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ふたりの約束

47.結婚式

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 王城にある礼拝堂で、サフィアとアーサーは大司教の前に立っていた。レプティル王国の王族や貴族だけでなく、他国の王族や大貴族が列席している。
 サフィアは、露出の少ない美しい総レースのウエディングドレスに身を包んでいた。照明に刺繍やスパンコールが輝いていて、とても素敵なドレスだ。ヴェールには花々とともに光竜の紋章の刺繍もあって、聖女であることを表している。
 アーサーはレプティル国の軍服に、旅で身に付けていたのと同じ、光竜の紋章が刺繍されたマントを身に付けていた。旅ではもっと動き易く軽い服を着ていたので、軍服姿は新鮮で、とてもかっこいい。

「新郎、アーサー。あなたは聖女サフィアを妻とし、病める時も健やかなる時も、喜びの時も悲しみの時も、これを愛し、敬い、助け合い、国と人々に仕えることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦サフィア。あなたは勇者アーサーを夫とし、病める時も健やかなる時も、喜びの時も悲しみの時も、これを愛し、敬い、助け合い、愛と調和を大切にすることを誓いますか?」
「はい、誓います」

 大司教と目が合い、サフィアは微笑んだ。
 その後、二人は大司教に促され結婚証明書に署名し、誓いのキスをした。キスは何度もしてきたが、やはり結婚の誓いだと思うととても緊張したし、特別な幸福感があった。する前には大司教や国王など人々の前でのキスを恥ずかしく思っていたのに、ヴェールを上げられて直接見るアーサーの美しさに圧倒されて、そんなことは頭から抜け落ちるほどだった。

「では、二人の婚姻が成立しました」

 大司教の宣言を受け、列席者の拍手を受けながら二人は退場した。礼拝堂の外に出ると、民衆の歓声と拍手に迎えられる。普段王城は一般公開されていないが、今日は城門から礼拝堂の前までは立ち入りが許されているのだ。

「勇者様、聖女様、おめでとうございます!」
「アーサー殿下、おめでとうございます!」
「サフィア様ー! アーサー様ー!」

 中には、教会兵の姿も見える。
 元々闇竜討伐と王族の結婚は一大イベントだが、今回は王子の存在が明かされたことと、その王子が勇者だったという異例ながら喜ばしいニュースがあったため、民衆の熱もかなり高く感じた。

「サフィア。……とても綺麗だ。君と一緒になれて、本当に嬉しい」
「わたしもよ、アーサー。今日のあなたは一段とかっこよくて、ドキドキしちゃう」
「君の美しさには敵わないよ」

 式の最中に喋ることができなかったので、やっとお互いの感想を語り合った。そしてお披露目として礼拝堂の前でキスをすると、大歓声が上がる。
 
 人々の祝福の中二人で手を取って進み、パレードのための屋根のない馬車に乗り込む。すると、また大歓声が上がった。なぜか、空から綺麗な花々が降ってきていた。そんな予定はなかったのに何事かと上を見ると、そこには、信じられない光景が広がっていた。

「草竜だ。俺たちを祝いにきてくれたんだ」

 輝く太陽に照らされた青空をバックに、緑色の鱗に包まれた竜が翼を広げて飛んでいた。竜の飛んだあとから、様々な花が降り注いでくる。人々は喜んでそれを手に取り、草竜を見上げていた。
 本来、竜神は自分たちの住処を出ない。人々が竜神をその目で見たのは、おそらく初めてだっただろう。外の騒ぎを聞きつけたのか、礼拝堂の中にいた列席者たちも外に出てくる。そして空を飛ぶ草竜を見て、歓声をあげたり唖然としていたりと、圧倒されているようだった。

「ありがとう、草竜!」

 アーサーが手を振ると、草竜は「グオーン!」と鳴き声を上げ、頭を下に向けた。サフィアは、草竜に向かって感謝の気持ちを込めて礼をした。彼のおかげで、アーサーは生き延び、出会うことができたのだ。
 顔を上げると、草竜と目があった。その緑色の瞳は優しく、サフィアは、アーサーの伴侶として認めてもらえたように感じた。再び礼をして、草竜を見送った。





 草竜の登場もあり、パレードは大成功に終わった。光と草の竜に祝福された夫婦として、誰もが二人の話をした。
 祝賀パーティーでも、社交界に出たこともなく、いまだ政に疎いサフィアとアーサーの一番の不安が列席者とのやり取りだったのだが、旅や草竜の話題が多くだいぶ助かった。

 唯一違う話をしたのは、ニュート・レイスだった。彼は結婚を祝う挨拶の後、頭を下げた。

「殿下。改めまして、わたくしのかつての伯父が申し訳ございませんでした」
「いい。もう君には関係ないだろう」
「……寛大な御言葉に感謝いたします」
「俺こそ、君に謝りたかった。庭園で、失礼な態度をとっただろう。申し訳ない」
「いえ、そんな……。あれは、殿下の気分を害して当然の行いでした。あまりも軽率だったと恥ずかしく思います。申し訳ございません」
「俺が謝ったというのに……。では、お互い様ということにしよう」
「ありがとうございます」

 笑うニュートに、遠くからこちらの様子を窺っていたメアリー姫も、安心したような表情をしていた。
 ハミルトン伯爵の行いのことはあるが、これからきっと上手くやっていけるだろう。
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