上 下
36 / 58

36話 急所

しおりを挟む

「――それ、今だ、コレット!」
「はい、カレルさんっ!」

 俺が弓矢を当てつつ大量に釣ってきた、重そうに岩を担いだゾンビ姿のエンシェントワーカーの行列に対して、助走をつけていたコレットが勢いよく槍を突き刺した。

『『『グギギッ……!』』』

 ただでさえ鈍いやつらが串刺し状態になって動けなくなり、徐々に消えていく。

 モンスターにはいずれも属性や弱点、さらには急所があり、こいつの場合は闇属性だから光属性攻撃を浴びせるのが一番なんだが、それがない場合は急所を突くのが効果的なんだ。エンシェントワーカーの場合は腰がそれにあたる部分で、コレットが上手く槍で腰を突いてくれたのでこうしてすぐ倒せたというわけだった。

「なんか串刺しにするとゾンビでも食い物みたいだな」
「……うぅ、その割に全然美味しくなさそうです……」

 食いしん坊のコレットもさすがにお手上げの様子。とにかくこれで三十匹倒したので討伐数のノルマを達成できた。スピードはなくともタフだというモンスターの中でも一番弱くてすぐ死ぬらしいから楽ではあったが、これからどんどん難しくなっていくんだろう。

 それでも、初級ダンジョンは全てのモンスターの攻略法が既に広く出回っていて、俺もリーダーから聞いていたこともあり、戦いに慣れ始めると実際にあっさり倒せるもんだから、今や重圧より楽しさのほうが上回っていた。外れスキル持ちは弱いからダンジョンに通う資格なんてないんだと勝手に決めつけていたが、スキルに頼らなくても充分にいけるとわかって緊張感も大分解れてきたんだ。これが中級、上級ダンジョンだとそうはいかないんだろうけどな……。

「あ、なんか落ちてますよ、カレルさん!」
「おっ……」

 コレットが何かを拾った様子で、嬉々とした顔で駆け寄ってきた。彼女の両手の中を覗くと、ぼんやりと赤く光る小石があるのがわかる。

「これ、なんでしょう?」
「……多分、魔想石ってやつじゃ?」
「魔想石?」
「ああ。確かパーティーリングとかがこれで作られてるみたいだ」
「へえー、カレルさんは詳しいですね! さすが学長の息子さん!」
「……覚えてたのか。そんなの関係ない関係ない」
「ツンデレさんですね!」
「……」

 俺が学長の息子であることはまったく関係ない。興味もあったしダンジョンに関する知識は割と持ってるんだ。忘れてることも多いが……。

「これ、どうしましょう?」
「滅多にドロップしないらしいし大事にしろよ」
「えっ、貰えるんですか?」
「売ったら結構なお金になるみたいだけど、今の俺達には必要ないし……コレットにやるよ」
「わーい! ありがとうですっ!」
「……」

 コレットが飛び跳ねて喜び始めたもんだから、ちょっと可愛いと思ってしまった自分が悔しい……。



『……ガァァ……』

 次に俺たちが狙う標的はスケルプリズナーだ。右手と左足にそれぞれ血塗られた鉄球と足枷をつけたスケルトンで、全体的な動きはエンシェントワーカーよりは速いが、鉄球を振り上げる攻撃動作もぎこちないし、集めすぎなければ余裕で処理できるレベルだった。たまに立ち止まって急所である口を開くため、そのタイミングで矢か槍を口内に命中させるだけで倒すことができた。ノルマの二十匹討伐も完了し、その上青い魔想石までドロップしたのでホクホクだ。

「……あうっ!」

 それもコレットにプレゼントしたらやはり飛び跳ねて喜んだわけだが、その際に足首を痛めたっぽいので休憩場所を探すことにした。

「全然大丈夫ですってばー!」
「一応だ一応。悪化したら大変だろ? それに、俺も少し疲れたしな」
「……本当ですか?」
「本当本当」
「怪しい……」
「……」

 まあコレットは本当に軽傷っぽいが、俺も疲れ気味であることは確かだしちょうどいい。それに今の俺たちは別に強いってわけでもなんでもないんだし、大袈裟だとしてもちょっとした綻びすら見逃さないようにしないと、それが大きくなって致命傷になることだってあるかもしれないからな。命は俺たちが何より大事にしなければならないものだ。

「――お……」

 広い場所の脇にある細い道をしばらく歩いてたら、横に大きな部屋があって奥には水溜まりができていた。確か水場近くにはモンスターが発生しないそうだからいい休憩場所になりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

第1王子だった私は、弟に殺され、アンデットになってしまった

竹桜
ファンタジー
第1王子だった主人公は、王になりたい弟に後ろから刺され、死んでしまった。 だが、主人公は、アンデットになってしまったのだ。 主人公は、生きるために、ダンジョンを出ることを決心し、ダンジョンをクリアするために、下に向かって降りはじめた。 そして、ダンジョンをクリアした主人公は、突然意識を失った。 次に気がつくと、伝説の魔物、シャドーナイトになっていたのだ。 これは、アンデットになってしまった主人公が、人間では無い者達と幸せになる物語。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...