり、劣等生だったナセルたち同様に村の落ちこぼれとして認定されることになった。
絶対に立派な冒険者になって見返してやるって誓ったんだ。だから戻りたくないし、辛抱強く待つしかない。こんな僕でも誰かが必要としてくれるかもしれないから。
「――ちょっといいかい? そこの君が掲示板に書かれてたカインって人かな?」
「えっ!? あ、はい!」
遂にお呼びがかかった。諦めずに待ってた甲斐があった……。
片眼鏡をつけた頭のよさそうな男の人だ。見た目的にはいかにも【鑑定士】とか【鑑定眼】のようなスキルを持ってそうな感じ。
鑑定系のスキルは凄く人気で、色んなパーティーから引っ張りだこになるはずなのに僕を仲間に……? そもそも同ランクじゃないとパーティーは組めないし、自分と同じF級って感じでもなさそうだけど……。
「私が君の今の気持ちを鑑定してあげよう」
「あ、ありがとう……って、え?」
「待っても待っても誰も来やしない……そんな陰鬱な気持ち、だね」
「は、はあ。そうですけど……」
そんなの今の状況を見れば誰でもわかるだろうに、変な人だな。
「まあそれだけさ。この私が鑑定してやっただけありがたく思ってほしい。独りぼっちの間抜けな君へ」
「……」
なるほど、冷やかしにきただけか。余裕があるからって感じの悪い人だね。
「ん、怒ったのかな? まあ君と違って私は【鑑定士】っていう最高のスキルを持っているわけでね、喧嘩しても誰も君を庇うようなことはないだろうね」
「そうでしょうね。というか、僕に一体なんの恨みが……」
「恨み? ぶははっ、そんなものはないよ。ただ、からかってあげてるってだけさ。この私が可哀想な君を、ね」
「……余計なお世話ですよ。それに、僕は可哀想なんかじゃないし諦めない気持ちを持ってる。むしろ可哀想なのはわざわざこんなことをするあなたのほうだ」
「はっ、綺麗事を抜かすなゴミが。何が荷物係には最適です、だ。誰にも相手にされないような世間のお荷物でしかないゴミが一丁前に」
「……」
僕が掲示板に書いた内容はしっかり見たんだね。それにしても、なんでこんな残念な人に優秀なスキルがついたんだろうと思うと頭が痛くなってきた。この頭痛を削除できないかな……って、あれ?
スッと痛みが抜けていくこの感じ。まさか、こんなものまで削除できるのか? そう思って復元してみると、また頭痛がしてきたので削除することで痛みを消した。偶然じゃなく、スキルを使ったタイミングで頭痛をコントロールすることができている。やっぱり頭痛にも【削除&復元】ができるんだ……ん、男一人女二人の三人組が新たに待合室に入ってきた。
「ジェリック、やっぱりここにいたのか。また新人をからかってんのか?」
「可哀想だからやめなよー」
「いじめ反対っ」
「ぶははっ。ちょっとからかうだけのつもりが、このゴミが反抗してくるもんだからついついヒートアップしてしまったよ。私としたことがね」
「……」
そうだ、いいことを思い付いた。頭痛にまでスキルが利くなら、もしかしたら自分に向けられたものであれば削除できるんじゃないかな……。
「あの、ちょっといいですかね、ジェリックって人」
「あ? 気安く人の名前を呼ばないでくれないか、ゴミの分際で」
「それはすみませんでした。ゴミとしてジェリック様にお願いがあります。あなたの【鑑定士】スキルで僕のスキルを調べてくれませんか?」
「はあ? 正気なのかあ?」
「それとも、できないんですかね?【鑑定士】スキル持ちってのは真っ赤な嘘だったんでしょうか……」
「こいつ、いじめられすぎてとうとう頭までおかしくなったのか。よーし、お望み通りお前のゴミスキルを周りに公開してやろう。その惨めな効果とともになあ!」
「……」
まもなくジェリックの足元に小さな魔法陣が出現する。これこそスキルを使ったという証拠で、一回転するとスキルが発動するんだ。僕はそれが回転し終わるタイミングで、自分へ及ぼされたであろう【鑑定士】スキルを削除してみせた。【削除&復元】は足元に魔法陣が出たことすらわからないくらい即座に使えるんだ。
「……あ、あれ……?」
「ジェ、ジェリック、どうしたんだ?」
「どうしたのー?」
「ジェリック?」
「ちょ、ちょっと……トイレ!」
ジェリックが見る見る真っ青な顔になって駆け出していった。紛れもなく、スキルが使えなくなったことの証だ。本当にあいつのスキルを削除したんだ。ってことは……。
僕は頭痛にやったときと同じ要領で【鑑定士】スキルを手元に復元すると、それによって自分の状態を開示してみることにした。
名前:カイン
レベル:1
年齢:16歳
種族:人間
性別:男
冒険者ランク:F級
スキル:
【削除&復元】
【鑑定士】
ダストボックス:
頭痛
こ、これは……凄いや。相手の【鑑定士】スキルを削除できただけじゃなく、復元によって自分のものにできてる。スキルの熟練度が足りないせいか能力値は見られないけど、ダストボックスの中身を確認できる上にその中には頭痛まであった。こんなことならジェリック様に絶望だけじゃなく頭痛もプレゼントしておくべきだったかな……。
43
お気に入りに追加
1,467
あなたにおすすめの小説
賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる