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15話 根深いもの

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「…………」

 二回目の研修が終わって数日後に始まった三連休の初日、僕はぼんやりとボロアパートの古い天井を見ながら考え事をしていた。

 あのあと、みんな墓地で倒れているのがわかって、それを起こしてからギルドへ帰ることになったんだ。ゴードン教官なんて、急用ができたからと先に帰ってしまうという無責任振り。

 それ以上に許せないのが補佐官のミハイネと、僕と同じ見習いのダランで、ミハイネはお礼すら言わず終始不機嫌そうな態度を取るし、ダランに至っては昨晩のことはまったく覚えてないの一点張りだった。

 これは憶測にすぎないけど、多分ミハイネの指示でダランが僕を排除しようとしたんじゃないかな。二人とも普段の態度を見て察するに僕に対して敵意を抱いてそうだし、利害関係も一致するように思う。その背後にも誰かいそうだけど。

 彼らに対して怒りがふつふつと湧いてくるけど、ダランたちを糾弾しようにも、霊に乗っ取られたと言い訳されるだろうし、全体像が明るみになるまで、慎重にやったほうがいいと感じている。

 所詮、今の僕はいつ切り捨てられてもおかしくない見習いの立場だから尚更。

 恨みを栄養分にした植物は根が深そうだから今の時点で無理に抜こうとせず、ここは冷静になって泳がせておき、あとから根っこごと全部引き抜くべきだ。

 そういえば、便りが来てないかなと思ってポストを見たら、手紙の一部が覗いていた。

 誰だろう? お……差出人ローザ=ハビストって、故郷のコルラ村にいる母ちゃんからじゃないか。

 何々――『クロム、元気にしてるかい? 支援者ギルドの入学おめでとう。まだまだ未熟でわからないことも多いだろうけど、その腕を世のため人のために役立てなさい。母ちゃんがいつも応援してるから』

「…………」

 普通の文面だっていうのに、何故かやたらと胸に響いた。確か、母ちゃんはあと10年後くらいに心臓発作でこの世を去ってしまうんだ。それを知ってるからなのかもしれない。それが当たり前にあるものだと思っているとありがたみを感じるのは難しいから。

 母ちゃんには特に苦労させちゃったしね……。父親は冒険者をやってて、僕が6歳の頃にダンジョンで命を落としたから、冒険者みたいなろくでもない職業にだけはなるんじゃないよっていつも口を酸っぱくして言ってたっけな。

 あんなのと一緒になるんじゃなかったって怒ってたけど、目元に涙を浮かべることもあったし、愛憎が入り混じってたんだと思う。

 かといって今コルラ村へ帰ったら、なんで帰ってきたんだいって怒鳴られそうだし、帰るのはある程度出世してからにしようとは思ってる。

 そうだ、気分転換に散歩でもしようかな。

 そういうわけで部屋を出てアパートの階段を下りていくと、大家の婆さんが玄関を箒で掃除してて、僕のほうを見るなりニヤッと笑いかけてきた。今日はやたらと機嫌がよさそうだね。

「おはようございます、大家さん」

「おはよう、クロム。んふふっ」

「な、何かいいことでもあったんですか?」

「ん、あたいにはなんにもないけどね、あるとしたらクロム、あんただよ、あんた」

「へ……?」

「今朝、変な物音がするから外へ出てみたんだけどさ、そしたらあんたの部屋のほうをがいたんだよ」

「え……」

 大家の口から意外な発言が飛び出す。

「大家さん、その人がどんな容姿だったかわかりますか?」

「それがさあ、なんとも地味な感じの服装でねえ、声をかけようとしたらすぐにどっか行ったからどんな容姿かよく思い出せないんだけどさ、とても清潔感のある感じの子だったよ」

「そ、そうなんですか……」

「それにしても、あんたも無害そうな顔して隅に置けないもんだねえ。んふふ……」

「…………」

 一体誰が僕の部屋を見てたっていうんだろう? 僕がここに住んでるってことを知る子なんて、誰にも教えてないし少なくとも支援者ギルドにはいないはずなんだけどな。

 大家さんの勘違いか、はたまた僕なんかに一目惚れしちゃった物好きな子でもいるのか。

 昨日墓地から帰ってきたときに、霊も一緒に連れてきちゃったっていう可能性のほうが高そうだね。それでも、すぐに消えた上に何事もなかったなら害はないんだろうし、あまり深く考えなくてもいいかもしれない。

「――あっ……」

 僕は散歩するためにアパートから離れ、何気なく支援者ギルド近くの花畑に立ち寄ったわけなんだけど、そこでに気付いて立ち止まった。

 そういえば……今日は確か、大家さんが頭を打って亡くなってしまう日じゃ?

 そうだ、前の世界線でも固定されてた三連休の初日だったから間違いない。

 一度転倒しないように注意したとはいえ、もう忘れちゃってる可能性が高い。僕はそのことを大家さんに知らせるべく、急いでアパートへ引き返す。頼む、どうか間に合ってくれ……。
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