51 / 60
第五一話 手掛かり
しおりを挟む「――かっ……!」
『コオオォォォッ……』
「……」
だ、ダメだ……。やつは何度バラバラになってもすぐに蘇ってきた。心鎚がまったくコアに通用していない。
それどころか、やつはまるで俺から生気を奪うかのように、戦うたびに復活するスピードだけでなく、スピードもパワーも徐々に高まってきているのだ。
このままではこっちの体力が持たない。神精錬によって体力の数値を上げてはいるが、数値には反映されないレベルの目に見えない疲れがどんどん溜まっていくから、神精錬を続けていてもいずれは折れる可能性が出てくる。そうなると逆に体力を激しく浪費することになってしまう。
『+256』だったか……。ここに来てなるほどと納得させられる異次元な難易度の高さだ。でも、ここで諦めるわけにはいかない。今度こそ、さらに完璧な心鎚を見せてやる……。
「――かああぁぁっ!」
『コオオオオォォォ……』
「うっ!?」
俺はコアとすれ違いざま、心鎚を発動させたあとバランスを崩しかけた。信じられない。今のはタイミングにしても力の抜け具合にしても、今の俺がやれる中で最高の一撃だったはず。
なのに、やつはバラバラにされた直後に蘇り、ロングメイスで俺の脇腹を狙う余裕まであった。
ぎりぎり避けることはできたが、もうダメだ。次はかわしきれない。俺は負けてしまうのか。こんなところで……。
『ハワードよ、お前は私の側で一体何を見てきたというのだ……?』
じ、じっちゃん……? 確かに聞こえてくる。激しい怒りを孕んでいるのにとても静かで、それでいて心に響く祖父の声が……。
『そもそも神精錬が何から生まれたと思っておる。ヒントはそこまでだ。これでわからぬならそれまでの器ということ』
「……」
じっちゃんの声はもう聞こえなくなった。神精錬が何から生まれた……? 努力? 根性? いや、それは当たり前だ。この神精錬や心鎚を生み出すために、俺は死に物狂いで頑張ってきた。なのに、それが通用しないっていうならこれ以上やりようがないだろう。一体どうすればいいっていうんだ……。
っていうかヒントが曖昧すぎるんだよ。じっちゃんらしいっちゃらしいんだがなあ、いくらなんでもこれじゃスパルタすぎる――
『――コオオオオオオオォォォッ!』
「ぐあっ……!?」
とうとう俺はすれ違いざま、コアによる一撃を食らってしまった。まるで魂まで衝撃を受けたみたいで、痛みがあるだけじゃなく何もかもどうでもよくなってくる。本当にこのまま終わってしまうというのか、俺は……。
◆ ◆ ◆
「やばいっ、やばいってもう! 逃げたほうがいいんじゃ? クソ無能のハワードなんかじゃコアに勝てないっぽいし!」
「ほんとだよぉっ! 役立たずのクソハワード、死んじゃえっ! ぷんぷんっ。しかもあのコアどんどん強くなってるみたいだしぃ、マジやばぁ!」
ランデルとエルレが慌てた様子で騒ぎ立てるも、腕組みしたままのルシェラと弓を構えたグレックの表情は一切変わらなかった。
「ランデル、エルレ……逃げたほうがいいって言うけど、どこに逃げるわけ? コアを倒さない限りここから一生出られないのに」
「「あっ……」」
ルシェラの冷たい調子の台詞で見る見る青ざめていくランデルとエルレ。
「てか、ハワードのやつ本当に大丈夫なのか? 昔と比べりゃ、相当に腕が落ちたもんだぜ……」
「グレックはそう思う? 私はそうは思わないわ。何故ならハワードの顔、死んでないもの。あいつが追放されたときみたいに青白い顔になって頬が引き攣ってたらまずいけど……多分、いけると思うわ」
「あ、ルシェラァ……あの無能の癖、よく知ってるじゃん? あーあ、僕嫉妬しちゃうなあっ」
ランデルがいじけた表情でルシェラの首に後ろから腕を回す。
「ふふっ……バカな嫉妬はやめて頂戴。幼馴染だから仕方なく癖を知ってるってだけで、私が愛してるのはランデル、あなただけよ……」
「僕もだよ、ルシェラッ」
「やああぁん、あたし妬けちゃうっ。ランデルお兄様とルシェラお兄様……将来の王様とお妃様のラブラブ具合にっ」
エルレがうっとりとした表情でランデルとルシェラが抱き合う様子を見上げる。
「へっ……随分お熱いことだが、あんまり熱中してたら、最高の場面を見逃しちまうかもしれないぜ……?」
グレックが愉し気な笑みを浮かべるも、その眼光は鋭さを増すばかりだった……。
0
お気に入りに追加
657
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった
名無し
ファンタジー
主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。
彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。
片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。
リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。
実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。
リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
支援者ギルドを辞めた支援術士の男、少年の頃に戻って人生をやり直す
名無し
ファンタジー
30年もの間、クロムは支援者ギルドでひたすら真面目に働いてきた。
彼は天才的な支援術士だったが、気弱で大のお人よしだったため、ギルドで立場を作ることができずに居場所がなくなり、世渡りが上手かった狡賢いライバルのギルドマスターから辞職を促されることになる。
ギルドを介さなければ治療行為は一切できない決まりのため、唯一の生き甲斐である支援の仕事ができなくなり、途方に暮れるクロム。
人生をやり直したいが、もう中年になった今の自分には難しい。いっそ自殺しようと湖に入水した彼の元に、謎の魚が現れて願いを叶えてくれることに。
少年だった頃に戻ったクロムは、今度こそ自分の殻を破って救えなかった人々の命を救い、支援者としての居場所を確保して人生を素晴らしいものにしようと決意するのだった。
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する
名無し
ファンタジー
16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。
だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。
そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。
あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します
名無し
ファンタジー
レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。
彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。
救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる