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ふたりの約束

37.最後の逢瀬(1)※

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 夜になって馬車が止まると、二人は宿屋に入った。護衛たちは宿屋の中に怪しい人物がいないかを確認した後、外を見張っている。
 部屋は別々に取ったが、誰かに見られないうちに、一緒にアーサーの部屋に入った。そしてそのまま、ベッドに座る。身体を向かい合わせて、また紋章が刻まれた手を重ねた。

「本当に、君の命が助かってよかった。これほど、自分が勇者だったことに感謝したことはないよ」

 しみじみと語るアーサーに、サフィアの胸がいっぱいになった。ふわふわとした、夢の中にいるような多幸感に包まれたままアーサーの胸に体を預ける。アーサーはそれを優しく受け止めて、背中に腕を回してくれた。

「私も……私も、聖女で良かった。あなたが、勇者で良かった」

 どちらかに光竜の紋章が刻まれていなかったら、出会うこともなかっただろう。
 サフィアは今までの人生で、誰にも話してはいないが、何度も聖女じゃなければ良かったと思ったことがあった。家族と過ごす人を見たとき。恋人といる人を見たとき。武器を持ったこともないような女性の、タコのない綺麗な手を見たとき。そんな時、いつだって自分に言い聞かせて来た。そんな人々の幸せを守るのは自分にしかできないんだと。これほど名誉なことはないんだと。それが、自分の使命だと。でもずっと、心の奥底では、逃げたいと思っていた。どうして私が、と思っていた。それでも、聖女として闇竜を倒すんだと、前を向いて生きてきた。その全てが、今報われた。きっと自分は、アーサーと出会うために。彼を愛すために産まれて、生きてきたのだ。二人がどんなに惹かれても、結ばれることはない。聖女のサフィアは独り身で生き続け、勇者のアーサーは姫と結婚する。それでも、この出会いは……サフィアの想いは無駄ではない。きっとここが、サフィアの人生での絶頂だ。この時のために生きてきて、この時を思い出しながら生き続ける。

「サフィア……」

 アーサーが笑みを浮かべる。普通の人に比べたら控えめなその表情が、愛しくてたまらなかった。

「好きだ。好きだよサフィア。愛してる」
「私もよ、アーサー。大好き。ほんとうに、愛しているの」

 アーサーの告白に泣きそうになりながら、サフィアも返した。
 死にかけたところを生き返ったからか、魔力を共有したからか、サフィアは身も心もこれ以上ないほどに高まっていた。
 サフィアがアーサーを見上げると、彼は燃えるような熱を秘めた緑の瞳を瞼に隠して、顔を寄せて来た。サフィアも目を閉じて、唇に触れる柔らかい体温を大切に感じ取る。きっとこれが、二人が想いを通じ合わせる最後の機会だから。
 アーサーが唇を離して、サフィアを胸に抱き締めた。

「サフィア……」

 そして、腰のあたりをゆっくりと撫で上げられた。サフィアはぞくぞくと背中を駆け上がる、性感とくすぐったさの間のような感覚に肩を跳ねさせて、アーサーのたくましい体に腕を回した。ドキドキと鳴るアーサーの心臓の音が聞こえてきて、胸がきゅうっと締め付けられる。

「君は……その……もう、体は大丈夫なのか? 無理はさせたくない」
「……大丈夫よ。だから……ね……?」

 これが最後だから、とは言わなかった。
 サフィアが甘えるように額を擦り付けると、アーサーはサフィアの背中を支えながらベッドに倒した。そしてサフィアの後頭部を掴んで、噛みつくようにキスをしてくる。

「んんっ……!」
「ふっ……」

 驚いて開いた唇の間に舌が入り込み、サフィアの舌を絡め取った。いつもより早急で荒々しい口付けに、それだけアーサーも高まっていて余裕がないんだと、サフィアは嬉しさの中で激しいキスに応える。サフィアの吐く息さえも逃がさないように貪られ、舌が動くたびに立つ水音に頭の中を浸食されていった。ぐちゅ、くちゃ、と音が響いて、サフィアの脚がぴくぴくと動く。キスだけなのに下腹部が疼いて、むずむずした。恥ずかしいとは思うけれど、サフィアはそんな自分の興奮を素直に受け止めた。
 闇竜と戦って、魔剣からアーサーをかばって死にかけて、アーサーの魔力で命を繋いで。そんな非現実的なことが続いて、サフィアは今、理性よりも感情や本能の方が勝っていた。

 唇が離れて、二人の熱く赤い舌を太い銀色の糸が繋ぐ。それがぷつんと切れて重力に従って落ち、サフィアの唇を濡らした。アーサーがそれを舐めとってちゅっとリップ音を鳴らしてキスをすると、起き上がって自分の服のボタンを外し始めた。サフィアも起き上がって服の紐を解き、恥ずかしさからアーサーに背を向けて服を脱ぐ。下着姿になったところで、後ろからアーサーに抱き締められた。背中がアーサーの温かい肌に包まれる。初めてのことにドキドキしながらも、サフィアはアーサーに身を預けた。

「これ、脱がしていいか?」
「うん……」

 サフィアが頷くと、アーサーがサフィアの胸元を覆っていた下着を外す。そして空気に晒された二つのふくらみを、それぞれ片手ですくうように持ち上げた。それだけなのにアーサーの手が触れた皮膚からぴりっとした電気が走って、サフィアの呼吸が乱れる。平らとまではいかないがそこまで豊満でもない胸がアーサーの大きくてごつごつとした手に包まれ、緊張に震えるサフィアの身体と呼吸に連動するように、わずかに上下に揺れていた。その様子がはっきりと視界に映って、それを直視できなかったサフィアは視線を逸らす。

「んっ、あっ……」

 見ていない間にアーサーの指が動き、両胸の先の、既に期待に立ち上がった飾りを触られた。身体を走り抜ける性感に、サフィアは甘い声を漏らす。そのままくにくにと指の腹で転がすように撫でられて、サフィアの背中は反射的に反り、アーサーの肩に頭を預けた。

「あ、あっ、ああ、あ、あっ」

 そこを刺激されるたびに、胸から下腹部までを細く長い針で貫かれるような性感に襲われる。しかも、両胸から。サフィアの腰がもじもじと揺れ、逃げるように胸を反らした。しかしその体勢は、もっと、と胸を突き出すようでもあった。初めてのときより余裕があるからか、サフィアはそんな自分の状況に気付いてしまった。そしてそれは、より彼女自身の性感を高める。

――わ、わたしっ……こんな……!

 自分たちの姿をはたから見たらどう映るのかを想像してしまい、サフィアのお腹にきゅっと力が入った。羞恥により、さらに性的興奮を高めていく。
 サフィアが喘いでいると、アーサーは身をかがめて、サフィアの右側から抱き着くようにして乳頭を口に含んだ。指での愛撫で育ち切ったそれを、じゅるっと音を立てながら吸い上げる。

「ふあっ! あ、ああーっ! あっ!」

 サフィアの身体から力が抜け、ずるずるとアーサーの体からベッドへと背中を滑らせていく。アーサーはサフィアの下敷きになった左腕を抜いたが、右胸にしゃぶりつく唇は、そのまま口内にある赤い粒が抜けていかないよう追いかけた。サフィアの敏感な突起が、こりこりとアーサーの舌先に弄ばれる。

「ああっ! あっ、あ、ああっ」

 サフィアが脚を擦り合わせていると、アーサーの手がサフィアの腹を撫で、そのまま下がっていき、下着の中に入ってきた。サフィアの心臓が期待に跳ね上がると同時にアーサーの指先が下生えを撫で、その奥に隠された割れ目へと滑り込む。
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