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十二話 無明
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――『【迷宮スキル・無明剣】を発見しました』
な、なんだって……? そんな声が体の内側から聞こえてきたかと思うと、半透明の黒い剣が眼前に突如出現した。これが新たに発見した【無明剣】というものなのか……。
「うっ……⁉」
その剣を手にした途端、俺の剣と折り重なるようにして消え、体中の力がごっそり抜けるような感覚がした。
それは決してパワーが失われるというようなものではなく、逆に力みがなくなっていき、活力が体の内側に見る見る溜まっていくような、そんなエネルギッシュな感じなんだ。
「くぅ……」
本当に、恐ろしいほどに体の芯から力が溢れ、一気に体中を包み込んでいく。まるで全身の感覚がなくなって剣と一体化したかのようだ。
「はあぁぁっ……!」
俺は気付けば縫うような変則的な動きでスケルトンたちの間を移動し、アレンがいる地点へ最短ルートで到達した。
向かってくる錆びた剣を一つ一つ受け流し、あるいは躱して、俺は遂にアレンの腕を左手で掴むことに成功する。ここからが本番だ。
「アレン、目を瞑れっ!」
「う、うん!」
俺はモンスターの殲滅を開始したが、出鱈目にすら思える不規則極まりない剣の軌道に驚く。
「なっ……」
だが、気づいたときには、右手一本で周囲のスケルトンをあっさりと根絶やしにすることができていた。
移動、攻撃、防御、回避を一度に驚異的なレベルでこなしてしまった。これが、【無明剣】の力なのか……。
最早おぞましいまでの威力と解放感が終わるのと同時に、強烈な疲労感が襲ってくるのに加え、無理な動きをした反動か体中に痛みが走った。
「……はぁ、はぁ……」
まずい。精神的にも相当にダメージがあるのか眩暈がする……。とにかく、アレンとエリスの二人を守ることができた。あとは、この【異次元の洞窟】から脱出するだけだ……って、あれ? 何も見えないし聞こえない。
おいおい……一体どうなっている……? だ、ダメだ、今意識を手放すわけにはいかないのに。せめて、ここから出てからじゃないと……。
「――うぐ……こ、ここは……?」
俺は気付けば自室のベッド上で横たわっていて、その傍らにはエリスとアレンがうとうととした様子で座っており、こっちを見るなりはっとした顔になった。
「ルーフお兄様! よかった……。ようやくお目覚めになったのですね……」
「ふわぁ……あ、ルーフ兄様がやっと起きた……! よかったあ……」
「……は、ははっ。よかったっていうのはこっちの台詞だよ。二人とも無事だったんだな……」
弟妹がこうして無事だというのがわかったので、俺はそれだけで心の底から安堵したし満足していた。
【無明剣】によってスケルトンの群れを倒したあと、あれからすぐに意識がなくなったのでどうなることかと思ったが、どうやら二人が俺をここまで運んでくれたみたいだな。
「「……」」
「どうした? エリスもアレンも元気がないな。無事だったのにそんなに沈んだ顔しちゃって」
「それが……言いにくいのですけど……もう、お兄様はあれからずっと寝ていて――」
「えっ……」
ま、まさか、眠りすぎてイレイドとの決闘日が過ぎてしまったっていうのか……?
「――とうとう日付が過ぎ、朝になってしまったんです……」
「うん……。イレイドとの決闘に向けて訓練中だったのに、僕らのために時間を潰しちゃってごめんなさい……」
「……な、なんだ、朝になっただけなら、イレイドとの決闘日には間に合ったんだな。それならもう準備は万端だし、全然問題ない」
「「えぇっ……?」」
エリスとアレンがきょとんとした顔を見合わせる。貴重な訓練の時間を奪ってしまったと思ってたのに、俺が気にしてないのが意外だったんだろうか。
むしろ、彼女たちのおかげで【無明剣】を発見できたようなものだし、二人にお礼を言いたいくらいだ。目を瞑った状態で戦うだけじゃなく、通常の状態で自身の無力さ、すなわち己の無明を悟ることがこのスキルの発見に繋がったように思えるからな。
「だから……昨日のことは俺たちだけの秘密だ。約束だぞ、エリス、アレン……?」
「ル、ルーフお兄様……はいっ、許していただけてありがとうございます!」
「うん! ルーフ兄様、許してくれてありがとう……。約束するっ!」
俺たちはお互いに笑い合った。
【迷宮】スキルの一種である【無明剣】を手にすることができたとはいえ、イレイドは難攻不落の技とも呼ばれる【剣術】スキルの持ち主。
しかも、やつが片思いしているリリアンを賭けていることもあり、普段から目の敵にしている俺にだけは負けてなるものかと死に物狂いで来るはず。なので熾烈を極める激戦になると思うが、必ずやあの男との決闘に勝ってみせるつもりだ……。
アンシラの街を馬車で出発して、車内で揺られること数時間後、御者の手によって馬車は無事に神殿の近くに停車した。
「…………」
いよいよだ。ここへ来るのはスキルを貰ったとき以来だが、そのときよりも緊張しているかもしれない。今回は家族総出で応援するためについてきてくれることになったっていうのもある。
前世で嫌というほど味わった人間関係の摩擦から、誰かといるよりも一人のほうが気楽だと思ってしまうが、応援してくれることで励みになるかもしれないと思い直す。
ちなみに、馬車内では昨日俺が夕食を取らなかったことが話題に上った。一体どうしたんだと父さんと母さんが心配そうに尋ねてきたので、俺の両隣に座るエリスとアレンが緊張した様子になったが、打ち合わせ通り俺が極度の疲労のあまり寝ていたってことにした。あながち間違いでもないしな。
神殿の近くには、既に決闘の見物人らしき人々が大勢集まっていて、ここぞとばかり俺たちのほうに注目してくるのがわかる。
『来たぞ、ベルシュタイン家の令息が!』
『本当に来たのかよ。逃げると思ってたのに』
『お前の負けだから銀貨一枚な』
『チッ……!』
『逃げたほうが体に傷を負わない分マシだったかもな』
『つーか、たかがユニークスキル持ちが、花形の【剣術】スキル持ちに勝てるわけねーのに、馬鹿じゃねーの?』
『まったくだ。勝負は火を見るより明らかだな』
『それより、どれくらいの秒数でイレイド様が勝つと思う?』
『3秒くらいじゃない?』
『馬鹿か。1秒だろ!』
『『『『『どっ……!』』』』』
「…………」
相変わらずイレイドの用意した扇動者も野次馬の中で待機してるのか。
まあいい。今のうちに好きなように言わせておけばいいんだ。肝心の決闘相手の姿はまだ見かけないが、俺はもう準備はできていた。
【剣術】スキルを打ち負かすには、【無明剣】の使いどころが重要になってくると思う。これを使用すると心身の疲労が激しくて反動も大きいがゆえに、そのタイミングを少しでも間違えれば良くて相打ちといったところか。
とにかく、どちらが勝つにしてもすんなりとはいかないだろう。最後の最後に決めてとなってくるのは気持ちの部分だと思う。
リリアンに対するイレイドの気持ちは確かに一方的なものかもしれないが、舐めてはいけない。ずっと一途に思い続けていることからも、その執着心は計り知れないほどの深さがあると俺は睨んでいる。
だが、気持ちの強さなら前世での思いを引き継いでいる分、俺だって負けるつもりはさらさらない。
――ん、それからまもなく馬車の音が遠くから聞こえてきた。この音……間違いない。以前聞いた覚えがあるからこそわかる。間違いなくイレイドのものだ。
しばらくしてド派手な馬車が見えてきたことで、周囲の人間たちもようやく気付いたのか大いに盛り上がっている。
太陽も真上に差し掛かろうとしているし、決闘の時間が間近に迫ってきたってことだ。なんだかここまで来ると、不安とか緊張とか色んなものを通り越して楽しみになってくるな……。
な、なんだって……? そんな声が体の内側から聞こえてきたかと思うと、半透明の黒い剣が眼前に突如出現した。これが新たに発見した【無明剣】というものなのか……。
「うっ……⁉」
その剣を手にした途端、俺の剣と折り重なるようにして消え、体中の力がごっそり抜けるような感覚がした。
それは決してパワーが失われるというようなものではなく、逆に力みがなくなっていき、活力が体の内側に見る見る溜まっていくような、そんなエネルギッシュな感じなんだ。
「くぅ……」
本当に、恐ろしいほどに体の芯から力が溢れ、一気に体中を包み込んでいく。まるで全身の感覚がなくなって剣と一体化したかのようだ。
「はあぁぁっ……!」
俺は気付けば縫うような変則的な動きでスケルトンたちの間を移動し、アレンがいる地点へ最短ルートで到達した。
向かってくる錆びた剣を一つ一つ受け流し、あるいは躱して、俺は遂にアレンの腕を左手で掴むことに成功する。ここからが本番だ。
「アレン、目を瞑れっ!」
「う、うん!」
俺はモンスターの殲滅を開始したが、出鱈目にすら思える不規則極まりない剣の軌道に驚く。
「なっ……」
だが、気づいたときには、右手一本で周囲のスケルトンをあっさりと根絶やしにすることができていた。
移動、攻撃、防御、回避を一度に驚異的なレベルでこなしてしまった。これが、【無明剣】の力なのか……。
最早おぞましいまでの威力と解放感が終わるのと同時に、強烈な疲労感が襲ってくるのに加え、無理な動きをした反動か体中に痛みが走った。
「……はぁ、はぁ……」
まずい。精神的にも相当にダメージがあるのか眩暈がする……。とにかく、アレンとエリスの二人を守ることができた。あとは、この【異次元の洞窟】から脱出するだけだ……って、あれ? 何も見えないし聞こえない。
おいおい……一体どうなっている……? だ、ダメだ、今意識を手放すわけにはいかないのに。せめて、ここから出てからじゃないと……。
「――うぐ……こ、ここは……?」
俺は気付けば自室のベッド上で横たわっていて、その傍らにはエリスとアレンがうとうととした様子で座っており、こっちを見るなりはっとした顔になった。
「ルーフお兄様! よかった……。ようやくお目覚めになったのですね……」
「ふわぁ……あ、ルーフ兄様がやっと起きた……! よかったあ……」
「……は、ははっ。よかったっていうのはこっちの台詞だよ。二人とも無事だったんだな……」
弟妹がこうして無事だというのがわかったので、俺はそれだけで心の底から安堵したし満足していた。
【無明剣】によってスケルトンの群れを倒したあと、あれからすぐに意識がなくなったのでどうなることかと思ったが、どうやら二人が俺をここまで運んでくれたみたいだな。
「「……」」
「どうした? エリスもアレンも元気がないな。無事だったのにそんなに沈んだ顔しちゃって」
「それが……言いにくいのですけど……もう、お兄様はあれからずっと寝ていて――」
「えっ……」
ま、まさか、眠りすぎてイレイドとの決闘日が過ぎてしまったっていうのか……?
「――とうとう日付が過ぎ、朝になってしまったんです……」
「うん……。イレイドとの決闘に向けて訓練中だったのに、僕らのために時間を潰しちゃってごめんなさい……」
「……な、なんだ、朝になっただけなら、イレイドとの決闘日には間に合ったんだな。それならもう準備は万端だし、全然問題ない」
「「えぇっ……?」」
エリスとアレンがきょとんとした顔を見合わせる。貴重な訓練の時間を奪ってしまったと思ってたのに、俺が気にしてないのが意外だったんだろうか。
むしろ、彼女たちのおかげで【無明剣】を発見できたようなものだし、二人にお礼を言いたいくらいだ。目を瞑った状態で戦うだけじゃなく、通常の状態で自身の無力さ、すなわち己の無明を悟ることがこのスキルの発見に繋がったように思えるからな。
「だから……昨日のことは俺たちだけの秘密だ。約束だぞ、エリス、アレン……?」
「ル、ルーフお兄様……はいっ、許していただけてありがとうございます!」
「うん! ルーフ兄様、許してくれてありがとう……。約束するっ!」
俺たちはお互いに笑い合った。
【迷宮】スキルの一種である【無明剣】を手にすることができたとはいえ、イレイドは難攻不落の技とも呼ばれる【剣術】スキルの持ち主。
しかも、やつが片思いしているリリアンを賭けていることもあり、普段から目の敵にしている俺にだけは負けてなるものかと死に物狂いで来るはず。なので熾烈を極める激戦になると思うが、必ずやあの男との決闘に勝ってみせるつもりだ……。
アンシラの街を馬車で出発して、車内で揺られること数時間後、御者の手によって馬車は無事に神殿の近くに停車した。
「…………」
いよいよだ。ここへ来るのはスキルを貰ったとき以来だが、そのときよりも緊張しているかもしれない。今回は家族総出で応援するためについてきてくれることになったっていうのもある。
前世で嫌というほど味わった人間関係の摩擦から、誰かといるよりも一人のほうが気楽だと思ってしまうが、応援してくれることで励みになるかもしれないと思い直す。
ちなみに、馬車内では昨日俺が夕食を取らなかったことが話題に上った。一体どうしたんだと父さんと母さんが心配そうに尋ねてきたので、俺の両隣に座るエリスとアレンが緊張した様子になったが、打ち合わせ通り俺が極度の疲労のあまり寝ていたってことにした。あながち間違いでもないしな。
神殿の近くには、既に決闘の見物人らしき人々が大勢集まっていて、ここぞとばかり俺たちのほうに注目してくるのがわかる。
『来たぞ、ベルシュタイン家の令息が!』
『本当に来たのかよ。逃げると思ってたのに』
『お前の負けだから銀貨一枚な』
『チッ……!』
『逃げたほうが体に傷を負わない分マシだったかもな』
『つーか、たかがユニークスキル持ちが、花形の【剣術】スキル持ちに勝てるわけねーのに、馬鹿じゃねーの?』
『まったくだ。勝負は火を見るより明らかだな』
『それより、どれくらいの秒数でイレイド様が勝つと思う?』
『3秒くらいじゃない?』
『馬鹿か。1秒だろ!』
『『『『『どっ……!』』』』』
「…………」
相変わらずイレイドの用意した扇動者も野次馬の中で待機してるのか。
まあいい。今のうちに好きなように言わせておけばいいんだ。肝心の決闘相手の姿はまだ見かけないが、俺はもう準備はできていた。
【剣術】スキルを打ち負かすには、【無明剣】の使いどころが重要になってくると思う。これを使用すると心身の疲労が激しくて反動も大きいがゆえに、そのタイミングを少しでも間違えれば良くて相打ちといったところか。
とにかく、どちらが勝つにしてもすんなりとはいかないだろう。最後の最後に決めてとなってくるのは気持ちの部分だと思う。
リリアンに対するイレイドの気持ちは確かに一方的なものかもしれないが、舐めてはいけない。ずっと一途に思い続けていることからも、その執着心は計り知れないほどの深さがあると俺は睨んでいる。
だが、気持ちの強さなら前世での思いを引き継いでいる分、俺だって負けるつもりはさらさらない。
――ん、それからまもなく馬車の音が遠くから聞こえてきた。この音……間違いない。以前聞いた覚えがあるからこそわかる。間違いなくイレイドのものだ。
しばらくしてド派手な馬車が見えてきたことで、周囲の人間たちもようやく気付いたのか大いに盛り上がっている。
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