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剣術士

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「へえ、ボクの相手は領主様なのかあ……」

 武具屋『双竜亭』の裏庭にて、俺は店主の娘――ボーイッシュな感じの少女――と対峙することになった。

【剣術士】ジョブを持ってるだけあって、威圧感をひしひしと肌で感じることができるが、やる気をあまり匂わせてこないのが気になる。それだけ余裕があるってことか?

 一応相手のステータスを調べておこう。

 名前:ロゼリア=エステード
 性別:女
 年齢:16
 身分:商人
 職業:剣術士
 ジョブレベル:2
 習得技:なし

「……」

 強キャラっぽい振る舞いだったが、ジョブレベル2なのか。まだ16歳だし、転職したばかりであれば仕方ないのかな。

 しかし、【吟遊詩人】の武具を揃えにきたのに、まさかこんなことになるとは、30分前の自分に言ってもきっと信じなかっただろう。

「さあ、来い……」

 俺は木刀を構えたまま身動き一つ取らず、相手を見据えた。

 ん、相手がちょっと驚いた顔になってる。どうしたんだ?

「あれれ……領主様って臆病者って聞いてたけど……? それに、隙も全然見当たらないし、なんだか迫力もあるよう……」

「おい、ロゼリア。領主様なんてヘタレで有名なやつだぞ。虚勢を張ってるだけだ。配下たちからも見捨てられそうになってると聞くし、俺の店に二度と来られないように叩き潰してやれ!」

「はいはい、わかったよ、父さん……」

「……」

 自分が本当に貴族で領主なのか疑わしくなるくらい、酷い言われようだ。見る目を変えなくては……。

「シ、シオン様、少しでも危ないと思ったらお逃げください!」

「……」

 真剣で勝負してるわけでもないのに、エリュネシアも過保護だな……。

「それじゃ、そろそろ行くね、領主様。悪く思わないでっ!」

【剣術士】のロゼリアが一気に迫ってきたが、俺は軽くかわしてやった。

「ふぇっ!?」

「はあぁっ!」

 その頭上に木刀を振り下ろす直前、俺は寸止めしてみせて、彼女の呆然とした顔を見下ろす格好となった。

「俺の腕を舐めてもらっちゃ困る。少しは本気を出してくれないか、ロゼリアとやら」

「お、おい、ロゼリア、何をやってる!?【剣術士】とあろうものがそんなやつ相手に不覚を取るなど、情けないぞ!」

「くうぅっ……」

「す、凄いです!【剣術士】相手に一本取るなんて……。シオン様、いつの間に剣の腕を磨かれてたんですか……!?」

「……こ、こっそりな」

 俺はエリュネシアに目配せしてみせた。なんせ前世じゃ警備会社に勤めていたからな。剣道を子供の頃からやってて、今は七段までいっているんだ。

「ぼ……ボクを舐めるなあぁあっ!」

「っ!」

 それから、ロゼリアの動きはそれまでとは見違えるようだった。木刀を振るスピードや踏み込みの鋭さは、さすが【剣術士】といったところで尋常じゃなかった。

 これが異世界における才能というものなのか。恐ろしくなってくるな……。

 だが、技術の分野で著しく劣っているのがわかる。まだレベル2だし、それだけ努力を怠っていたんだろう。これならいくら優れたジョブがあろうと全然怖くはない。

「はあっ!」

「うっ!?」

 ロゼリアの手を叩き、落ちた木刀が地面を転がる。

「……はぁ、はぁ……はうぅ……ボク、負けちゃったあ……」

 彼女は力尽きた様子で座り込んでしまったが、何故だか表情には明るさが目立っていた。

「じ、実はボク……」

「ん?」

「剣とかあまり興味なくて、【剣術士】ジョブを貰ってもレベル上げなんてするつもりはあまりなかったんだ……」

「そうか……」

 だからやる気を感じなかったんだな。ほとんど努力をせずにあそこまで動けるんだから末恐ろしい。

「でもね、領主様と戦ってみて、凄く楽しかった。頑張って修行して、いつか勝ってやるんだって、そう思えるくらい……」

「じゃあ、その日を楽しみにしてるよ、ロゼリア。さあ、立つんだ」

「うんっ」

 俺はロゼリアに手を差し伸べて立ち上がらせてやる。

「りょ、領主様ああぁっ!」

 そのときだった。ロゼリアの父親で武具屋の店主が俺たちの元へ駆け寄ってきたかと思うと、それまでの態度とは一転して涙ながらにひざまずいてきた。

「まさか領主様が本気を出したらこんなにお強いとは……! きっと、これは敵を油断させるための芝居だったのですね! そんなことも見抜けず、とんだご無礼をお許しください……!」

「あ、あぁ……」

 なんだかとんでもないストーリーを勝手にでっちあげられてるわけだが、それくらい今の俺が旧シオンとは別人ってことなんだろう。

「しかも、やる気がまったく見えなかった一人娘もその気にさせていただき、感謝の言葉しかありません……! どうか、どうか気に入った武器があればタダで持っていってください……!」

「「……」」

 俺はエリュネシアと苦笑いを浮かべ合うとともに、剣道をずっとやってきてよかったと心の底から思うのだった……。
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