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12話 変わる景色

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 それまでの薄暗いボス部屋に光が差し込み、周りの景色が見る見る明るくなるとともに違うものへと変化していく。

 俺たちの目の前には2階層に繋がる石板があり、すぐ脇には下方へと向かう螺旋階段があった。やはり俺たちは早くも1階層をクリアしたんだ……。

 一度経験したことなのに、充実してるためか以前とはまったく違う景色のように感じた。それにしても、まだ塔の2階なのに階段の下が見えないくらい高さがあるんだなあ。

「さすがリューイ氏、たった35発で倒しちゃいましたよ!」

「35発か。案外かかったんだな」

「いやー、35発なんてあっという間でしたし、最初のボスなのに威力はめっちゃ出てましたよ。てか、もしかしてこれって最速記録じゃないですかね!?」

「ああ、多分そうだな」

 錬金術師のいいところは立て続けに劇薬を連投できることだ。これが魔法だと、反動によるディレイが生じるのでそうはいかない。

「ぼ、僕たちがあの『ボスキラー』の味方になれるなんて……」

 リーダーのシグがえらく感動した様子で、目元には涙さえ浮かんでいた。ボス部屋でもかなり興奮してたみたいだしなあ。

「リューイさん大好きっ」

「リューイさん、凄いですうぅ」

「おで、リューイさんを尊敬する……」

「あはは……」

 シグだけでなく、サラ、アシュリー、ワドルから羨望の眼差しを集められてなんとも照れる。本当に最速ならボスルームパネルにも映ってるってことだ。とはいえ、長い階段を下りてまでいちいち戻って確認するつもりはないが。

「そうだ、休憩するために異次元をホール出そう」

「「「「おおっ……!」」」」

 ちなみに、螺旋階段もそうだがこういう場所でテントを張ろうとしても妨害行為と見なされるのかできないようになっている。あの粗悪なテントも味があって今では好きなほうの部類だが、俺たちには村づくりっていう目的もあるからな。ルディたちが何をしてるのかも気になるし、2階層攻略は後回しでいいだろう。



 ◇◇◇



 そこは101階層。小雪の舞う夜の雪原に臨む洞窟から、一組のパーティーが姿を現わしたところだった。

「かー、さみいなあ、おい!」

「ふう。中々寒暖差のあるダンジョンだ……」

 盗賊カイルが苦々しい顔で白い息を吐き出し、その後ろで照明用の火魔法を出していた魔術師ウォーレンがやれやれといった表情でフードを被る。

「101階層以降はそれまでの複合マップっていうしねえ。まさか寒暖差の罠まであるとはあたしも思わなかったけどさ」

 ウォーレンの姉、補助術師のセシアが身震いしつつも一人ずつ丁寧に速度と防御力UPのバフをかけた。

「さむー。ウォーレン、温めてー」

「こらこら、アリーシャ。僕に抱き付いてないで、ダンジョン内だし集中するんだよ」

「そうですよ、アリーシャさん。目のやり場に困っちゃいます」

「えへへっ」

 回復術師アリーシャに続き、洞窟から最後にフィールドに出てきたのは錬金術師レビーナであり、これで『ボスキラー』と呼ばれるパーティー5人が勢揃いすることとなった。

「あの無能に好かれてたせいでアリーシャはずっと怖い思いをしていたんだ。少しくらい遊ばせてやろうよ」

「ウォーレン、ありがとぉ」

「よしよし……さあて、攻略を目指すか。確か、複合マップは違う地形まで行ってモンスターを掃討しないとボスが出てこない仕組みだったはずだね、姉さん?」

「うんうん、ボスルームパネル見る限りじゃそうみたいね。まあまだまだ浅い階層だし、ギミックとしてはそんなもんでしょ。てか、あの汚物のことを思い出させないで。脳が腐るから」

「あはは、姉さんはリューイのこと、特に嫌ってるからね」

「何かあったんです? あの残念な人との間に」

 レビーナが興味津々といった様子でウォーレンとセシアの会話に入り込む。

「あいつ、部屋に籠もって延々と何かに没頭する科学者みたいなタイプでしょ。あたし、そういうの大嫌いなのよね。陰気で気持ち悪くって。カイルみたいな明るい子ならいいけど」

「へへっ、どーも、セシアさん! 今度お茶でも!?」

「カイルったら、あんまり調子に乗らないの。話の続きだけれど、そのくせ結果もろくに出せない無能なら嫌いにならないほうがおかしいわよ。ね、アリーシャ」

「うん……。リューイはね、錬金術師としてレビーナさんみたいに才能もないのに出すぎちゃったと思うの。みんなに嫌われてて役に立てないのをちゃんと自覚して、自分から消えますって言えば、私だって鬼にならずに済んだのに……」

「あっはっは! てかよー、アリーシャが邪魔だって言ったときのあいつの顔、そりゃもう傑作だったぜ。死体みたいに青ざめてて」

「うふふっ、みなさんから面白いお話を聞かせていただきました。そういう、色んな意味で勘違いしてる人って痛々しいし追放されて当然だと思います。ところで、私はその人よりはマシだと思いますけど、錬金術師としてはまだまだですよ……っと、早速私の作った誘魔剤が効いて、モンスターさんが来たみたいです」

 謙遜してみせるレビーナの右の口角が、よく見ていないとわからない程度に吊り上がった。
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