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22.衝動的

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「……」

 これだけそわそわするのはいつ以来だろうか……。

 ビスケスたちが来るときでさえ、その辺をウロウロするなんてことはなかったっていうのに、僕は椅子に座って休憩しているつもりが、いつの間にやら立ち上がってて、こうして椅子の周りをグルグルと歩いてる始末だった。

 それだけ、都へ様子を見に行ったアリシアが待ち遠しいっていうのがあるんだけど、それ以上に彼女のことが心配なんだ。

 ビスケスたちに見つかる恐れもあって、彼らに追い詰められてどうしようもなくなった場合、【戦闘狂】スキルを使うようには言ってあるけど、あれってひとしきり暴れ終わると気絶しちゃうっていう諸刃の剣だしなあ。できたら使ってほしくないし、使う状況にならないならそれに越したことはない。

「――セイン、ちょっと大事な話があんだけどさ」

「えっ?」

 オーガ子から普通な感じに話しかけられてしまった。一体なんの話だろう?

「フーッ!」

「ゴホオッ……!? ケホッ、ケホッ……ひ、酷いよ、オーガ子さん……」

「アハハッ、来たよ、あの小娘がさあ」

「ええっ!?」

 オーガ子の言う通り、まもなく馬に乗ってやってくるアリシアの姿を確認することができた。あー、よかった、無事だった……。

「ったく、大の男がその程度のことでビクビクしてんじゃないよ。食っちまうよ!?」

「うぇぇっ!? ど、どっちの意味かな……?」

「アハハッ! どっちもさ!」

「ひいぃっ……」

 やっぱり怖すぎるよ、このオーガ子。鬼が人間を食うなんて、それこそ異常っていうより本能みたいなもんだろうしなあ……。

「――どうどうっ」

「ヒヒーンッ!」

「アリシア、おかえり!」

「ただいまぁ……。はあ、疲れたわ……」

「そうなんだ。疲れてるアリシアも可愛いよ!」

「……ほんっと、セインってどこかズレてるわね……」

「えぇ……?」

 アリシアに呆れ顔で言われてしまった。そうなんだろうか? 自分じゃよくわからないけど……。

「それでアリシア、何かわかった?」

「はい、これ。こんな貼り紙が、ギルドのほうに張ってあったわ……」

「……こ、こ、これは……!」

 アリシアから一枚の紙を受け取ったわけなんだけど、そこにはなんとも衝撃的な内容が書かれていた。

『秘境のカフェ・アリシアとかいう店には絶対に行かないほうがいい。俺たちはあの店でオーガに襲われ、死にかけた。嘘だと思うなら、ギルドの酒場エリアに来てみればいい。このグルグル巻きの包帯がいい証拠だ。ちなみに、コーヒーには隠し味として食った人間の血が使われているって話だ』

「「「……」」」

 僕たちの重量感のある沈黙がその場を支配する。

 オーガに襲われて包帯グルグル巻き、か。ビスケスたちの仕業で間違いないね。しかもあいつらはギルドの常連で顔も広いから、これじゃ信じるやつも多いだろうし、色んな店とかでも言いふらしてそうだから、一般人にも噂が浸透してそうだ。

 人間の血云々は出鱈目だけど、オーガ子が彼らを襲ったことは事実なわけで、貼り紙に書かれていることが半分くらい本当なのが困る。

 弱ったことになった。この事態をどうやって乗り切ればいいっていうのか……。

「――ただいまあっ」

「あ……」

 よたよたとした足取りで司祭様が帰ってきた。

「どうにも調子が悪いのでぇ、しばらく山へ行くのはお休みします……」

 よっぽど疲れちゃったんだろうか? これまた、いつも元気な彼女にしては珍しい姿だ……って、待てよ? そうだ、なら、客を取り戻せるかもしれない……。



 ◇◇◇



「「「「かんぱーい!」」」」

 ギルドの酒場エリアにて、包帯を巻いたビスケスとその仲間たちが陽気に盃をぶつけ合う。

「ゴクッゴクッ……ふいー。これであの糞カフェも終わりだな」

「うむっ。まさかオーガを雇うとは思わなかったが、それがアダになったわけだ」

「私たち、戦わずして勝ってみせたわけだねぇっ。ざまーみろぉっ!」

「ハッ、ハッ……!」

「「「「ワハハッ――!」」」」

 大いに盛り上がる中、彼らの囲うテーブル前を、二人組の男が会話しながら通り過ぎる。

「――とあるカフェ行ってきたんだけどさあ、凄かったぜ」

「ん? おい、どんなカフェだよ?」

「『秘境のカフェ・アリシア』っての」

「「「「っ……!?」」」」

 それを聞いたビスケスたちが立ち上がり、血相を変えて二人組の一人に詰め寄る。

「そ、そこのお前っ! あそこはオーガが出るから危ないって言っただろ! この包帯が見えないのかっ!?」

「うむ。そのような危険な場所に何故行くのかね?」

「どうしてなのよぉっ!?」

「ガルルッ……」

「ひっ……!? だっ、だってこれは男の本能なんだから、しょうがねえだろっ!」

「「「本能……?」」」

「グルルァ……?」

「なんせ、あそこに入った新人のメイドが、そりゃもうスタイル抜群でよ、見てるだけでたまんねえし、あれを拝めるんだったら命捨ててでも行きたいぜ……なんちって!」

「「「「……」」」」

 ビスケスたちは、しばらく呆然とした顔を向け合うのであった……。
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