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七話 道具屋のおっさん、生まれ変わる。
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「……無限……?」
カードの裏には24という数字と、無限を表すインフィニティ記号が印されていた。
「神様、これって、一体……」
「……どれどれ……。おおう、こやつめ、最高のカードを引き当ておったわい」
俺が無限のカードを見せると、神様の老人は満足そうに目を細めた。さっぱりわけがわからない。
「モルネトよ、これからお前は同じ一日を無限に繰り返すことになるのじゃ」
「……え?」
「じゃが、安心しろ。記憶を含めて今の状態は保たれるし、死んでしまっても元に戻る。零時を廻れば、お前はループの輪のスタート地点に戻ることじゃろう」
「……神様、言ってる意味がよくわからない……」
「心配せんでもすぐにわかるわい。もうすぐその零時だからのー」
「え、ちょっと、神様……?」
「……あ、くれぐれもカードと童貞は捨てんようにな。ま、童貞に関してはわしが見えなくなっても困らんなら別に捨ててしまってもいいが」
な、なんだ? 唾を飛ばしながら豪快に笑う神様の顔が歪んだかと思うと、周囲の景色も同じように崩れていって、気付いたら俺はベッドの上にいた。
「――……え、え……?」
飛び起きて確認したら、そこは道具屋の奥にある自分の部屋だった。何故俺の部屋があるんだ? 勇者パーティーの一人、魔術師アルタスに燃やされてしまったはずなのに……。
もしかして、今までのことは夢だったんだろうか。でも、その割に長すぎたような……んー、とはいえさすがに夢だよな? というか物凄く眠いし寝るとしよう……。
※※※
小鳥たちの鳴き声に耳をくすぐられて目覚めるいつも通りの朝。見慣れた壁と天井が無言の挨拶をしてくる。
うん、今までのことはやっぱり夢だったようだな。世界に一つしかない俺の部屋だ。さて、仕事を始めるとしよう。
……あれ? 俺が着ているこの服、パジャマじゃなくて例の安物のコートだ。こんなのを着て寝るなんてありえないんじゃ……?
いや、いつの間にか夢遊病みたいになって、着てしまったんだろう。何か大切なことを忘れているような気もするが、まあいい。
お気に入りの青いエプロンを着てカウンターの前に立つ。
「……」
脇に置いてあるスタンドミラーの前で笑おうと思ったが上手く笑えない。もうトラウマになっていた。なんであんな悪夢を見てしまったんだろう……。
ん? 外が騒がしいな……。ま、まさか……。俺は壁に隠れるようにしてそっと窓の外に目をやった。
「……あ、あ……」
そこには昨日と同じ光景が広がっていた。勇者クリス、戦士ライラ、魔術師アルタス、僧侶ミヤレスカ……悠然と歩く勇者パーティーの面々を追いかける町の住民たち……。
そうだ、そういえばあの夢の中で最後のほうに出てきた神様が言ってたっけ。俺は一日を無限に繰り返すと。ってことは、夢じゃなかった……?
た、大変だ。こうしちゃいられない……! 俺は慌てて自分の部屋まで走ると、クローゼットにあるコートのポケットをまさぐった。
……あった。無限のカードだ。今まであったことは紛れもなく現実だったんだ……。っと、いかんいかん。感傷に浸っている暇はない。あいつらが道具屋に来てしまう。
急いで店を出て、扉の前に臨時休業の看板を立てると、雪化粧したブロック塀の後ろに潜んで様子を見ることにした。逃げ出そうかとも思ったが、俺がいないときにやつらがどんな行動を取るかが気になった。
――来る来る……。まずは勇者クリスが道具屋に入ろうとしたが、当然鍵が掛かってるので入れない。なのに、一向に立ち去ろうとしなかった。あいつ、臨時休業の字が見えないのか……?
「……あ」
クリスのやつ、周りを見渡したあとで看板を蹴り上げて倒しやがった。わかってはいたが、なんて非常識なやつだ……。
次に戦士ライラが来てクリスと何やら言葉を交わしたあと、斧で勢いよくドアを叩き壊してしまった。二人とも笑ってるし盗賊なんかよりよっぽど性質が悪いな……。
やがて魔術師アルタスと僧侶ミヤレスカが合流してきた。おいおい……みんな嬉々とした様子で店の中に入っていくのが見える。まもなく瓶が割れる音が立て続けにここまで聞こえてきた。畜生……ポーション割りまくってるっぽいな。俺があの中にいなくても未来は変わらないっていうのか……?
あ……しばらくしてやつらが出てきた。このまま帰る気かと思ったが、裏口に回り込んでヒソヒソと会話したあと、魔術師アルタスによって火の魔法が放たれて瞬く間に道具屋は炎に包まれてしまった。クソッ……また目の前で燃やされる羽目になるなんて……。
何事かと集まってきた野次馬に勇者たちが説明し始めた。大方、ここが悪いやつらの根城になっていたとか適当なことを抜かして放火を正当化するつもりなんだろう。
本当に吐き気のするやつらだ。俺の道具屋を守るためには自分の力であいつらを叩きのめすしかないんだろう。でも、俺みたいなただの道具屋のおっさんが勇者パーティーに挑んで勝てるわけないんだよなあ……。
「……」
待てよ? 俺は一日を無限に繰り返す。それってつまり、いくらでも時間があるってことだよな……。しかも、神様は言っていた。記憶を含めて状態は維持されると。
よーし……俄然やる気が出てきた。死んでも元に戻るらしいし、この無限のカードさえなくさなければもう俺には怖いもんなしってわけだ。見てろ、これから存分に暴れ回ってやる。底辺道具屋の逆襲がこれから始まるってわけだ……。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ! みなぎってきたああああああああああああああああああああああぁぁぁ!
カードの裏には24という数字と、無限を表すインフィニティ記号が印されていた。
「神様、これって、一体……」
「……どれどれ……。おおう、こやつめ、最高のカードを引き当ておったわい」
俺が無限のカードを見せると、神様の老人は満足そうに目を細めた。さっぱりわけがわからない。
「モルネトよ、これからお前は同じ一日を無限に繰り返すことになるのじゃ」
「……え?」
「じゃが、安心しろ。記憶を含めて今の状態は保たれるし、死んでしまっても元に戻る。零時を廻れば、お前はループの輪のスタート地点に戻ることじゃろう」
「……神様、言ってる意味がよくわからない……」
「心配せんでもすぐにわかるわい。もうすぐその零時だからのー」
「え、ちょっと、神様……?」
「……あ、くれぐれもカードと童貞は捨てんようにな。ま、童貞に関してはわしが見えなくなっても困らんなら別に捨ててしまってもいいが」
な、なんだ? 唾を飛ばしながら豪快に笑う神様の顔が歪んだかと思うと、周囲の景色も同じように崩れていって、気付いたら俺はベッドの上にいた。
「――……え、え……?」
飛び起きて確認したら、そこは道具屋の奥にある自分の部屋だった。何故俺の部屋があるんだ? 勇者パーティーの一人、魔術師アルタスに燃やされてしまったはずなのに……。
もしかして、今までのことは夢だったんだろうか。でも、その割に長すぎたような……んー、とはいえさすがに夢だよな? というか物凄く眠いし寝るとしよう……。
※※※
小鳥たちの鳴き声に耳をくすぐられて目覚めるいつも通りの朝。見慣れた壁と天井が無言の挨拶をしてくる。
うん、今までのことはやっぱり夢だったようだな。世界に一つしかない俺の部屋だ。さて、仕事を始めるとしよう。
……あれ? 俺が着ているこの服、パジャマじゃなくて例の安物のコートだ。こんなのを着て寝るなんてありえないんじゃ……?
いや、いつの間にか夢遊病みたいになって、着てしまったんだろう。何か大切なことを忘れているような気もするが、まあいい。
お気に入りの青いエプロンを着てカウンターの前に立つ。
「……」
脇に置いてあるスタンドミラーの前で笑おうと思ったが上手く笑えない。もうトラウマになっていた。なんであんな悪夢を見てしまったんだろう……。
ん? 外が騒がしいな……。ま、まさか……。俺は壁に隠れるようにしてそっと窓の外に目をやった。
「……あ、あ……」
そこには昨日と同じ光景が広がっていた。勇者クリス、戦士ライラ、魔術師アルタス、僧侶ミヤレスカ……悠然と歩く勇者パーティーの面々を追いかける町の住民たち……。
そうだ、そういえばあの夢の中で最後のほうに出てきた神様が言ってたっけ。俺は一日を無限に繰り返すと。ってことは、夢じゃなかった……?
た、大変だ。こうしちゃいられない……! 俺は慌てて自分の部屋まで走ると、クローゼットにあるコートのポケットをまさぐった。
……あった。無限のカードだ。今まであったことは紛れもなく現実だったんだ……。っと、いかんいかん。感傷に浸っている暇はない。あいつらが道具屋に来てしまう。
急いで店を出て、扉の前に臨時休業の看板を立てると、雪化粧したブロック塀の後ろに潜んで様子を見ることにした。逃げ出そうかとも思ったが、俺がいないときにやつらがどんな行動を取るかが気になった。
――来る来る……。まずは勇者クリスが道具屋に入ろうとしたが、当然鍵が掛かってるので入れない。なのに、一向に立ち去ろうとしなかった。あいつ、臨時休業の字が見えないのか……?
「……あ」
クリスのやつ、周りを見渡したあとで看板を蹴り上げて倒しやがった。わかってはいたが、なんて非常識なやつだ……。
次に戦士ライラが来てクリスと何やら言葉を交わしたあと、斧で勢いよくドアを叩き壊してしまった。二人とも笑ってるし盗賊なんかよりよっぽど性質が悪いな……。
やがて魔術師アルタスと僧侶ミヤレスカが合流してきた。おいおい……みんな嬉々とした様子で店の中に入っていくのが見える。まもなく瓶が割れる音が立て続けにここまで聞こえてきた。畜生……ポーション割りまくってるっぽいな。俺があの中にいなくても未来は変わらないっていうのか……?
あ……しばらくしてやつらが出てきた。このまま帰る気かと思ったが、裏口に回り込んでヒソヒソと会話したあと、魔術師アルタスによって火の魔法が放たれて瞬く間に道具屋は炎に包まれてしまった。クソッ……また目の前で燃やされる羽目になるなんて……。
何事かと集まってきた野次馬に勇者たちが説明し始めた。大方、ここが悪いやつらの根城になっていたとか適当なことを抜かして放火を正当化するつもりなんだろう。
本当に吐き気のするやつらだ。俺の道具屋を守るためには自分の力であいつらを叩きのめすしかないんだろう。でも、俺みたいなただの道具屋のおっさんが勇者パーティーに挑んで勝てるわけないんだよなあ……。
「……」
待てよ? 俺は一日を無限に繰り返す。それってつまり、いくらでも時間があるってことだよな……。しかも、神様は言っていた。記憶を含めて状態は維持されると。
よーし……俄然やる気が出てきた。死んでも元に戻るらしいし、この無限のカードさえなくさなければもう俺には怖いもんなしってわけだ。見てろ、これから存分に暴れ回ってやる。底辺道具屋の逆襲がこれから始まるってわけだ……。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ! みなぎってきたああああああああああああああああああああああぁぁぁ!
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