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17話 すれ違い
しおりを挟む「「えっ……」」
俺とコレットはしばしの間呆気に取られていた。
今頃になって《ゼロスターズ》のリーダーであるジラルドが、崖下を挟んだ左側のほうから忽然と俺たちの前に現れたのだ……。
「いやー、申し訳ない。まさかこっちにいるとはね。ずっと待ってたのに来なかったからおかしいと思ってたんだ……」
どうやら待ち合わせの場所がズレていたらしい。彼は崖の左側を選び、俺たちはいつもいる右側を選んだわけだが、どっちも似たような光景が広がってる上、大きく張り出た崖で分かれてるもんだからお互いのいる場所が見えないんだ。もしコレットが大声を出さなかったらずっと気付かれなかったわけで、大変なことになってたな……。
「よかったですね、カレルさん……」
「あぁ……。コレット、涙声になってるしこんなときくらい泣いてもいいんだぞ?」
「……な、泣きません!」
コレットのやつ、相変わらずしぶとい……。
「それにしても、まさか本当だったとは思わなかった……」
「ええっ。カレル君は僕を疑ってたのかい……? 酷いなー。僕の方向感覚もだけど……」
「「あはは……」」
このジラルドとかいう男、気さくでユーモアもあるし、リーダーとしての器の大きさも感じる。疑ってた自分がバカみたいだ。
「よーし、それじゃ早速出発するかな? 一気に行くから、準備ができたら二人とも僕の体に掴まってほしい。よいしょっと……」
「「え?」」
ジラルドが砂浜に転がっている大きめの丸い石を拾った。これで一体何をする気なんだ……?
◇ ◇ ◇
「……あ、あいつは……」
「え……? 誰、あの人? ヨーク、知ってるの?」
砂浜にいるカレルの元に突如として現れた男に対して、ヨークとラシムの様子は対照的なものだった。
「知ってるも何も……あの人、上級ダンジョンに通う強豪パーティーの中でも特に有名な《ゼロスターズ》のリーダー、ジラルドだよ。ラシムも聞いたことくらいはあると思うけど……」
「えっ……そ、そういえば、ジラルドって名前どこかで聞いたことあるかも……。てか、なんでそんな凄い人がアレの元に来るわけ……?」
「……」
「ヨーク? どうして黙ってるのよ。もー、ヨークったら返事して――」
「――うるさいなぁ! 今それを必死に考えてて、僕のほうが知りたいくらいなんだよ!」
「……そ……そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない!」
涙目になるラシムを前に、ヨークははっとした顔になる。
「……わ、悪かったよ、ラシム……」
「あ、あたしも興奮しちゃって、ごめん……」
二人はお互いに謝罪し合ったものの、表情は優れなかった。冷やかそうとしていた相手の元に、当たりスキルを持つ自分たちですら遠く及ばないほど強いパーティーのリーダーが訪れてきたからだ。
「……なんで、外れスキル持ちのアレのところにあんなに強い人が会いにきたのかは知らないけどさ……僕、これだけはわかる」
「……これだけ?」
「うん。少なくともアレをスカウトしに来たわけじゃないってことだよ。ただ偶然遭遇したとか……それか、例の釣りイベントっていうのを見に来ただけなんじゃないかな? 暇潰し感覚で……」
「えー、あんなに強い人がわざわざこんな何もないところへ来るの……?」
「強いからこそ余裕があるんだよ。だって、あんなのをスカウトするくらいなら僕たちのほうが百倍役に立てる自信があるし……」
「あはっ……それもそっか……」
「今に見てなよ。すぐにあの人だけいなくなる……って、あれ……?」
「どうしたの?」
「……」
ヨークの顔が見る見る青くなる。砂浜にさっきまでいたはずの三人が突如いなくなっていたからだった。
「……ほ、本当にアレがスカウトされたのかよ……」
「……嘘……」
二人はしばらく呆然と、寄せては返す波を見つめていた……。
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