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第二五話 黒い宝石
しおりを挟む「むふふっ。ファリアちゃん、今日は鑑定士の君の代わりに、僕が特別に鑑定してあげるっ。お乳でっかいねえ」
「やぁだあ。勇者様ったらあ……わざわざ鑑定しなくても、そんなの見ればわかるよぉ、もぉっ」
「こんないけないおっぱいには、これが似合うかも……?」
「あんっ。それ凄いっ、大好きぃ」
冒険者ギルドの一角にて、勇者ランデルが新メンバーである鑑定士ファリアの豊かな胸の谷間に挟み込んだのは、燦然と輝く宝石の首飾りだった。それをランデルが得意そうな顔で徐々に引き抜いていくと、ファリアが頬を紅潮させて縋りつく。
「あぁん、ランデル様ったらファリアの大事なもの奪ったっ。ひどーい、返してぇ」
「へへっ、じゃあ僕の愛人になる? なるなら返してあげても――」
「――ランデル、なんなら私が愛人になってあげようか……?」
「「……あ、あ……」」
ランデルとファリアの後ろに立っていたのは、怪しげな微笑を浮かべた魔術師ルシェラだった。
「ご、ご、ごめん、ルシェラ! これにはわけがっ……!」
「ふふっ、大丈夫よ、今日は機嫌が凄くいいから特別に許してあげる」
「えっ……?」
ひざまずきつつ、わけがわからなそうに目をしばたたかせるランデル。
「ランデルに良い知らせを持ってきてあげたわ。ってわけだからファリア、とっとと空気読んで席を外してくれないかしら……?」
「あ、は、はひっ!」
ルシェラに冷たい視線をぶつけられ、逃げるようにその場を離れるファリア。
「――ルシェラ、良い知らせって、ま、まさか妊娠とかじゃないよね? 僕、まだもうちょっと遊びたいかなあって……」
「残念ながら違うわよ。早くランデルの赤ちゃんを宿して火遊びを諦めさせたいところだけどっ」
「じゃ、じゃあ一体……」
「ちょっと耳貸して」
「え、二人きりなのに?」
「いいから。それくらい用心するべきなのよ」
「わ、わかったよ……」
困惑した様子のランデルだったが、ルシェラに耳打ちされてまもなく、その目にギラギラとした光が宿る。
「――ね、いい話でしょ?」
「う、うん。僕のこと毛嫌いしてた王様が倒れて、これでリヒル様の花婿になれるかもしれないんだね。あの子、絶対処女だからやったー!」
「ちょっと、声が大きいわよもう!」
「ご、ごめーん! でも、嬉しくてついっ」
「ホント、男ってバカだからああいうタイプに騙されるのね。処女っていうけど、澄ました顔して裏じゃやることやってんじゃないの?」
「それはルシェラのこと……ご、ごめん」
「ふーんだ、どうせ私なんて元から腹黒女よ」
「で、でもそういう黒さがルシェラの可愛いところ!」
「バカッ。同類のくせに……。ま、相手がなんであれ、利用するだけ利用して捨てちゃえばいいのよ」
「いいね、それ! 女王様ヤリ捨てとか、マジ勇者!」
「ふふっ、それでこそ私の愛するランデルよ。この国もいよいよ牛耳れそうなのね。それも庶民出身の私の手によって。感慨深いわ……」
「お、おいおい、嬉しいのはわかるけどさ、少しは慎重になってよ、ルシェラ。相手にするのは貴族だけじゃなくて王族だよ? あの糞無能の惨めなハワードなんかよりよっぽど厄介だよ……」
「そんなの言われなくてもわかってるわ。何が貴族よ、王族よ。庶民出の私が全部根こそぎ覆してやるわ……」
「こ、怖いよ、ルシェラ……」
「うふふ……私たちをさらなる高みに導いてくれるのが、人類の最大の敵ともいわれる迷宮術士なんだから皮肉なものよね。彼が作ったダンジョンをどんどんランデルが打破すれば、偽りのフィアンセになれる可能性がさらに濃くなる……」
「それはいいけど……できるだけ難易度は低いものでお願いっ」
「はいはい。で、あなたがこの国の実権を握るの。もちろん私はその妃で、影の支配者としてアドバイスする立場ね。そこまでいくとリヒルが邪魔になるけど見るからに病弱だし、ほっといてもすぐ死んでくれるでしょ」
「その前にー、僕がリヒルちゃんの処女奪っちゃうもんねー!」
「バカッ。万が一処女だったとしたら破瓜の瞬間に死ぬんじゃないの、あの虚弱」
「あははっ! じゃあルシェラ、とりあえず前祝いしよっか?」
「そうねっ」
「「――乾杯っ!」」
ランデルとルシェラの弾んだ声が止む気配は当分なかった……。
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