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第四九話 心当たり
しおりを挟む「シュラークさんったら、さては自分がコアだと言って私たちを驚かせるおつもりですねえ……? そんな物騒な嘘をついたらいけませんよお?」
「ゴホッ、ゴホッ……しかしながら、私には心当たりがありすぎるのです、ユミル様……」
「ふふっ。こんなにもコアに似つかわしくない方なんて、私は断じて認めませんよっ……?」
「……」
朗らかな表情を崩さない教皇ユミルだったが、もう枢機卿シュラークがコアに変化するのは時間の問題だろう。彼の目は異様なほどにギラギラと輝いていた。
ただ、コアになる前に彼を攻撃して倒すようなことは避けなければならない。何故なら、その分人体へのダメージが大きくなる上、どっちにしろコアが出現してしまうからだ。
一番いいのはコアになった直後のタイミングで倒すことで、人体へのダメージを抑えられるだけでなく、倒したあと命を落とすことはあっても死ぬまでの猶予ができ、人間のまま大切な人と最後の言葉を交わすことくらいはできる。
「ゴホッ、ゴホオォッ……私は、この子の……親なのです……」
『ウウゥ……』
シュラークが苦し気に蜘蛛の少女を見つめながら語り始めた。親だって……? そういえばどことなく面影があるような……。
「……できる限り、お話させていただきます。かつて……この牢獄は、信徒に対する罰の意味合いで作ったものでしたが、効果はあまりにも薄く……グフッ、し、失敬……」
「……」
枢機卿がコアに浸食され始めてるのが目に見えてわかる。もう彼に残された時間はほんの僅かなのは明らかだ。そんないつ気が狂ってもおかしくないような状態で、彼がこうして話せるだけでなく相手に敬意も払えるというのは、並々ならぬ精神力があるからこそできることなんだろう。
「……私は、錬金術師の信徒に頼み、信徒を脅すためのホムンクルス……すなわち疑似モンスターを作ってもらうのですが……どれも短命で、その上脆く、調子に乗る信徒たちは増える一方でした。ゴホッ、ゴホッ……そ、それが原因で……真面目な信徒たちが次々と、神殿を見限り、去っていったのです……」
「なるほど……」
組織全体が腐り始めていたわけか。これは神殿にとっても大問題なはずだ。
「……はぁ、はぁ……わ、私は、藁にも縋る思いで。ほ……ほかに方法がないかと訊ねたところ……生きた人間と合体させれば、可能かもしれないと言われたのです……」
「ま、まさか……」
「……その、まさかです……。もう先は長くないと言われていた、私の病弱な一人娘を……ホムンクルスと、が、合体させました……。でも、正直私は怖かった……。娘とはいえ、化け物のような見た目になってしまった、この子が……。だから……ずっと、自分の中に暗い感情が……後ろめたさがあったのだと思います……」
「……」
『オ、オオォ……』
気にしないでほしいとでも言いたげに首を横に振る少女の姿がなんとも切なかった。
「私には、この子の……父親だという資格もなければ、な、名前を呼ぶ資格さえも――うぐぐっ……? ぐっ……ぐがああああぁぁぁっ!」
「シュラークさん――?」
「――教皇様、危険ですからこちらへ!」
「えぇ? 私だけではなく、シュラークさんも連れていきますよお」
「――かっ……!」
「あうっ……?」
俺は心鎚で気絶させた教皇ユミルを抱え、枢機卿シュラーク……いや、最早コアになりつつある存在から遠ざける。
「うぐあああぁぁぁぁぁぁっ!」
両手で頭を抱えて叫ぶシュラーク。
『オオォッ……』
蜘蛛の少女がしきりにシュラークの元へ行こうとしている。まずい。
「そっちへ行ってはダメだっ! さあ、こっちに来るんだ。俺は彼を殺すのではなく助けようとしている。頼む、信じてくれ……!」
『……』
俺の必死の訴えが通じたのか、彼女は踏みとどまってくれた。
「コアは俺がやる。ハスナとシルルとシェリーは後方で異変がないか見張っててほしい。勇者パーティーが来る可能性は高いからな」
勇者パーティーはそこそこ手強いが、やつらがハスナたちに襲い掛かったときのための準備はしているので問題ない。
「うがっ、わかったです!」
「あたしに任せてなのー! ひぐっ」
「それがしは……命に代えても、ここを守り抜く所存でありますっ!」
頼もしい声が後ろから次々と上がってくる。たったそれだけでも俺は充分にコアと立ち向かえるし、枢機卿のシュラークだって救えるような気がしていた……。
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