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五話 気付き
しおりを挟む「頭の中で声がしたって……それ、お父様も仰ってたわ」
「え、リリアンのお父さんが?」
「うん。スキルを初めて使えるようになったとき、頭の中で声がしたって」
「やっぱりそうなのか……って、もしかしてリリアンの父さんって、ユニークスキル持ち?」
「えぇ、そうよ。そこから成り上がって今の伯爵家としての地位を築き上げたんだから、ルーフ、あんたもいけるわよ、多分……」
まさか、リリアンの父親がユニークスキル持ちだなんて、初めて知る事実だった。もしかしたら、ユニークスキルだってわかったことでリリアンは俺に共感したのかもしれないな。
「それじゃ、使ってみるよ。今ならなんとなく使えるような気がするし」
「うん」
今まで幾度となくスキルを使おうと試みてもダメだったが、例の声がしたことで今回に限っては高い確率でいけるような気がしていた。
「「「「「――お嬢様―……!」」」」」
「「あっ……」」
遠くから声が聞こえてきて、俺はリリアンと互いに気まずい顔を見合わせる。どうやらパーティー会場から抜け出したリリアンを捜しに来たらしい。
参ったな……これじゃまた俺が責任を取らされてしまう。それはいいとしても、リリアンが無理やり連れ戻されるのは気の毒だ。あの会場はやたらと華やかで賑やかだが、その一方でとても窮屈な場所に見えるだけに。
でも、この辺は隠れる場所もないし……って、そうだ。このスキルを使えばなんとかなるんじゃ? やつらの声がいよいよ近くなってきて時間がないので俺は集中することにした。
確か、スキルを使うためには集中してスキル名を心の中で念じることが鍵だって何かの本で見た覚えがあるから。【迷宮】、【迷宮】、【迷宮】……あれ、ダメだ。何も起きない……。
「ちょっと、ルーフったら早くしなさいよ!」
「お、おい、リリアン、大声で喋るなよ。俺たちがここにいるってバレるだろ――」
「――あ、ごめん……」
「ちょっと待て。今、どこからかお嬢様の声が聞こえたぞ……⁉」
「あの辺だ!」
「くっ……」
もう一刻の猶予も残されてはいない。頼む……【迷宮】――いや、【異次元の洞窟】よ、出現してくれ……。
「「はっ……」」
突然、俺たちの目の前にぽっかりと大きな穴が開くのがわかった。おおっ、おそらくこれこそが【異次元の洞窟】の入り口だ。具体的な名称をイメージしないとダメらしい。
「行こう、リリアン」
「うん……!」
俺たちは思い切って中へ飛び込む。
「「……」」
すると、それまで俺たちは丘の上にいたはずが、真っ暗な場所にいるのがわかった。これじゃ周りが見えないので照明用の魔法を使うしかない。魔法に関するスキルは持ってないが、この世界の人間であれば勉強することで、少量の水を出したり、小さな火を灯したりする程度ならできるようになるんだ。
「「――あ……」」
どうやら俺たちはほぼ同時に火を出したようで、急に明るくなったもんだから驚きの声が重なってしまった。
「ル、ルーフ、これがあんたの【迷宮】スキルの効果なのね……」
「あ、あぁ、そうみたいだ……」
周囲は岩壁に囲まれており、【異次元の洞窟】にいることに疑いの余地はなかった。後ろにあるはずの出入口が消えてしまっているので不安はあるが、先に続いていることもあり、俺たちは息を殺すようにして慎重に前へと進み始める。
本当に、普段いるところと違って緊迫感のある場所だ。呼吸をするのでさえもままならない、そんな禍々しい空気がそこら中に蔓延っているんだ。こりゃ、モンスターがいるのは確定だな。
一応剣を持ってきているとはいえ、訓練はしていても実戦経験がない俺にしてみたら不安が大きかった。剣術に関連するスキルがあればまた全然違ったとは思うが、そこは仕方ない。そもそも【迷宮】スキルがなければこんなところへは来られなかったわけだしな。
普段都で生活しててわかったのは、モンスターっていうのは人里離れた場所やダンジョンに生息するってことだ。モンスターにも知能があり、例外はあっても人が多くいる場所には寄ってこない傾向にあるんだとか。
瘴気という負の空気と人間の魔力が混ざり合ったものによって植物や動物、魚等が変異を起こしてモンスターとなり、この瘴気に長く晒された場所がやがてダンジョン化するのだという。ただ、ここに関しては【異次元の洞窟】なので俺が作り出したオリジナルのダンジョンってことになるんだろう。
「――しっ……」
「な、何? どうしたの、ルーフ……?」
「何か来る」
「え、えぇっ……⁉」
曲がりくねった通路の先から、足音が聞こえてきたんだ。確かにはっきり聞こえた。俺たちとは明らかに違う種類の足音が……。
「リリアン、俺がやるからそこで待ってて」
「う、うん。気を付けてね、ルーフ……」
いつも強気のリリアンがらしくないな。相当怖いんだろう。っていうか、俺が異常なだけなのか。怖さよりも好奇心のほうが勝っていたから。
俺は戦うために手元の火を消し、両手でしっかりと剣を握りしめる。さあ来い。俺の作ったダンジョンに出てくるモンスターなんだから、俺にやれないわけがないと暗示をかける。
「――カタカタカタッ」
「…………」
骨が響き合うような、そんな乾いた音が連続して聞こえてきたと思ったら、まもなく一体の骸骨が姿を現した。いわゆるスケルトンってやつか。錆びた剣を片手に持ち、笑うように口をカタカタと鳴らしてまるで挑発しているようだ。ふざけるな、俺を舐めるな……。
俺はそう思いつつも、暗い目の奥から怪しい光を放つ骸骨を前にして緊張のあまり手が震えたが、心は熱く頭は冷静にして堪える。後ろからリリアンが照らしてくれているし、彼女の傍を離れるわけにはいかない。
「はあぁっ!」
俺は勇気を振り絞って踏み込みつつ上段から剣を振り下ろしたが、僅かに届かなかった。クソッ、踏み込みが少し甘かったか。
「カタカタカタッ」
「うっ……⁉」
その直後にスケルトンがチャンスとばかり錆びた剣を振り下ろしてきて、俺は肩に痛みを覚えつつ後退した。
「ル、ルーフ、大丈夫なの⁉」
「だ、大丈夫だ。見てろ、今度こそやってやる!」
傷の具合はわからないが、頭に血が上っていた俺は再度大きく踏み込むとともに両腕をグッと伸ばし、化け物に向かって横薙ぎに剣を振るった。よし、次はしっかり手応えがある。
「…………」
スケルトンは無言のまま崩れ落ちてバラバラになると、錆びた剣とともに跡形もなく消失した。
「や、やった……! 倒したぞ、リリアン!」
「ちょっと、それより傷は大丈夫なの? 見せて!」
「あっ……」
リリアンが血相を変えて俺の右肩に火を近づけて確認する。見た感じ掠り傷みたいだ。結構近くから斬られたからもっと酷いかと思ったら大したことはなかったな。
「大丈夫だ、掠り傷――」
「――待って、あたしが治療するから動かないで」
「えっ……」
リリアンは薬草みたいなものを塗ったかと思うと、ハンカチを取り出してそれを俺の肩に巻いてくれた。青い薔薇が刺繍されたかなり高級そうなものなのに……。
「……ありがとう、リリアン。あとで洗って返すよ。っていうか、薬草なんて持ってたのか」
「持ってきてないけれど、その辺に生えていたから採取したわ」
「えぇ? それって大丈夫なのか……?」
「大丈夫よ。あたし、薬草の知識はちゃんと持ってるし、水魔法で洗ってあるから心配しないの。まだ小さいとき、今は亡きお母様がよく教えてくださって……」
「そ、そうなのか」
「うん」
時折覗かせるリリアンの品の良さや丁寧な仕草に、俺は何故かはっとさせられる。そういえば伯爵令嬢なんだよな、この子……って、なんか妙にドキドキしてきたから考えないでおこう。今俺たちはダンジョンにいるわけだからな。
それにしても、当たり前かもしれないが薬草まで採取できるなんて便利だ。この先には宝箱もあるんじゃないかって思えてきた。
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