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第十三話 変化
しおりを挟むモヒカン頭のジャックに勝利した俺は、そのあくる日からすぐに変化を感じ取っていた。
俺に対する囚人たちの畏敬の眼差しを、これでもかと感じるんだ。
ただその分、警戒するような視線も感じるようになったことも確かで、まったくマークされてなかった以前とは明らかに空気が違っているのがわかった。
「こうして真ん中の席で堂々と食べると、不味い飯でも少しは旨く感じるものなんだな」
「うむ……テッドのような強い仲間を持って、わしは実に誇らしいのお……ズズッ……」
食堂の中央にある席の隣で、ふんぞり返って食後のお茶を啜るアントン。昨日まであんなにしおらしかったのにな。元々賊のリーダーだし、その頃を思い出してきたのかもしれない。
一方、俺に敗北したあのモヒカン男は、食堂の片隅でひっそりと不味そうに食べていた。顔の中央にある包帯が痛々しい。
さて……朝食が終わったら工場へ行く時間だ。Fエリアの囚人は朝食と夕食しか許されず、夜までずっと働かされるんだ。
昨日もそうだったが、そこで昼休みの休憩時間を除いて単純作業の繰り返しをやらされ、ようやく終わったと思ったらすぐに夕飯で、さらになるべく短時間で済ませなければならず、夜の九時には就寝しないといけない。
「アントンはこんなところでよく頑張ってるな……」
「そりゃあ、なんせ模範囚じゃったからの」
「じゃった……?」
「うむ。今まではそうじゃったが、テッドに囚人王の器があると知った以上、もう模範囚として生きる必要はなかろうて」
「おいおい、変わり身が早いな。さすがダークボーンズの頭……」
「ふぉっふぉっふぉ――!」
「――そこ、何笑ってやがんだ!? ぶち殺されたくなきゃ真面目にやれ、囚人番号97と121!」
「「…………」」
看守のデカ女キルキルに怒られてしまった。もう完全に番号を覚えられちゃってそうだな。
ここでは常に看守に見張られつつ織物の仕事をこなさなければならず、だからといって仕事中に喧嘩をすることは許されないらしい。つまり、やりたいなら30分しかない昼休みの時間帯にやれとのこと。
なお、その時間帯に喧嘩を始めたとして、それがつまらないと看守が感じた場合はどちらが勝つか見届けることなくすぐに離れてしまうとのことだ。
つまり、弱いやつと喧嘩して一方的に勝っても認めてくれないってことを意味している。
だったら、次の休憩時間にあのワニ男と喧嘩してやろうじゃないか。
「テ、テッドよ、それはいかんぞ」
俺の隣で作業しているアントンに心の内を読まれてしまった。
「アントン、あんだけ強気だったのに、どうしたんだ?」
「スティングに手を出すのはまだやめておいたほうが無難じゃ。昨日まで喧嘩相手を血眼で探しておったあのジャックですら、あいつだけは避けておったくらいじゃからな……」
「へえ……。でも、そんなやつがなんで今までこのFエリアに残ってるんだ? それだけ強いならとっくに三つ勝っててもおかしくないのに」
「スティングはな、喧嘩自体には興味がないんじゃ。結果的に暴れて喧嘩になることはあっても、やつの目的はそれじゃない」
「じゃあ何が目的?」
「あの男の腹の内を読んでみると、本当にわけがわからんのじゃ。飯が食いたいとか眠りたいとか暴れたいとかそんなんばっかりじゃ……」
「…………」
ワニ頭なだけにかなり単純なタイプか。
「これだけはいっておくが、パワー系のスキルを持っていたジャックよりもスティングのパワーは数段上じゃぞ。防御力に自信のあるテッドとはいえ、無傷で済むかどうかはわからん」
「え、じゃあ物理耐性100%すら凌駕するってことか?」
「スキルはあくまでも人間基準じゃからなー。そもそも人間にしか付与されんものじゃし……」
「なるほど……」
ってことは、スティングを一発で倒してしまったあの看守キルキルは、一体どれほどの化け物なんだと思う。
「あれでも遊びでやってるだけじゃからな。キルキルが本気でやったらおそらく死んどるわい」
「そんなに強いのか……」
「うむ……。看守はほかにもいて、そいつらも強いが看守長はさらに強いぞ。その上に矯正監がいて、これがもうありえんほど凄いお方じゃ。今は留守にしておられるが、ルールを守らない囚人を、うるさいから、目障りだからという理由で何人も瞬殺してしまった。それも囚人王候補と呼ばれておった者たちをな……」
「途方もないな……っていうか、矯正監自ら直接手を下しちゃうのか。その人は今どこに?」
「外出中じゃ。その辺を散歩しておられるらしいぞい」
「…………」
監獄の外だと現在の囚人王ですらすぐに瀕死になって逃げ帰るのに、散歩する感覚なのか……お、昼休みを知らせる鐘が鳴った。
アントンにはやめるべきだと言われたが、俺の決意は変わらない。囚人王を目指すなら、強いやつとの戦いは避けて通れないからな。今日で二勝目をもぎ取ってやるつもりだ……。
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