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第八話 過ごし方

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「オラッ、囚人番号121と97! とっとと起きろ!」

「「どわっ!?」」

 俺はスケルトンのアントン共々、例の女兵士に叩き起こされ、汚い布団を丁寧に畳むように指示された。まだ早朝の四時だっていうのに……。

 それでもいよいよ飯が食えるってことで、アントンと一緒に意気揚々と食堂へ向かう。その間、俺は眠気を堪えつつ監獄での過ごし方についてアントンに訊ねてみることにした。

「ふわぁ……アントン、ここで生活する上で気を付けるべきことって何かある?」

「そうじゃな……とにかく目立たないようにすることと、なるべくほかの囚人と目を合わせないようにすることじゃ」

「やっぱり新人がでしゃばらないほうがいいのか……」

「うむ。死にたくなければな。テッドが囚人王を本気で目指すつもりか知らんが、力がない間は大人しくしていることじゃ」

「アントンはここから出たくないのか……?」

「そ、そりゃもちろん出たいが、囚人王になるなんて到底無理な話じゃしな。それに、変なやつらから目をつけられたら、どんな恐ろしい目に遭わされるかわからん……」

「…………」

 アントン、また震えちゃってる。

「なんで死ぬのが怖いんだ? 不死属性のアンデッド族なのに実は条件次第で死ぬことがあるとか?」

「アンデッド族は決して死なん。何度でも蘇るのじゃ」

「なら別に怖がる必要もないような……」

「それでも、苦痛はあるのじゃ。痛いんじゃよ。何度経験してもあの痛みには慣れん……」

「なるほど……アントンは痛みに弱いタイプなんだな。よくそれで賊のリーダーになれたもんだ……」

「テッドも言ってくれるのお。わしだって、怖いもの知らずだった時期はある。しかし、骨を粉々にされるあのなんともいえない苦痛は、二度と味わいたくないものなんじゃ……」

「粉々にされても蘇るのか……」

「うむ。灰にされようともな。ただ、やられ方があまりにも酷いと蘇るまで時間を要するがの」

「へえ……」

 決して死ぬことがない上、さらに相手の心の内も大雑把だけど読めるとなれば、これほど頼りになる仲間はいないんじゃないか。

「アントン、俺と組まないか? 俺は自分で言うのもなんだけど痛みには強いタイプだし、あんたとはいいコンビになれると思うんだ」

「……悪いことは言わん。テッドよ、わしと同じように模範囚になるべきじゃ。人間族はアンデッド族のように生き返るこはできんのじゃから……」

「それでも、俺にはスキルがある」

「ふむ、スキルか……。確か、人間にしか付与されない能力じゃな。わしは心の内を読めるから、そうしたものも一目で察することができるし、何度かスキルらしきものを覗いたことがあるぞい」

「おお、見ただけでわかるのか。じゃあ俺のスキルが何かわかる?」

「ちょいと待ってくれ。……ふむふむ、、じゃな?」

「ちょっと違うけど、似たようなものかな。これは思念を収集できるだけじゃなく、思念による効果も得られる能力なんだ。こういった場所なら色んな思念で渦巻いてそうだし、それを集められる俺を仲間にするのは悪くない話だと思うけどなあ」

 思念とは残留思念の略で、強い執念のようなものだから死骸だけでなく遺物や昇天した場所にも宿る。なので、常に死と隣り合わせの異次元の監獄なら期待できそうだ。

「ふむう……確かに面白そうな能力じゃが、果たしてテッドが囚人王になれるほどの器かどうか……見極めさせてもらってからでも遅くはなかろう」

「アントン、偉そうに言ってるけど声が震えてるよ」

「ふぉっふぉっふぉ……」

 すぐに認めさせてやるさ……お、いい匂いが強くなってきたし、食堂が近いらしい。

 ん、誰かが後ろから大声を上げながら走ってくる。

「うおおおおぉおぉおおおっ! ワイが食堂一番乗りだあああああぁあっっ!」

 な、なんだあいつは。体は人間だが、ワニの顔をした大きな体躯の囚人だ。なんてスピードなんだ……。

「おおいっ! そこの囚人番号84! 危ないから廊下を走るなってんだよ、おめーだおめー!」

 それを上回る巨体と速度を持ったやつが追いかけてきた。ワニ頭よりさらに体が大きい女兵士だ。

「どぎゃあああぁぁっ!?」

 ワニ頭のズボンからはみ出た尻尾を掴むと、振り回して壁に叩きつけてしまった。白目を剥いて気絶している様子で、しばらく起きそうにもない。

「ったくよ、何度言ったら気が済むんだか、この、囚人番号84のクソワニが。おい、そこの囚人どもも、こうなりたくなかったら最低限のルールは守ることだな! はっはっは!」

「凄いな、あのワニ頭も女兵士も……」

「あやつらにはくれぐれも注意したほうがいいぞ、テッド」

「どんな連中なんだ……?」

 もう大体今までの行動でどんなやつらなのかは想像がつくんだけど、人は見かけによらないというしな、一応聞いておこう。

「ワニ頭のほうはな、スティングという名の亜人賊で、大女のほうは巨人族で看守のキルキルじゃ。スティングはとにかく短気かつ粗暴な男で、すぐに暴れ出す。キルキルは囚人にすこぶる厳しい女で、気が荒くて手加減というもんを知らん。立場は違うが、目をつけられないように気を付けることじゃ」

「あ、ああ……」

 やっぱり俺の想像通りだった。アントンが目立つ行動を避けるように忠告してくるのもわかる。どちらも一筋縄じゃいかなそうだな……。
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