上 下
25 / 31

25話 明暗

しおりを挟む

「「「「「……」」」」」

 重厚な沈黙が示すように、支援者ギルド内は異様な緊張感に包まれていた。

 前夜祭の翌日――ついにこの日がやってきたからだ。1年間に2度だけ行われる、支援者たちが昇格するか、現状維持か、はたまた降格するかが決定する運命の日……。僕たち見習いにとってもそれは決して対岸の火事ではない。

 けど、やるべきことはやってきたんだし大丈夫のはず。前の世界線だと、僕は昇格も降格もなく、見習いのままだったっけ。

「えー、それではですね、一名ずつ発表していきたいと思います。えー、まずは、支援者見習いから」

 副ギルドマスターのエンベルが壇上に立ち、いよいよ僕たちの名前が読み上げられ始めた。

「――オルソン、合格」

「や、やった……!」

 オルソンが小さくガッツポーズしたあと、僕のほうを照れ臭そうに見てきた。彼は可愛い後輩のようなものなので素直に嬉しい。

「――アルフィナ、合格」

「……あ、あわわ……!」

 アルフィナは一瞬現実が呑み込めなかったのかおろおろした様子だったけど、すぐほっとしたような笑みをこっちに向けてきたので、僕は同じような表情でうなずいてみせた。

 頑張ったなあ。前の世界線じゃ、この時点で既に死亡していたオルソンはともかく、彼女は現状維持で見習いのままだったんだよね。

「――クロム、合格」

「よしっ……」

 こんなの当たり前、みたいな顔だと反感を買うかもしれないので、僕もオルソンに倣って小さくガッツポーズしてみせた。

「――ヴァイス、合格」

「…………」

 ヴァイスはというと、合格と言われてからしばらくしてこっちのほうをぼんやりと見るだけだった。僕が親指を立てると照れ臭そうに顔を背けられたけど、その代わりのように彼の親指が上を向いていた。発表のときなのに、何か考え事でもしてたっぽいね。ああいうところがクールでシャイなヴァイスらしい。

「――ダラン、不合格」

「……えっ、なんだって……? お、おい、俺が不合格だと……?」

 ダランは納得がいかない様子で両手を横に広げて抗議するも、エンベルは素知らぬ顔で発表し続けていた。

「て、点数を見せろ! 今すぐ見せやがれっ! こんなの……不正だ、不正に決まってる――!」

「――だ、誰かっ、あの男を止めなさい!」

 それがダランの怒りに火を注ぐことになったのか、物凄い形相でエンベルのいる壇上まで詰め寄ろうとしたため、怒号とともに体格の良い生徒たちに止められる格好になっていた。

「……は、放せええぇっ! こんなのありえねええぇ。俺が、この俺が見習いすら失格なんて、これはクロムの陰謀だっ、やつの陰謀に違いねえぇ……!」

「…………」

 ダランは男たちに囲まれながら退場していき、その声は次第にどよめきの中で掻き消されていった。僕たちとはくっきり明暗が分かれた格好だ。彼は前の世界線じゃ現状維持で、次の機会には合格だったし、支援者としての才能はあるのにね……。



 その日の正午から、支援者ギルドで合格者たち限定の祝賀会が執り行われることになった。

 周囲が俄かに色めき立つのもわかる。というのも、一週間に一回ほど講義をやっている人気の上級支援者たちが来ているからなんだ。

 エンベルも上級なんだけど、彼の場合は小言が多くてあまり好かれてはいないみたいだし、遠征のために留守にすることも多い彼らと違っていつもここにいるから、ありがたみをあまり感じられていないのが現状だ。

「やあ、君がクロムっていう人かい?」

「あなたがクロムちゃん? 噂は聞いてますよお」

「……お前がクロム、か……」

 支援者たちから絶大な支持を受ける上級支援者の三人――カルロス、ラファン、シド――が、いずれも僕の元へやってきた。

「はい、僕がクロムっていいます、よろしく」

 カルロスは無精ひげを生やしたぶっきらぼうなおっさんで、ラファンは謙虚かつ親切丁寧な女性でスタイルが良い。シドはあまり余計なことを喋らないクールな青年だ。

「へー、神童って呼ばれてるだけあって、やっぱりクロム君は堂々としちゃってるねえ」

「凄いですうぅ。サイン欲しくなるくらい!」

「……ま、お手並み拝見といこうか……」

「あはは……」

 この三人について僕はよく知っていた。前の世界線では、みんな協力的な人だったから。個性的だけど面倒見がよく、僕が上級支援者になるのを後押ししてくれた人たちなんだ。なので、支援者たちから人気があるのもうなずける話だった。

 ちなみに、上級支援者の数が少ないのは、それだけ昇格が難しいからだ。前の世界線で、僕は上級になるまで10年くらいかかっている。支援の腕で認められるだけじゃなく、支援者たちの支持も集めないといけないからだ。

 彼らがそうだとは思いたくないけど、支援者たちの中には僕の活躍が面白くないと思ってる人も結構いそうだ。前の世界線でも、支援者同士、特に上にいけばいくほどお互いに火花バチバチだったからね。

 それもそのはずで、その上の副ギルドマスター、ギルドマスターには一人しかなることができない。のちに敵になりそうなら今のうちに芽を摘みたいと思う支援者もいそうだし、これからも気をつけていかないと……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《異世界ニート》はニセ王子でしかも世界最強ってどういうことですか!?

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
秋月勇気は毎日筋トレしかやることのないダメニート。そんなある日風呂に入っていたら突然異世界に召喚されてしまった。そこで勇気を待っていたのは国王と女宮廷魔術師。二人が言うにはこの国の家出していなくなってしまったバカ王子とうり二つの顔をしているという理由だけで勇気をその国の王子になりすませようということだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。  オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。  やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

処理中です...