上 下
36 / 130

36.光が射さない場所

しおりを挟む

「――セクト、起きて」

「……う……」

 誰かに肩を揺さぶられて起きると、バニルがいた。それに、スピカ、ルシア、ミルウもいる。

「セクトさん、帰りますよお」

「ほらセクト、とっとと帰るわよ!」

「セクトお兄ちゃん、帰ろー!」

「……な、なんで……」

 わけがわからなかった。

 俺は昨日、同じパーティーに所属している仲間を三人も惨殺したんだぞ。あれだけのことをしたのに、どこに帰るっていうんだ……?

「俺が帰る場所なんてどこにもない。もう放っておいてくれ。金はいずれ返すつもりだ」

 酒を飲もうとしたが、空だった。畜生……。

「酒を――」

「――もうやめて」

 バニルに瓶を取り上げられてしまった。

「な、何するんだよ、バニル。俺にはもう酒しかないっていうのに、それすら奪うのか……?」

「セクト、落ち着いて。ね? 一緒に私たちの宿舎に帰ろう?」

「はあ? 俺は狂戦士症になって仲間を三人もぶっ殺したんだ。教会兵に突き出されてもおかしくないことをしたんだぞ……」

「セクト……あんたは誰も殺してなんかいないわよ!」

「……え?」

 ルシアが妙なことを言い出した。

「あたしは見たのよ。どこかにセクトがいるかもしれないって思って、それで捜してたら見つけたんだけど、ちょうどセクトがあいつらに殴られてペンダントが飛ぶところで……」

「……ど、どういうことだ?」

「セクトが殺したのはアデロの作った幻覚よ! あいつらは速攻で逃げ出してたもの!」

「……そう、だったのか……」

 俺は仲間を殺してはいなかったんだな。そういえば、左手にこびりついてるはずの血が完全になくなっている。いくらか服にも飛び散ってるはずだが、それもなかった。

「さ、セクトさん。わたくしと一緒に帰りますよー」

「ダメッ。セクトお兄ちゃんはスピカじゃなくてミルウと一緒に帰るんだもん」

「まあ。くすくすっ……」

「むー! 大人の余裕、ヤダ!」

「ミルウ、あんたが子供すぎるだけでしょ?」

「あふっ」

「ほら、ルシア。ミルウが泣いちゃうでしょ。そんなこと言わないの」

「……」

 俺はみんなのやり取りを呆然と眺めていた。誰もがまぶしいほど輝いて見える。

 ……確かに俺は誰も殺さなかったのかもしれない。それでも、一歩間違えれば皆殺しにしていた。幻覚とはいえ、狂戦士症がどれほど恐ろしいものなのかもはっきりとわかった。これ以上みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。俺みたいな危険分子と関わるべきじゃないんだ。そうだ……ここではっきりと俺を見限らせてやろう。

「さっきから黙って聞いてりゃ……ごちゃごちゃうるせえんだよ!」

 俺はバニルたちを睨みつけた。

「セクト……?」

「いいことを教えてやる……。俺はカルバネの言う通り、ワドルたちを襲おうとしてたんだ。なのにアデロたちが逃げないように俺を見張るとか言い出したから、先に始末しようとしただけだ。あーあ、殺せなかったなら本当にがっかりだな」

「そ、そんなの嘘よ! 何言って――」

「――嘘じゃねえっ!」

 俺はテーブルを強く蹴り上げてひっくり返してやった。周囲からどよめきと悲鳴が上がる。

「お前らの本音はわかってんだよ! 腹ん中じゃ笑ってんだろ! 俺のことを見下してんだろうが!」

「お願い。もう、やめて……」

「やめてよ……」

「セクトさん……」

「嫌だよう……」

 バニルたちの涙が俺の心を掻き乱していく。それでいいんだ。みんなゴミクズの俺のことなんか早く忘れてくれ……。

「お前らは俺をオモチャにしたいだけなんだろうが! できそうにないってわかったならとっとと消えろよ!」

「うるせえなあ」

 とても低いが、よく響く声がした。

「誰だ……?」

 マント姿につばの広い帽子を深く被った男が欠伸する。この男が文句を言ってきたのか。それまで、近くのテーブルで静かに飲んでいた男だった。

「ん、俺か? 俺はな、酒と巨乳と惰眠をこよなく愛するベリテスっていうんだ」

「……」

 ベリテスって……俺たちのリーダーか……。

「これじゃおちおち酒も飲めねえし、妄想にも浸れねえ。イラッときたから俺もちょっと暴れさせてもらうぜ。さあ、表に出やがれ」
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...