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第一話 王都凱旋

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「お、勇者パーティーのハワードだ!」

「ハワード=オルグレンだー!」

「生のハワードすげー!」

「キャーッ! ハワードさんこっち向いて-!」

神鍛冶師ゴッドブラックスミス!」

「「「「「ワーッ!」」」」」

「……」

 また一つ、迷宮術士が作ったダンジョンを攻略し、閉じ込められていた人々を解放して王都へ凱旋してきた俺たちの馬車に、集まった民衆たちから拍手喝采が飛んだわけだが、個人的にはあまり好ましいものじゃなかった。

 自分自身、昔から目立つのがそんなに好きじゃなかったし、勇者パーティーなんだから俺だけ注目されると居心地が悪くなるっていうのもある。

「ハワードったら、手くらい振ってやればいいのに」

「わ、わかったよ、ルシェラ」

 幼馴染で恋人でもある世界最高の魔術師ルシェラに促され、俺はぎこちない笑顔とともに手を振った。そのたびに歓声が上がったので悪くないと思える。たまにはこういうのもいいのかな。

「はあ。いいなあ、ハワードは……」

 目立ちたがりのはずの勇者ランデルが小さくなってる。

 それもそのはずか。彼も俺の幼馴染なんだが、昔から臆病者と罵られていて人気がなかった。

 なので、強くイメージすることで作り出した透明な板――心敷――にランデルの勇気を乗せ、俺が神精錬によって『-10』から『0』にしてやり、やっとそこから自力で頑張ってもらって勇者として相応しくなったんだ。

 それでも、印象っていうものはどんなに変わろうが人気面で俺を追い越すほどじゃなかったってことで落ち込んでたってわけだ。

 ちなみに、基準としては最高が『10』、最低が『10』ということでそれ以上は精錬強化、または折って弱体化することができない。

「ふわあ……さすがはハワード兄貴だぜ。みんなも兄貴に神精錬してほしいんだよ、何かを」

 欠伸しながらぶっきらぼうに言ったのは、俺の弟分で弓術士のグレックだ。

 この男は人類最高の怪力と呼ばれるほど腕っぷしが強くて精錬値でいうと『+7』だが、命中率がお察しってことで俺が器用さを叩いて『-5』から『0』にしてやった。そこからは自力で成長し、今や世界でナンバーワンの弓使いだ。

「ハワードお兄様がいれば、なーんでも夢が叶っちゃうもんねー!」

「お、おいおい……」

 妹分のエルレが俺の背中に抱き付いてきた。

 この子は治癒師として至高の存在と目されるほどの才能の持ち主で、顔もスタイルもよくほぼ完璧な子だったが、一つだけ弱点があって唯我独尊と言えるほど自分勝手な少女だった。なので性格に対して神精錬してやろうかとも思ったが、数値は『0』だしこれが彼女本来の気質ということで放置している。

 おかげで、この子が大好きな料理やお菓子の味をいちいち神精錬させられるので少々困ってるが、それでも劣化したものを叩いて『0』――すなわち普通の状態に戻すだけだ。必要以上に精錬しないというのは俺のルールでもあった。

 そもそも相手に何かを施してやるっていう考え方が傲慢に見えてあまり好きじゃなくて、相手が自分の才能を発揮するきっかけになるようなことをしたかったんだ。

 それに、ありとあらゆるものを精錬できるといわれる神精錬とはいえ、この世に関するものならいいが、あの世だの迷宮術士のダンジョンだのは次元が違うので、そういうものに関することや影響を及ぼすような精錬はできない。

「エルレ……私のハワードに手を出したらどうなるか、わかってるわよねぇ……?」

「は……はひっ、ルシェラお姉様……」

 相変わらずルシェラの氷の微笑は怖い。得意の魔術も氷系というおまけつきだ。

 彼女に関しては、正直叩くものがまったくないと思えるくらい欠点らしいものがなくて、俺の恋人兼相方として本当に誇りに思えた。唯一弱点があるとしたら、これは彼女が気にしてることだが庶民の出身なことくらいか。

 俺は父親の早世によって没落したとはいえ一応貴族の子なわけだが、それでも羨ましいと昔からルシェラによく言われたもんだ。俺の恋人になってほしいと言ったとき、彼女は私なんかでいいのって返してくれたけど、俺は逆に自分なんかでいいのかと口走ったほどルシェラのことを愛していた。

 まだプロポーズはしてないが、今日はゆっくり休んで明日にでも一生お前を幸せにすると告白するつもりだ。

「「「「「ワーッ! ハワード万歳っ!」」」」」

「はあ……」

「……」

 民衆の歓声もそうだが、勇者の溜息も途切れることがない。

「ランデル……気持ちが沈んでるなら俺が精錬してやろうか?」

「いや、いいよ……。どーせハワードは『0』までにしかしてくんないもん。それに、今はたっぷり落ち込んでたい気分なのさー……はあぁ、ルシェラみたいな可愛い彼女がいるハワードが羨ましい……」

「そ、そうか……」

 俺のことが羨ましいと言われてそこまで悪い気分じゃないが、他人は他人、自分は自分なのだから俺なんかに嫉妬するくらいなら自分の幸せを見つけるべきだろうとは思う。

 大体、俺だってそんなに立派な人間じゃない。鍛冶の腕には自信があっても、心の中はいつだって不安なんだ。この幸せが、どれだけ長く続くんだろうって。親父が亡くなったときは本当に突然で、悲しむ暇もなく貧乏暮らしになって追い詰められたからな……。

 お、馬車が止まった。さて、これからいよいよ女王様との謁見だ。
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