上 下
61 / 62

六一話

しおりを挟む

「如月が仮面の英雄……?」

「如月が仮面の英雄ポ……?」

「あぁ、そうだ。驚いたか――?」

「「――ブヒャヒャヒャヒャッ……!」」

 俺の告白を聞いた永川とスライムは、涙目になりながら笑い転げた。

「……ヒ、ヒヒッ! こ、これは、傑作すぎて、笑い死にそうです……アヒッ、如月が仮面の英雄……ププッ……!」

「ポ、ポポッ……お、可笑しいポッ、笑いすぎて死にそうだポッ……!」

「…………」

 これでもかと爆笑する永川たちに対し、俺は『レイン』『タライ』『バナナ』『ダスト』のクアドラプルコンボを決め手やった。

「「ぶぇっ!?」」

 よし。久々だったこともあって、もろに決まった。

「油断したな? 実はな、今までこれをやってたのは俺なんだ」

「ごほっ、ごほっ……な、何バカなことを……! そんなしょうもない嘘、一体この世の誰が信じるというんですかっ!」

「ボホッ、ボホッ……ま、真っ赤な嘘だポッ!」

「嘘だって? じゃあ、ほかに誰がいるっていうんだよ?」

「「……」」

 永川とスライムが考え込んだ様子で黙り込むも、しばらくしてはっとした顔になった。

「つ、つまり、ここに姿を隠した協力者がいるってことですか、如月っ!?」

「いるのかポ……?」

「…………」

 なるほど、まあそう思うのが普通か。

 なんせ、俺のスキルは【ダストボックス】だけだと思ってるはずだし、普段から【隠蔽】でそういう風に見せかけてるわけだからな。

 ただもう、ここまで来たら隠す必要は一切ないので、俺は首を横に振ってみせた。

「協力者? そんなものはいない。現実を見ろ。ここにいるのは俺とお前たちだけだ」

「「……」」

 永川とスライムが困惑した顔を見合わせる。そろそろ気付き始めたようだな。さあ、次はどう出る?

「ちょ、ちょっと、タンマ、待ってください、如月。ぼ、僕は用事があるから、この辺で失礼させてもらいますよっ……!」

「し、失礼するポッ……!」

 そうか、そう来たか。用事があると見せかけて援軍を呼ぶか、あるいは逃げようって魂胆だろうが、甘すぎる。

「「っ!?」」

 やつらは扉から出ようとしたが、俺が『インヴィジブルウォール』を張っているので出られず、体当たりまで始めたものの、ほどなくして疲弊した様子で座り込んだ。

「「ハァ、ハァ……」」

「どうした? 永川、それにスライム、そんなに必死になって。もしかして、逃げられないのかな――?」

「――隙ありですよっ! 死ねえぇっ、如月いぃぃぃっ!」

「死ねポッ!」

「はっ……!?」

 永川が髑髏のついた杖を掲げた途端、四角形の水の塊が出現し、俺の体を覆い尽くす。

「アヒャヒャッ! 如月、これは普通の水などではありませんよ! 身動きができないほどの圧力を誇る魔法『ウォーターボックス』であり、あとはこの中で窒息死するのみっ!」

「ごぽっ……」

 俺は魔法の水の中で一切動けなくなっていた。確かに、このままじゃ窒息死するのみだ。

「ふっ……勝ちましたあぁぁっ! アヒャッ! クソ雑魚相手とはいえ、超気持ちイイイイィィッ……フウゥゥーッ!」

「勝ったポッ! 永川さまは最強だポッ!」

「ウヒャヒャッ! ですが、ブルーちゃん。雑魚を始末したとはいえ、協力者がいるはずなので油断は禁物ですよ。聞こえますかっ!? もしいるなら、今すぐ出てきて僕の味方になれば、特別に許してあげます――」

「――誰が許してやるって?」

「え……?」

 永川の背後に現れたのは俺自身だ。『ワープ』で移動しただけだが。

「き……き、如月イイィッ!? ききっ、貴様は死んだはずでは……」

「それより、をいただいたよ」

 俺は没収したスライムを見せつけてやった。

「な、永川さま、助けてポ……」

「ブ、ブルーちゃん!?  き、如月いぃぃっ! 貴様みたいな雑魚が触れていいもんじゃないんですよ!」

「そうか。じゃあ返すよ。あ、その前ににしてやる」

「えっ――?」

「――プ……ブギイイィィィッ……!?」

 俺はおにぎりを作るような感覚で、スライムを少しずつ圧縮してやった。

「ほれ、コンパクトだ……って、あれ? もうすぐ死にそうだ、すまん」

「……ポ、ポォ……」

「あ……あああああぁぁあぁあああああっ!」

「ん、どうした? あ、死んだのか。でも、没収してもほとんど返却しないお前よりは遥かに良心的だろ、なあ、永川」

「ひっく……ごっ、ごろじでやるううぅっ――って、あ、あれぇ……僕の魔法が出ない……?」

「もうやめとけ。あんなしょぼい魔法、いくら食らっても死なないから無駄なだけだ。ぬか喜びさせるためにあえて『ディスペル』をかけなかったってだけでな」

「しょ、しょんな……じゃ、じゃあ、本当に如月が仮面の英雄……?」

「あぁ、そうだ。永川……今までよくもやってくれたな……」

 俺が両手を合わせて指を鳴らすと、永川の顔が可哀想なほど青くなっていった。

「……ぼ、ぼぼぼっ、僕は、虎野さんたちに命令されて、仕方なくいじめてただけなんですよ、ほ、ほほっ、本当なんです……」

「本当か?」

 ここで嘘をつけない魔法『コンフェッション』をかけるのを忘れない。

「いいえ、もちろん嘘です。とても楽しかったですし、自分が標的にされないために如月を積極的にいじめてました……あるぇ?」

「やはりな……」

「……あ、あ、あ、なんで……。あ、あの、如月さま、なんでもしますので、どうか、許してください……」

「許すかボケッ!」

「ぼぎゃっ! むぎゅっ!? あぎっ……あんぎゃああぁぁぁっ!」

 手加減しつつ永川をボコボコにして、死にそうになったら回復してさらにボコる。この繰り返しだ。このまま死なせたら勿体ない。

「――ヒュー、コヒュー……ア、アヒィッ……いっ、命らけは、だじゅげ、で……」

「情けないやつだな。命さえ助かるならそれでいいのか?」

「……も、もぢろんでじゅ……」

「よーし。じゃあ、命だけは助けてやろう。

「うぇっ……?」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

処理中です...