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ふたりの約束

44.聖女と姫

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 翌日、大教会へと向かうために馬車へ乗り込もうとしたとき、声をかけられた。

「サフィアさま」
「メ、メアリー殿下!」

 振り向くとメアリー姫がいたので、サフィアは慌てて跪いた。

「いいのよ、お立ちになって」
「は、はい……」

 メアリー姫の許しを得て立ち上がる。姫はサフィアより少し背が高く、美しい銀の髪が日の光に輝いていた。アーサーと姉弟だったと知ってから見ると、なんとなく目元が似ている気がした。

「わたくし、あなたに謝りたいことがありましたの」
「えっ……?」
「あなたたちが心を通わせていたことは、アーサーから聞いておりました。旅の途中、立ち寄っていただいたときの食事会でね。……それでわたくし、あなたに嫌な思いをさせてしまったと気付きましたの。あの頃はアーサーが王子であることを知らなかったから、アーサーがわたくしと結婚するものだと思っていましたでしょう?」
「あ……」

 そういえば、そんなこともあった。あの時はたしかにやきもきしていたが、蓋を開けてみればただ姉弟で食事をしただけ、ということだったのだ。

「あの時は、表向き将来の結婚相手というていでしか弟と会うことができなかったからそうしましたけれど……そこであなたたちのことを聞いて、なんてことをしてしまったのかと後悔しましたわ。申し訳ございませんでした」
「そ、そんな! 頭を上げてください、殿下……。そんな、謝られるようなことではないです。事情も理解できますし……」
「そう? ありがとう。お優しいのね」
「いいいいええ、殿下こそ、わざわざありがとうございます」

 サフィアが慌てて頭を下げると、メアリー姫はふふ、と笑った。場が華やぐような微笑みにサフィアの頬が赤くなる。

「また戻ってきたら、色々お話しましょうね。ずっと兄弟が欲しかったから、弟と義妹ができて嬉しいの」
「もったいないお言葉です……ありがとうございます。わたしも一人だったので、メアリー姫が義姉になってくださるなんて、夢のようです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくね」

 サフィアはメアリー姫に挨拶をして、アーサーの手を借りて馬車に乗った。手を振って見送ってくれるメアリー姫に頬が緩む。アーサーも手を上げてメアリー姫に応えていた。

 馬車が走って暫くして、サフィアはニュート・ハミルトンのことを思い出していた。彼もアーサーの出自を知らないまま、愛するメアリー姫と結婚できなくなることを悲しんでいた。でもアーサーは姫の弟だったので、おそらく、元々の予定どおり姫と結婚するのはニュートになるだろう。彼がアーサーの命を狙ったのでなければ、だが……。

――大丈夫、よね。まだあの暗殺者について調査中とはいえ、まったく調べがついてないことはないはず……。もし容疑者に彼が上がっていたら、姫だってあんな笑顔ではいられないでしょうし……。

 メアリー姫がニュートのことをどう思っているのかは知らない。けれどサフィアはニュートと話したときに、きっと彼らは愛し合っているのだろうと思った。せっかく結ばれることができるのに、それがなくなってしまったら、あまりにも悲しい。ニュートがあの暗殺者と関わっていないことを願った。
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