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19話 異常

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 凄い、としか表現しようがなかった。

 それほどの速度で、俺たちは都の中をどんどん進んでいたのだ。迫りくる建物や行き交う人々を一瞬で置き去りにしていく光景は圧巻で爽快だった。

 ジラルドが言うには、石を投げて【投影】してキャッチするという一連の動作も、慣れた今では同行者につなぎ目を一切感じさせることなく移動できるし、感覚で石をキャッチしているので目を瞑っても行ける自信があるという。さすがにそれは怖すぎるので遠慮したいが……。

 というか、俺たち二人を背負ってるのに一切へばらないし、投石の勢いとか見ても異常なくらい鍛えられていることがわかる。

「――よしっ、着いた!」

 どこへ向かうのかと思っていたら冒険者ギルドで、俺たちが数時間かけたところへ僅か数分で行くことができた。それも、彼曰く途中で何度か道を間違えた上でだからな……。

「……これでよし、と……」
「「え……」」

 ジラルドが受付でパーティー名簿を開き、《ゼロスターズ》の追加メンバーの項目に俺に加えてコレットの名前も書いて提出したので驚く。

「コレットも?」
「私も入れてくださるんですか……?」
「もちろん、使用人だってメンバーの一人だよ。上級ダンジョンまで一緒に行くとなると難しいけど、初級なら行く機会もあるかもしれないし」
「「なるほど……」」
「さ、登録は済ませたから早速僕らの宿舎へ行こう!」
「「はい!」」

 ギルドを出てからも俺たちは面白いように都を縦横無尽に駆け回り、追い抜いた馬車を振り返ると既に遠くに見えた。

「宿舎に着くまでは退屈だろうから、聞きたいことがあるなら遠慮なく聞いていいよ」
「といってもな……」
「危ないですよね……」
「大丈夫大丈夫……わっ!?」
「「ひっ……!」」

 言った側から宿屋のアイアン看板にぶつかりそうになったし……。

「……い、今のはたまたまだからっ!」
「「……」」
「本当本当っ! それに一度ミスしたから、次のミスまでは遠い!」

 ある意味ポジティブシンキングだな……。

「ふふっ……」

 コレットが噴き出している。

「お、受けたっ。いいなあ、カレル君には可愛い彼女がいて……」
「……え。彼女じゃないし……なあ? コレット」
「……わ、私はそれでもいいですけど……」
「なんだ、コレットさんの片思いか……。なら、僕にもチャンスが!?」
「ごめんなさい! 私はカレルさんしか……」
「うう……。早くも振られてしまった。これで六七人目……」
「「ええっ……?」」

 いくらなんでも振られすぎだろ……。こんなに面白いし、強豪パーティーのリーダーなのに……。

「これが、本当なんだよ。大袈裟に言ってるわけじゃなくてね。もう、この際男に走ろうかな? というわけで、これからは僕もカレル君を狙うとしよう……」
「「……」」
「ちょっ! なんでそこで黙る!? 頼むから突っ込んでくれ! 冗談だから! 僕はホモじゃないからっ!」
「……正直、今からでも帰ろうかと……」
「私も……!」
「あっはっはっは!」

 狂気じみたジラルドの笑い声が響き渡る中、俺はあることに気付いた。もうすぐ都を離れるわけだが、上級パーティーが通っているダンジョン『勇壮の谷』とはまったく逆方向に進んでいるのだ。普通、これくらい有名なパーティーであれば最低でも王都内部に宿舎があるはずだが……。

「……」

 妙だな。向かっているのは宿舎じゃなくて違うところなんだろうか……?

「……ジラルドさん、俺たちパーティーの宿舎へ向かってるんですよね? それとも、その前に寄りたいところがあるとか?」
「カレルさん? どういうことです?」
「コレット、こっちの方向はさ、《ゼロスターズ》の主戦場のはずの上級ダンジョンとは逆方向なんだよ」
「ええー!?」
「……ふっふっふ。カレル君、コレットさん……重大な事実に気が付いてしまったようだね……」
「「……え?」」

 ジラルドは威圧するようなとても低い声を出した。ま、まさか……。
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