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第十九話 出鱈目

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「あ、ミリーヌ、ねえ、どうだったの? 怪しい人は見つかった……?」

「うん」

 アセンドラの都にある救助者ギルドにて、シェリアの部屋にお下げ髪の少女が入るなり、耳打ちしてみせた。

「――と、こういうわけなのよ……」

「元盗賊――!?」

「――しーっ! 声が大きいわよ、シェリア。誰かに聞かれちゃったらどうするのよ?」

「ご、ごめん……でも、びっくりした。まさか、ギルドメンバーの中にそんな人がいるなんて……」

「しかもね、その元盗賊のフォーゼって人、つい最近足を洗ったばかりの人らしいのよ」

「……ライルったら、なんでそんな怪しい人をここに入れたんだろう……?」

「どう考えても変だよねえ。冒険者ギルドなら宝箱を開錠する役が必要だし、性質上ある程度過去を許容するのはわかるけど、あたしたちの仕事ってあくまでも救助なのに……」

「ミリーヌ、そのフォーゼって人についてもっと深く掘り下げてみて。あなたのスキル【気配】があれば、余程のことがない限り誰にも気付かれないと思うから」

「うん……。ダンジョンで【気配】を大きくして囮役になったり、逆に小さくして現場調査するよりはずっと気楽だからあたしはいいけど、シェリア、ちょっと疲れが見えるから、たまには休んだほうがいいわよ?」

「ありがと、ミリーヌ。あなたも、頑張りすぎないようにしてね」

「はいはい」

 ミリーヌが立ち去ったあと、考え込んだような表情でテーブルに頬杖をつくシェリア。

(ライルはギルド員を募集するときは身辺調査もしっかりしてるって言ってたのに、このフォーゼって人が簡単にギルドに入り込めるのもおかしいし、もし指輪事件の真犯人なら、どうして盗んだものを自分のものにせずにテッドに押し付けたんだろう? ま、まさか……)

 はっとした顔になるシェリアだったが、すぐに首を横に振った。

(私ったら、なんてことを考えてるんだろ。ライルがテッドを罠に嵌めるなんて、そんな酷いことを指示するわけないよ。だって、私たち三人は幼馴染だもん……)

 自分にそう言い聞かせるように心の中で呟くシェリア。しかし、その表情は晴れないままだった。



 ◆ ◆ ◆



「ひっく……ち、畜生、こんな姿で再会しちまうなんて……」

 ダンジョンの入り口前、棺に入れられた女性の遺体を前に沈痛な表情を浮かべる人物。その隣には、厳めしい顔で合掌するローブ姿の男がおり、その胸元には手乗りのハートマーク――救助者ギルドのエンブレム――があった。

「アーメン……」

「なあ……あんた、救助者ギルドの遺言伝達係なんだろ? だったらいつまでも祈ってないで教えてくれ。シンシアは最期にどんなことを思いながら死んでいったんだ?」

「えーっと、まあそう慌てずに、あともう少しだけ待っててください。ん-と……この方はですなあ……」

 遺言伝達係の男が、いかにも勿体ぶったようにゆっくりと語り出す。

「コホンッ……シンシアさんはだね、モンスターとの戦いで深く傷つき、逃げ惑いながらも、あなたのことをね、えー、心の底から大事に思いながら、そうやって死んでいきました。これはなんとも切ない……」

「はあ?」

「ん? 自分、何かおかしいことでも言いましたかね?」

「俺はシンシアとは最近知り合ったばかりなんだけど?」

「え、え? で、では、あなたはシンシアさんの家族ではなく、パーティーの方……?」

 動揺した様子で声を上擦らせるローブ姿の男。

「うん、そうだよ。俺は一昨日、シンシアと初めて冒険者ギルドで出会って、一緒に狩りをしたんだ。宿で色々と語り合ったから結構打ち解けたけどな。シンシアの家族は遠いところにいるらしいから、それで家族が来たら俺が遺言を伝えてあげようって思ったんだけど……出鱈目すぎるな。何が遺言伝達係だ、インチキ野郎」

「い、いや、待て。インチキ野郎とは失礼な! そもそも、最近知り合ったばかりとはいえですね、結構打ち解け合ったというのが答えになっているではないですかっ! シンシアさんはあなたに片思いしていたのかもしれないし、恋心に時間は関係ないでしょーが!?」

「おい……一応言っておくがな、俺はこういう口調だが男じゃなく女だし、それはシンシアにも伝えてある」

「…………」

 性別を明かした冒険者に対し、救助者ギルド員の顔が見る見る青ざめていく。

「しかも、シンシアには彼氏がいるそうだ。普通、大事に思うならそいつか家族だろーが!」

「……え、えっと、今日はどうにも調子が悪いようで……それではっ!」

「お、おいっ、逃げるな! 今回の件、ギルド協会に報告してやるから覚悟しとけ!」
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