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第十四話 前哨戦
しおりを挟む正午を知らせる鐘の音が鳴り響き、俺たち囚人の晴れ舞台――昼休み――が始まった。
この時間帯にもっとも喧嘩が始まることが多いらしく、24時間内で唯一鳴り響く鐘の音もそれを意識したものなんだそうだ。
【灼熱の記憶】【鋼鉄の意思】という強力な思念を二つ得たとはいえ、アントンが危惧するように、人間の俺が人外のスティングと戦うのは無謀、時期尚早なのかもしれない。
だが、囚人王を目指している立場なのに、弱いやつを喧嘩相手に選ぶのはどう考えてもおかしい。強いやつらに打ち勝ってこそ得られるのが囚人王という称号なんじゃないのか。
弱いやつだけを倒していって名ばかりの囚人王になっても、満足に外へ出ることさえもできず、井の中の蛙で終わるだけのこと。
俺が喧嘩を始めるのを期待してるのか、あの看守キルキルもこっちをチラチラと見てるし、実際に戦うことになれば満足させられると思う。
「テッド、本当にスティングとやり合うつもりなんじゃな……」
「ああ、俺は必ずやつに勝ってみせるよ、アントン……」
「ふむ……仕方ないのう。悔いのないよう、しっかり頑張ることじゃ。ところで、わしは遠くから傍観していてもよいかのお……?」
「へ……?」
「だ、ダメじゃろうか……?」
既にアントンは逃げ腰だった。
「アントン……一応俺の仲間だっていう自覚があるならさ、一緒に戦わなくてもいいから、せめて近くで見守っててくれよ……」
「わ、わかったから、そんなに冷たい目で見ないでほしいのじゃ……」
さあ、そうと決まったら早速喧嘩を売るか……って、肝心の喧嘩相手がどこにもいない?
「「「「「アハハッ!」」」」」
「取れねええええええっ!」
「あ……」
笑い声に交じって悲鳴が聞こえてきたと思ったら、例のワニ頭が糸を自分の体に巻き付けて、顔と尻尾以外が隠れて大きな蚕のようになっていた。
ちらっとあいつのほうを一瞥したとき、なんか大雑把な感じで仕事をしてるとは思ってたが、どんだけ細かい作業が苦手なんだか……。
周囲が盛り上がる中、絡まった糸を俺がナイフで断ち切って解いてやる。
てか、あの状態でまったく動けないはずなのに元気に飛び跳ねてたからな。それだけで桁外れの膂力の持ち主であることが窺えるし、放っておいたらそのうち自分で切ってたんじゃないかと思うが、昼休みが終わる前に決着をつけたかった。
「――ありがとおおおおおお!」
目を輝かせたワニ男に抱き付かれそうになり、俺は咄嗟に避ける。危なかった……。
「ぎゃああああぁあっ!」
「あっ……」
俺の後ろにいたアントンが抱き付かれ、バラバラになってしまっていた。
「ア、アントン――?」
「――い、痛かったのじゃ……」
「あ……」
でもすぐに復活したので安堵する。さすがアンデッド族。
それにしても、抱き付いただけで相手の体をここまで破壊するとは……なんて馬鹿力だ。アントンは一見骨だけだから脆く見えるが、間近で見ると骨太で凄く硬いというのに。
「見てろ、アントン、俺が仇を討ってやる」
「テッドよ、ありがたい……って、わしは死んどらん!」
「わははははっ! チミたち、面白いな!? ワイの仲間になってくれないか!?」
「えっ……」
スティングの意外な提案に面食らったが、俺は首を横に振った。こんなことで決心が揺らぐようじゃ先が思いやられるからだ。
「いや、そうじゃなくて、スティング……俺はテッドという新入りで、これから真剣に勝負してほしいんだ」
「なっ、何いいいぃっ!?」
スティングに度肝を抜いたような顔をされる。人外なだけあって反応がいちいち大袈裟だな、この男……。
「そ、それってもしかして……」
「ん?」
「テッドは、仲間としてワイと遊んでくれるってことか!? だよな? そうなんだな!? よっしゃー!」
「…………」
何故かスティングから喜ばれたかと思うと、周囲に集まった野次馬たちが引き攣った顔で離れていくのがわかる。いかにも恐ろしがってる感じだ。やつが暴れ出すと周りにも被害があるってことなんだろう。
ん、一部残った連中からヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あいつ、無謀すぎるぜ。あのスティングさんに勝負を挑むなんてな……」
「ジャックを倒したのは確かにすげーけどよ、さすがにスティングさん相手は無理だろ……」
「テッドとかいったな。あの小僧を誰か止めたほうがいい。死ぬぞ……」
「お前が止めろよ。とりあえず俺はスティングのほうに賭ける……」
「俺も俺も……」
「やべーって……。巻き込まれちまう前によ、俺たちもここから離れたほうがいいんじゃね……?」
そのほとんどが俺を心配する声だった。それだけとんでもないやつを相手に喧嘩しようとしているってことだな。
だが、今更後には引けない。俺はこの人外との戦いに必ずや勝利してみせる……。
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