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32話

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『現在、このダンジョンではSRスキルを獲得できる状態です』

 おっ。イベントボードにそんなメッセージが流れてきた。ってことは、あの闇鍋を注文した時点でスキルを獲得できる条件が整ったってわけか。どうやれば手に入るんだろう?

『これから出現する五匹のモンスターを、登場した時点からいずれも五秒以内に片付けることです』

 へえ。モンスターの強さにもよるだろうけど、こっちには探知効果のある【開眼】スキルや一瞬で倒せる【殲滅】スキルもあるし意外と簡単そうだ。

 どんなスキルが手に入るのか、これで楽しみがまた一つ増えた感じだね。激レアという部類の中では最低クラスのスーパーレアといえども、同等レアの【フェイク】スキルみたいに有能なものもあるから侮れないんじゃないかな。

 ちなみに視聴者たちの間では、『うおー、闇鍋かよ、ヤベーw』、『カケル、死ぬかも???』等、不穏なコメントが飛び交っていてちょっと不安になってきたたけど、ま、まあ仮に残念な結果になったとしても、僕には世界最高峰の【セーブ&ロード】スキルで死に戻りできるわけだから……。

 ん? なんか足元になんらかの気配を感じる上、やたらとモゾモゾするなあと思って下を向いたら……テーブルの下に魚の頭をした人がいて、僕と目が合っちゃった。はっ、半漁人……!?

『――ギョギョギョオオォォ……!』

「う、うわああぁあぁっ!」

 飛び出してきたモンスターからまさに抱きつかれる寸前、既に僕が【殲滅】を使ったこともあって半魚人は即座に消滅していった。

 ……はあ。いくらなんでも心臓に悪すぎ……って、アレって料理になるの? まさかね……。

「えっ……?」

 そう思ってたら、僕たちの目前にある皿に魚の大きな目玉が乗っけられたので、しばらく思考がフリーズしてしまった。さっきの半漁人のものなのは明白だ。

 あのね……人間の目玉じゃないだけマシだけど、こんなものが料理だなんて、いくらなんでもバカげてる――

「――あむあむ……これ、おいしーっ!」

「はふはふっ……きゃうんっ……!」

「えぇっ……」

 リサとミリルがいかにも美味しそうに頬張っていて、僕は唖然とするしかなかった。一応セーブしてから、騙されたと思って食べてみるかな? 配信する手前、絵面が汚いので吐き出すわけにもいかないし、不味くて食べられそうになかったら即座にロードすればいいわけだし。

「パクッ――ん、んはっ……!? こ、これ、はっ……」

 口に入れた瞬間、僕はそれが目玉だってのを忘れそうになった。それくらい想像と違って硬くなくて、程よい弾力で噛み応えがあったし、コリコリしてて噛めば噛むほど旨味が溢れて、ジューシーで濃厚かつさっぱりとした不思議な味わいに、頭の中まで蕩けそうになるほどだった。

『ちょっ、飯テロか!?』

『カケル君、超うまそー!』

『俺もカケルみたいに今度闇鍋頼もうかな?めっちゃ怖いけど。。。』

「うん。まあ確かに怖いけど、それ以外はお勧めできるよ!」

 なんせ今日初めて訪れるダンジョンだし、どう考えても演技でやってるわけじゃないのがわかる分、視聴者たちにも訴求力があったみたいだね。

 あの目玉を何かの料理に例えるなら、フカヒレに似た感じかなあ。後味もいいし、こりゃいい……って、今はそれどころじゃなかった。次の料理が出るってことはモンスターとの戦闘を意味するんだから気を引き締めないと。

「――フー、フー……」

「「「……」」」

 ん? 僕たちの近くから、何かの気配とともにやたらと荒い呼吸音がすると思ったら……今度はテーブルの上に、牛頭の人間が立っていた。

 ミ、ミノタウロス……!? って一瞬思ったけど、その割りに体長は2メートルもなかった。本物に比べるとやけに小さいからか。実際のミノタウロスって、この倍くらいあるらしいし、何よりA級モンスターだからE級の闇鍋で出るわけない。

「ブモオォォー! ……オッ?」

 注文者の僕に向かって牛男はハンマーを振り下ろしてきたものの、【神速】スキルを持つ僕には遅すぎるってことで余裕で避けつつ背後に回り込んでやると、今度は【殲滅】に頼らずに高速切りでバラバラにして消滅させてやった。その分倒すのはちょっと遅れたけど、多分それでも3秒もかからなかった。

『神業お疲れ様!さすがカケルさんだあ!僕なら絶対怖くて動けなくて、そのままハンマーで潰されてると思う!』

『しかも、座った状態からこれだからな・・・』

『あまりにも凄すぎて、眠くなってきちゃいましたあ。そろそろ脱落しますう』

「あはは……みんな褒めすぎ。っていうか最後のコメの人、いつもの匿名さんだね。お疲れー」

 まあここまで僕が緊張せずに動けるのは、それだけスピードに自信があるっていうのもあるけど、いつでもロードできるっていうのが大きいんだと思う。

「ぼっ、坊やっ、凄いご飯が来たぁっ!」

「きゃううっ!」

「あっ……」

 おっと、今度は僕たちのお皿に、湯気の立つハンバーグが乗っけられた。ミニタウロスを倒したから、牛肉100%かな?

 ……うん、できればそう思いたいね。っていうか、細かいことが気にならないくらい、美味しそうな肉の匂いがしてクラクラしそうだった。死霊のウェイターかウェイトレスさん乙です! ってことで、早速頂くことに。

「お、おいちぃよぉ。頬っぺた、落ちちゃうぅ……」

「クウゥーン……」

「う……うまあぁっ……!」

 ちょっ、何これ……? 食べた瞬間首を横に振ってしまうくらい、異次元の旨味が舌全体に広がってきて、自分がちょっとおかしくなったんじゃないかって思うレベルの美味しさだったし、余韻に浸りたくてコメントを見るような余裕すらなかった。

 モンスターを倒す手間が必要だとはいっても、1000円でこれはお得かもしれない。闇鍋かぁ。これから注文する人絶対多くなるだろうな。間違いなくお勧めだ。っていうか、食べてる間だけはここがダンジョンだってこと忘れちゃいそうだ……。
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