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闇竜討伐の旅
17.勇者と聖女と民衆
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宿に泊まるために村や町に入れば、どこでも、サフィアとアーサーは歓迎された。
レプティル王国では、よほど財や資源に困っている村でもないかぎり、周囲を壁で囲っている。魔物から町を守るためだ。
町に入る関門で手続きしようとすると、二人は勇者と聖女にしか着用が許されていない、光竜の紋章が刺繍されたマントを身に付けているので、手の平の紋章を見せてくれと言われる。言われたとおり見せれば、もうそれで入れるのだ。
馬を下りて町を歩けば、通りすがりの人に、次々と激励や感謝の言葉をかけられる。
「闇竜討伐、頑張ってください!」
「ありがとうございます。頑張ります」
「立ち寄っていただきありがとうございます。光竜の加護があらんことを」
「ありがとうございます。みなさまにも、光竜のご加護があらんことを」
「勇者様ー! 聖女様ー!」
サフィアはかけられた言葉にお礼を言い、遠くから自分たちを見る者には笑顔で手を振った。そうして、人々の不安を取り除き、希望を与えるのも自分たちの役割だからだ。
けれどアーサーは、そんなときもいつもの仏頂面で、言葉を返す事もなかった。普段からアーサーは、人と暮らしてこなかったためか滅多に表情が変わらないし、あっても僅かなものだ。それはもう、彼の育ちからしてしょうがないことだとサフィアは思っている。人間に慣れない彼にとっては、見ず知らずの人々に次から次へと話しかけられるだけでも大変なことで、気疲れするだろう。だからアーサーに愛想良く振る舞うよう求めるのは酷だろうと、サフィアはアーサーの分も、と思って聖女らしく振る舞うようにしていた。しかし時折、困ってしまう事があった。
「勇者様!」
若い娘がアーサーの前に飛び出ししてきた。馬がびっくりしたように鳴き声を上げる。
「あ、あの……あの……、が、がんばってください!」
「…………ああ……」
勢いよく頭を下げた娘に対して、アーサーは表情を変えることなくそれだけを返し、娘を避けるようにして歩いていった。
顔を上げた娘は、ショックを受けたような顔をして、立ち止まったままだった。
アーサーの見目が良いからか、ずっと見つからなかったのに突如として現れた勇者だからより関心を集めるのか、明らかに彼個人に対して話しかける人がたまにいる。けれどアーサーの調子は変わらないので、サフィアもこれには困っていた。
一部始終を見ていた町の人々がひそひそと話し始める。それは、皆が求めるような優しくたくましい勇者像とずれたアーサーの言動に対してなのか、娘に対してなのか。娘は顔を真っ赤にして、涙を堪えるようとするように眉を寄せていた。サフィアは胸が痛くなって、娘に話しかけた。
「ごめんなさい。勇者様はここに来る前に魔物と戦ったばかりで、疲れていらっしゃるの。あなたの気持ちは伝わっているわ。頑張って闇竜を倒しますからね」
サフィアが語りかけると、娘は涙に濡れた目でキッと睨み、走り去っていった。サフィアは誤魔化すように微笑んで、アーサーのあとを追った。一応これで、アーサーとあの娘のフォローになっていれば良いが。
あの様子だと、アーサーとお近づきになりたかったのだろう。お近づきといっても、ただ少しでも話したかったとか、優しくされたかったとか、その程度だろうとは思う。あれほど美しい男性が勇者として目の前に現れれば、憧れてしまう気持ちも分かるものだ。けれど、相手が悪かったというか、なんというか……。アーサーの気持ちも相手の女性の気持ちも分かるので、サフィアはより辛かった。
レプティル王国では、よほど財や資源に困っている村でもないかぎり、周囲を壁で囲っている。魔物から町を守るためだ。
町に入る関門で手続きしようとすると、二人は勇者と聖女にしか着用が許されていない、光竜の紋章が刺繍されたマントを身に付けているので、手の平の紋章を見せてくれと言われる。言われたとおり見せれば、もうそれで入れるのだ。
馬を下りて町を歩けば、通りすがりの人に、次々と激励や感謝の言葉をかけられる。
「闇竜討伐、頑張ってください!」
「ありがとうございます。頑張ります」
「立ち寄っていただきありがとうございます。光竜の加護があらんことを」
「ありがとうございます。みなさまにも、光竜のご加護があらんことを」
「勇者様ー! 聖女様ー!」
サフィアはかけられた言葉にお礼を言い、遠くから自分たちを見る者には笑顔で手を振った。そうして、人々の不安を取り除き、希望を与えるのも自分たちの役割だからだ。
けれどアーサーは、そんなときもいつもの仏頂面で、言葉を返す事もなかった。普段からアーサーは、人と暮らしてこなかったためか滅多に表情が変わらないし、あっても僅かなものだ。それはもう、彼の育ちからしてしょうがないことだとサフィアは思っている。人間に慣れない彼にとっては、見ず知らずの人々に次から次へと話しかけられるだけでも大変なことで、気疲れするだろう。だからアーサーに愛想良く振る舞うよう求めるのは酷だろうと、サフィアはアーサーの分も、と思って聖女らしく振る舞うようにしていた。しかし時折、困ってしまう事があった。
「勇者様!」
若い娘がアーサーの前に飛び出ししてきた。馬がびっくりしたように鳴き声を上げる。
「あ、あの……あの……、が、がんばってください!」
「…………ああ……」
勢いよく頭を下げた娘に対して、アーサーは表情を変えることなくそれだけを返し、娘を避けるようにして歩いていった。
顔を上げた娘は、ショックを受けたような顔をして、立ち止まったままだった。
アーサーの見目が良いからか、ずっと見つからなかったのに突如として現れた勇者だからより関心を集めるのか、明らかに彼個人に対して話しかける人がたまにいる。けれどアーサーの調子は変わらないので、サフィアもこれには困っていた。
一部始終を見ていた町の人々がひそひそと話し始める。それは、皆が求めるような優しくたくましい勇者像とずれたアーサーの言動に対してなのか、娘に対してなのか。娘は顔を真っ赤にして、涙を堪えるようとするように眉を寄せていた。サフィアは胸が痛くなって、娘に話しかけた。
「ごめんなさい。勇者様はここに来る前に魔物と戦ったばかりで、疲れていらっしゃるの。あなたの気持ちは伝わっているわ。頑張って闇竜を倒しますからね」
サフィアが語りかけると、娘は涙に濡れた目でキッと睨み、走り去っていった。サフィアは誤魔化すように微笑んで、アーサーのあとを追った。一応これで、アーサーとあの娘のフォローになっていれば良いが。
あの様子だと、アーサーとお近づきになりたかったのだろう。お近づきといっても、ただ少しでも話したかったとか、優しくされたかったとか、その程度だろうとは思う。あれほど美しい男性が勇者として目の前に現れれば、憧れてしまう気持ちも分かるものだ。けれど、相手が悪かったというか、なんというか……。アーサーの気持ちも相手の女性の気持ちも分かるので、サフィアはより辛かった。
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