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18.開店

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 いよいよ、この日がやってきた。

『秘境のカフェ・アリシア』をオープンするときが訪れたんだ。この瞬間をどれだけ夢見てきたことか……。

 今の晴々とした気分を映し込むかのように、朝の空気はいつもより一層清々しく、空には雲一つ見当たらなかった。これぞまさに快晴というやつだね。

 そういうわけで、既にアリシアが冒険者ギルドで宣伝してくれたので、きっともうビスケスたちの耳目にもしっかりと届いてるはずだ。

 ただ、僕は折角できたカフェを血みどろの戦場にするつもりは毛頭なくて、これにはちゃんとした考えがあるんだ。あいつらにはあいつらへのっていうものを、しっかりと見せつけてやるつもりだ。

「みんな、もう準備はいいかな?」

「はいはい、もうできてるわよ!」

「ったく……あたいにこんな格好させやがって……」

「あはは、よく似合ってるよ、アリシアはもちろん、オーガ子さんも」

「キモッ……」

「チッ……死にな」

「……」

 アリシアもオーガ子も、ウェイトレス姿になって凄く嬉しいみたいでよかった。これこそ僕の考えた最高の復讐方法でもあるんだ。こっちから攻撃するっていうより、カウンターアタックのようなやり方。

 カウンターのあるカフェ内でやるだけに駄洒落にもなってる。こんなことをアリシアに言ったら強烈なビンタを食らうだろうし、オーガ子に言ったら即座に殺されそうだけど。

 ただし、カフェはカフェでも、普通のお客さんに向けてのカフェと、ビスケスたちを迎えるカフェでは、見た目は同じにしてあるけどんだ。それこそ、天国と地獄くらいにね……。

 司祭様にも復讐劇を見せてあげたかったけど、彼女はいつものように薪を取りに山へと言ってしまった。司祭様くらいマイペースだと、復讐とか以前にカフェを燃やされたことすらとっくに忘れちゃってそうだ――

「――あっ……!」

 来た来た。客らしき人たちがこっちへ歩いてくるのが見える。

「オーガ子さん、後ろ向いててもらってもいいかな……?」

「あぁ?」

「ひっ……」

 だ、ダメだ、僕よ、弱気になるな……。

「ふ、封印されたいのかな……?」

「チッ……! こうすりゃいいんだろ!」

 よかった、ちゃんと後ろを向いてくれた。オーガ子が前を向いてたら、それだけで客に逃げられちゃいそうだしね……。

「「――いらっしゃい!」」

 僕はアリシアとともに挨拶しつつ、客を丁重に出迎える。今のところ順調すぎるほど順調だった。

「う、旨いっ!」

「こりゃたまらん……」

「美味しいわねえ」

「「……」」

 自慢のコーヒーを飲んだ客人たちから次々と喜びの声が上がり、アリシアにウィンクしたら不機嫌そうに目を逸らされてしまった。相変わらず素直じゃないなあ。それでも嬉しさの余り、思わずガッツポーズする。

 そりゃ、普通のコーヒーじゃなくて、【スコップ】スキルでうんと掘り下げた上質のやつだからね。旨いに決まってる。

 それから、噂が噂を呼んで評判になったらしくて、店にはひっきりなしに客が来るようになった。コーヒーが美味しいのはもちろん、看板娘のアリシアも可愛いしね。立地的にはアレだけど、秘境の絶品コーヒーっていう謳い文句だから、自然豊かな景色に癒されながら飲むコーヒーは格別なものなはず。

 あと、たまに窓の外に霧が見えるのもたまらないと思う。もちろん、その正体は外にいるオーガ子が吐き出す煙なわけなんだけど……。

 オーガは特に嗅覚が優れてるらしくて、遠くにいる人間の匂いがわかるだけじゃなくて悪意も敏感に嗅ぎ取れるらしいから、外で見張ってもらってるんだ。

 やがて夕陽が射し込んできて、客も帰り始めていよいよ営業時間も終わろうとする中、代わりのように緊張感が高まっていく。

 ここからが本番だ。当然だけど、盗賊みたいなゴロツキはわざわざ人の多い時間帯にはやってこない。誰もいないようなときを狙ってやってくるんだ。

「――っ……!」

 まもなくドアがどんどんと叩かれカフェが揺れた。間違いない。客がいなくなったタイミングを見計らって、やつらが来たんだ。それをオーガ子にドアを強く叩くことで知らせてくれるように頼んでおいたからね。

 さあて、いよいよ、本当の意味で待ちに待った瞬間がやってこようとしている。ビスケスたちに見せつけてやろうじゃないか。脳みそを振り絞って考えた、史上最高のおもてなしってやつを……!
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