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ある夏のライダー
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久しぶりにアイツに出会ったのは初夏を出迎えた日曜日だった。世間では「葉桜が現れる美しい景色です」なんか言っちゃってるけど嫌なこと続きの僕はため息の出るようなニュースであった。心が荒んでる時はどうにも暗いニュースを求めるらしい。
僕は自分の部屋の小型テレビから流れるニュースをラジオ感覚で流しながらスマホを弄る。まだ友達ができていない僕のLINEなんか寂しい物だった。僕は自分の性格を心の底から呪いながらベッドに寝っ転がる。部屋の窓は全開にしてるので風が入ってきて涼しい。現在は7月中旬の日曜日。クラスの友達はみんなカラオケに行ったりしてるけど僕は大人数で出かけることがあんまり好きじゃあないのでずっと一人だった。
誰かと共通の話題があればいいんだけどそんな物、僕は持ってないから誰かと話すのが怖いんだ。対面して何か口を開こうとしても相手の視線が怖くて僕はやっぱりいいや……と離れてしまう。これは非常に不味かった。新学期を迎えた高校2年の僕には友達がいないなんて悪夢である。
休日が来ても用事がない僕はふとあることを思い出した。そういえば、今日は祭りの日だ……って。この辺りでは夏祭りをよく行う。小学校の頃は人なんて怖くなかったから色んな人と手なんか繋いでお祭り行ってたなぁって思い出した。物心つく前の小学生が一番羨ましいなんて思っていると僕のスマホが音を立てる。
なんだよ……と起き上がってスマホを開くと実に数年ぶりに連絡をくれたある人物からのLINEだった。本当に久しぶりで僕は驚き、危うくスマホを落としそうになったがなんとか体勢を整える。一体、こいつからなんの用なんだ……? と思っていると内容は「今から会えない?」だった。どうして今なんだよ……と僕は断ろうとしたがどうも退屈すぎた僕がいたのか、「あの公園で集合な」と連絡して支度を始めた。
半袖シャツに半ズボンの無難コーデを決めた僕はショルダーバックを背負って家を飛び出した。玄関のドアを開けた瞬間、ムワッとした熱気が僕に襲い掛かる。これだから夏は……と舌打ちする僕は連絡をくれたアイツのことを思い出していた。数少ない、僕の友達だったんだ、アイツは。アイツは明るい性格でみんなからも人気者で僕なんかとは正反対で。アイツは僕をみんなの輪の中に入れようと必死で頑張ってくれたのに僕は真反対のアイツといることが不釣り合いで迷惑な気がしたから……アイツと勝手に絶交したんだ。
勿論、アイツは全く反応しない僕に嫌気がさして「アンタを変えようとした私がバカだった」とわざわざ僕の机の真正面にやってきて言ってくるもんだから、絶交していたとしてもその言葉は僕の心に重く響いた。どうせ、陰キャラの僕が陽キャラのアイツとは釣り合えない。そう思っていると待ち合わせ場所へとたどり着く。
待ち合わせは小学生の頃、僕とアイツで遊んでいた小さな公園だった。滑り台とベンチがあるだけの住宅街の隙間に作られた小さな公園。こんな寂れた公園でも僕はアイツと楽しく遊んでいたんだ。アイツと僕は中学を卒業して高校は別々に。僕は普通の進学校に通ってアイツは少し偏差値が悪い高校に行ったっけな。
そんなことを思い出していると不意にブルルといった音が背後から聞こえる。アイツがきたと思えばこんな音だ。僕は恐る恐る振り向いた。
「……久しぶり」
アイツがいた。バイクに跨ってエンジンを鳴らしているアイツだった。髪は相変わらずのサラサラしたロングヘアー、体格は女子の平均身長ほどで服装は半袖シャツにショートパンツという下半身が気になるコーデ。アイツは僕の中でたった一人の幼馴染の女の子なのだ。
「久しぶりだね」
「何してたの?」
「何もしてないよ。君から連絡きたからやってきただけ」
「そ……」
「そのバイクどうしたの?」
「……親戚の使ってるの。バイクありだから」
通りで普通のスクーターみたいなバイクじゃあなくてアニメで見るような足をガチャガチャと動かしてアクセルを変えるバイクだったのか。エンジン音はうるさいし、少し古めの黒バイクだった。
「どこでバイクの乗り方覚えたの?」
「そんなことはいいでしょ。乗って」
アイツは僕にあるものを投げる。僕は慌てながらそれを受け取った。黒色のヘルメット、かなり本格的なヘルメットである。僕は一応被ってはみたが少しカポカポしてるようでうまくハマらない。そんな様子を見たアイツは「あ~……」と言いながらバイクから降りて僕に近づいた。
「ほら、顎上げて」
「……ごめん」
アイツはヘルメットの紐の長さを調節してくれた。少し気恥ずかしい感情を隠しながら僕は自然とアイツの後ろに跨る。バイクなんて乗るの初めてだった。それに構図的に同い年克幼馴染の女の子のバイクに乗ってる僕というのがおかしすぎてなんか恥ずかしい。
「つかまってて。恥ずかしくないでしょ? 幼馴染なんだし」
「まぁ……」
「じゃあ早く腰に手をまわして」
アイツは僕の心境なんか知ろうともしないでこういうシチュエーションを求めてくる。僕はため息を漏らしながらアイツの腰に手を回した。エンジンがかかってバイクは動き出す。大通りに出ると思ったら少し小道のような人通りの少ない坂道を駆け上がって行った。
オイル臭いエンジンの香りや小刻みに震える足の感覚など僕にとっては未体験の感覚である。それに……風のせいでアイツの髪が俺の顔にめちゃくちゃかかるもんだからたまに吸い込みそうになって呼吸が難しかった。風によって流れるアイツの髪の香りはとてもいい匂いである。
「最近はどうなの? 学校とか」
「変わってないよ。高校に入っても」
「そ……、平常運転なのね」
彼女はアクセルをガチャンと変える。
「それよりもさ、どうして僕を誘ったんだよ」
「さぁ……気まぐれかしら? あなたなら暇かと思って」
理由がないのかよ……、ていうかコイツキャラ変わってないか……? 中学校の頃は明るくてクラスの人気者だったのに今では少し冷めた表情をした暗いキャラだ。まるで今の僕みたいに。
「どこに行くの?」
「さぁね。いい感じのところついたらおろす」
どうした? 困惑していたからか、幾分か彼女の腰に回す手の力が強くなってたみたいだ。アイツは「ちょっと……」と声に出した。
「なんか強くなってない? 痛い」
「あ……ごめん。バイク慣れなくて……」
「本当に変わってないのね。あ、このあたりでいいや」
坂道を登り終わって、僕らはあるベンチが置いてある頂上へと到着した。フェンス越しに見える僕らの街はまるでミニチュアのようで僕はしばらくの間それに見入った。アイツは空気を読んで少し待ってからベンチに座る。そして勝手に話し始めた。
「私さ……高校にうまく馴染めなくて。アンタと一緒だった。共有できる話題もないし、何よりなんか怖くてね」
僕は街から視線をアイツへと変える。そしてごく自然と彼女の隣に座った。アイツは冷め切った顔をフッと口角を上げて微笑みを作る。その表情は僕が中学の頃に見てたアイツそのものだった。
「一人、孤立してしまってる時に私はアンタのことを思い出した。真正面から酷いことを言ってしまったって……。ずっと後悔してたから今日呼んだの。幼馴染にバイク乗ってもらいたかったし」
幼馴染……、そう……僕らはこんなのだけど幼馴染なんだよ……。一緒に笑って一緒に育った。あの小さな公園から始まった出会いで中学生まで楽しく過ごせてたんだ。なのに……物心が僕たちの関係を壊していく。けど……僕はアイツの友達になりたかった。アイツみたいにみんなの前で笑っていられるような人になりたかったんだ。
「そっか、大変だよね。人間関係とか……でも、僕は君と幼馴染なんだ……だから……中学の時はごめんね。勝手に距離置いちゃって」
アイツは急にやってきた僕の謝罪に一瞬キョトンとしながらもフッと笑う。
「本当に、アンタは変わってないね。久しぶりだからかわかんないけどお喋りはやっぱり楽しいわ」
口角を上げて真正面から笑うアイツを見て僕は「可愛い……」と心の中で呟く。そして今日は夏祭りがあることを思い出した。夏祭り……アイツ、好きだったよな……。一緒にたこ焼き食べたんだ。アイツが食べさせてくれたっけ、今度は僕から食べさせてあげたい。そう思って僕はゆっくりと口を開く。
「あ、あのさ……」
僕が彼女を異性と意識するまで、あと5秒前
僕が彼女のことを友達と思うまで、あと4秒前
僕が彼女に祭りへ誘うまで、あと3秒前
僕が彼女の反応をもらうまで、あと2秒前
僕が彼女の反応をもらって喜ぶまで、あと1秒前
僕が彼女に恋するまで、あと……
僕は自分の部屋の小型テレビから流れるニュースをラジオ感覚で流しながらスマホを弄る。まだ友達ができていない僕のLINEなんか寂しい物だった。僕は自分の性格を心の底から呪いながらベッドに寝っ転がる。部屋の窓は全開にしてるので風が入ってきて涼しい。現在は7月中旬の日曜日。クラスの友達はみんなカラオケに行ったりしてるけど僕は大人数で出かけることがあんまり好きじゃあないのでずっと一人だった。
誰かと共通の話題があればいいんだけどそんな物、僕は持ってないから誰かと話すのが怖いんだ。対面して何か口を開こうとしても相手の視線が怖くて僕はやっぱりいいや……と離れてしまう。これは非常に不味かった。新学期を迎えた高校2年の僕には友達がいないなんて悪夢である。
休日が来ても用事がない僕はふとあることを思い出した。そういえば、今日は祭りの日だ……って。この辺りでは夏祭りをよく行う。小学校の頃は人なんて怖くなかったから色んな人と手なんか繋いでお祭り行ってたなぁって思い出した。物心つく前の小学生が一番羨ましいなんて思っていると僕のスマホが音を立てる。
なんだよ……と起き上がってスマホを開くと実に数年ぶりに連絡をくれたある人物からのLINEだった。本当に久しぶりで僕は驚き、危うくスマホを落としそうになったがなんとか体勢を整える。一体、こいつからなんの用なんだ……? と思っていると内容は「今から会えない?」だった。どうして今なんだよ……と僕は断ろうとしたがどうも退屈すぎた僕がいたのか、「あの公園で集合な」と連絡して支度を始めた。
半袖シャツに半ズボンの無難コーデを決めた僕はショルダーバックを背負って家を飛び出した。玄関のドアを開けた瞬間、ムワッとした熱気が僕に襲い掛かる。これだから夏は……と舌打ちする僕は連絡をくれたアイツのことを思い出していた。数少ない、僕の友達だったんだ、アイツは。アイツは明るい性格でみんなからも人気者で僕なんかとは正反対で。アイツは僕をみんなの輪の中に入れようと必死で頑張ってくれたのに僕は真反対のアイツといることが不釣り合いで迷惑な気がしたから……アイツと勝手に絶交したんだ。
勿論、アイツは全く反応しない僕に嫌気がさして「アンタを変えようとした私がバカだった」とわざわざ僕の机の真正面にやってきて言ってくるもんだから、絶交していたとしてもその言葉は僕の心に重く響いた。どうせ、陰キャラの僕が陽キャラのアイツとは釣り合えない。そう思っていると待ち合わせ場所へとたどり着く。
待ち合わせは小学生の頃、僕とアイツで遊んでいた小さな公園だった。滑り台とベンチがあるだけの住宅街の隙間に作られた小さな公園。こんな寂れた公園でも僕はアイツと楽しく遊んでいたんだ。アイツと僕は中学を卒業して高校は別々に。僕は普通の進学校に通ってアイツは少し偏差値が悪い高校に行ったっけな。
そんなことを思い出していると不意にブルルといった音が背後から聞こえる。アイツがきたと思えばこんな音だ。僕は恐る恐る振り向いた。
「……久しぶり」
アイツがいた。バイクに跨ってエンジンを鳴らしているアイツだった。髪は相変わらずのサラサラしたロングヘアー、体格は女子の平均身長ほどで服装は半袖シャツにショートパンツという下半身が気になるコーデ。アイツは僕の中でたった一人の幼馴染の女の子なのだ。
「久しぶりだね」
「何してたの?」
「何もしてないよ。君から連絡きたからやってきただけ」
「そ……」
「そのバイクどうしたの?」
「……親戚の使ってるの。バイクありだから」
通りで普通のスクーターみたいなバイクじゃあなくてアニメで見るような足をガチャガチャと動かしてアクセルを変えるバイクだったのか。エンジン音はうるさいし、少し古めの黒バイクだった。
「どこでバイクの乗り方覚えたの?」
「そんなことはいいでしょ。乗って」
アイツは僕にあるものを投げる。僕は慌てながらそれを受け取った。黒色のヘルメット、かなり本格的なヘルメットである。僕は一応被ってはみたが少しカポカポしてるようでうまくハマらない。そんな様子を見たアイツは「あ~……」と言いながらバイクから降りて僕に近づいた。
「ほら、顎上げて」
「……ごめん」
アイツはヘルメットの紐の長さを調節してくれた。少し気恥ずかしい感情を隠しながら僕は自然とアイツの後ろに跨る。バイクなんて乗るの初めてだった。それに構図的に同い年克幼馴染の女の子のバイクに乗ってる僕というのがおかしすぎてなんか恥ずかしい。
「つかまってて。恥ずかしくないでしょ? 幼馴染なんだし」
「まぁ……」
「じゃあ早く腰に手をまわして」
アイツは僕の心境なんか知ろうともしないでこういうシチュエーションを求めてくる。僕はため息を漏らしながらアイツの腰に手を回した。エンジンがかかってバイクは動き出す。大通りに出ると思ったら少し小道のような人通りの少ない坂道を駆け上がって行った。
オイル臭いエンジンの香りや小刻みに震える足の感覚など僕にとっては未体験の感覚である。それに……風のせいでアイツの髪が俺の顔にめちゃくちゃかかるもんだからたまに吸い込みそうになって呼吸が難しかった。風によって流れるアイツの髪の香りはとてもいい匂いである。
「最近はどうなの? 学校とか」
「変わってないよ。高校に入っても」
「そ……、平常運転なのね」
彼女はアクセルをガチャンと変える。
「それよりもさ、どうして僕を誘ったんだよ」
「さぁ……気まぐれかしら? あなたなら暇かと思って」
理由がないのかよ……、ていうかコイツキャラ変わってないか……? 中学校の頃は明るくてクラスの人気者だったのに今では少し冷めた表情をした暗いキャラだ。まるで今の僕みたいに。
「どこに行くの?」
「さぁね。いい感じのところついたらおろす」
どうした? 困惑していたからか、幾分か彼女の腰に回す手の力が強くなってたみたいだ。アイツは「ちょっと……」と声に出した。
「なんか強くなってない? 痛い」
「あ……ごめん。バイク慣れなくて……」
「本当に変わってないのね。あ、このあたりでいいや」
坂道を登り終わって、僕らはあるベンチが置いてある頂上へと到着した。フェンス越しに見える僕らの街はまるでミニチュアのようで僕はしばらくの間それに見入った。アイツは空気を読んで少し待ってからベンチに座る。そして勝手に話し始めた。
「私さ……高校にうまく馴染めなくて。アンタと一緒だった。共有できる話題もないし、何よりなんか怖くてね」
僕は街から視線をアイツへと変える。そしてごく自然と彼女の隣に座った。アイツは冷め切った顔をフッと口角を上げて微笑みを作る。その表情は僕が中学の頃に見てたアイツそのものだった。
「一人、孤立してしまってる時に私はアンタのことを思い出した。真正面から酷いことを言ってしまったって……。ずっと後悔してたから今日呼んだの。幼馴染にバイク乗ってもらいたかったし」
幼馴染……、そう……僕らはこんなのだけど幼馴染なんだよ……。一緒に笑って一緒に育った。あの小さな公園から始まった出会いで中学生まで楽しく過ごせてたんだ。なのに……物心が僕たちの関係を壊していく。けど……僕はアイツの友達になりたかった。アイツみたいにみんなの前で笑っていられるような人になりたかったんだ。
「そっか、大変だよね。人間関係とか……でも、僕は君と幼馴染なんだ……だから……中学の時はごめんね。勝手に距離置いちゃって」
アイツは急にやってきた僕の謝罪に一瞬キョトンとしながらもフッと笑う。
「本当に、アンタは変わってないね。久しぶりだからかわかんないけどお喋りはやっぱり楽しいわ」
口角を上げて真正面から笑うアイツを見て僕は「可愛い……」と心の中で呟く。そして今日は夏祭りがあることを思い出した。夏祭り……アイツ、好きだったよな……。一緒にたこ焼き食べたんだ。アイツが食べさせてくれたっけ、今度は僕から食べさせてあげたい。そう思って僕はゆっくりと口を開く。
「あ、あのさ……」
僕が彼女を異性と意識するまで、あと5秒前
僕が彼女のことを友達と思うまで、あと4秒前
僕が彼女に祭りへ誘うまで、あと3秒前
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